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1.夫の浮気1
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「アザミ、これは何かの間違いなんだ!僕を信じてくれ!!」
椅子に座る私の前に膝まずき、両手を握りしめているのは夫のシレネ。上目遣いで見つめてくる夫の姿は眼福……うっ!美形は卑怯だ。その顔は反則でしょう!潤んだ目で見つめないで!!私は彼のこの顔に弱い。とても弱いの。でも……。
「ごめんなさい。貴男を信じる事はできないわ」
私は夫の手を振りほどき、自分の手を重ねた。
「どうしてだい?僕はこんなにも君を愛しているのに!」
夫は涙をためて訴えてくるが、そんな顔をしてもダメなものはダメなのだ。
事の始まりは一通の手紙から始まった。
「誰……?」
渡された手紙に内心首を傾げた。差出人に全く心当たりがなかったから。無意識に呟いてしまう程に。記憶にない名前。つい手紙を持ってきた家令のクロスに訊ねた。それだけ身に覚えがなかったから。
「クロス、この名前に覚えはある?」
「申し訳ございません、アザミ様。そのような名前の人物に覚えはございません。少なくとも、ここ三十年間で一度も聞いた事のないお名前です」
「そう……」
クロスは『瞬間記憶』の能力者。
その彼が「覚えがない」と言うならば間違いない。少なくとも三十年は交流のない名前である事は確かだった。
ただ、女性名である事が少々気になった。
それに開封しないという選択肢は、私にはない。封を切り、手紙を読み始めた。そこに書かれていた内容に「あらまぁ……」と驚きの声を出してしまった。
長々と書き連ねていた内容は簡略すると「お宅の旦那の愛人だ。妊娠したから責任とれ」というもの。ご丁寧に現住所まで記載されていた。
要は、ここにいるから迎えを寄こせ――と言ったもの。
豪胆と言うべきか、愚かと言うべきか。何とも図々しい女性がいたものだと逆に感心してしまった。只の愛人風情が正妻に物申すなど……ありえない。少なくとも立場を弁えた人間ならこんな愚かな行動はしない。この話が本当だとしても。何故、夫の子供の面倒を私が見なければならないの?責任?私にはないでしょう?
「クロス、この名前の女性を調べてちょうだい」
「畏まりました」
流石に手紙だけで判断する訳にはいかない。裏付けは大事だし、詐欺の場合もあるし……きちんと調べなければね。
結果、手紙の女性は『黒』。
間違いなく夫と関係を持っている女性の一人。ただし、女性のお腹の子供の父親候補は数名いると分かったので「当家では責任は取れない事」をしっかりとクロスが説明してくれた。
もっとも、説明されても「この子は次の子爵よ!」と喚いたので、我が家の顧問弁護士が話し合いの場を持ち、幼児にも分かるように懇切丁寧に説明してくれた。
「真っ青になっておりました」
「あら?彼女知らなかったの?」
「はい」
「近隣の領地では有名なのに……」
「どうやら数ヶ月前に引っ越してこられたようです」
「あぁ……そういうこと」
つまり、新参者だったために子爵家の当主が『私』だと知らなかったらしい。なんというオチだろう。その女性は「どうして男が当主じゃないの!!」と発狂していたそう。子供を身籠れば正妻を追い出して自分が『妻』になれると夢見ていたのだろう。それが蓋を開けてみれば『当主は妻』のパターン。追い出されるのは『夫』の方。
「罵詈雑言の嵐でございました」
よほど口汚く罵っていたようだわ。
この国で女性の当主は確かに極少数。けれど、全く居ない事もない。
まぁ、手紙の女性が勘違いするのも無理なかった。
「どうやら、ビブリア子爵を名乗っていたようです」
「あらら……それで勘違いが加速したのね」
「そのようです」
なっとく。
夫は自ら「子爵」を名乗っていた。もっとも、浮気相手にしか言ってなかったから今まで問題なかったらしい。浮気相手の女性達も外で風潮するような人を選んでなかったという事か……。
婿養子に家督を継がす例は結構多いけれど、うちの子爵家は別だった。
当主はこの『私』。
アザミ・ビブリア女子爵である。
椅子に座る私の前に膝まずき、両手を握りしめているのは夫のシレネ。上目遣いで見つめてくる夫の姿は眼福……うっ!美形は卑怯だ。その顔は反則でしょう!潤んだ目で見つめないで!!私は彼のこの顔に弱い。とても弱いの。でも……。
「ごめんなさい。貴男を信じる事はできないわ」
私は夫の手を振りほどき、自分の手を重ねた。
「どうしてだい?僕はこんなにも君を愛しているのに!」
夫は涙をためて訴えてくるが、そんな顔をしてもダメなものはダメなのだ。
事の始まりは一通の手紙から始まった。
「誰……?」
渡された手紙に内心首を傾げた。差出人に全く心当たりがなかったから。無意識に呟いてしまう程に。記憶にない名前。つい手紙を持ってきた家令のクロスに訊ねた。それだけ身に覚えがなかったから。
「クロス、この名前に覚えはある?」
「申し訳ございません、アザミ様。そのような名前の人物に覚えはございません。少なくとも、ここ三十年間で一度も聞いた事のないお名前です」
「そう……」
クロスは『瞬間記憶』の能力者。
その彼が「覚えがない」と言うならば間違いない。少なくとも三十年は交流のない名前である事は確かだった。
ただ、女性名である事が少々気になった。
それに開封しないという選択肢は、私にはない。封を切り、手紙を読み始めた。そこに書かれていた内容に「あらまぁ……」と驚きの声を出してしまった。
長々と書き連ねていた内容は簡略すると「お宅の旦那の愛人だ。妊娠したから責任とれ」というもの。ご丁寧に現住所まで記載されていた。
要は、ここにいるから迎えを寄こせ――と言ったもの。
豪胆と言うべきか、愚かと言うべきか。何とも図々しい女性がいたものだと逆に感心してしまった。只の愛人風情が正妻に物申すなど……ありえない。少なくとも立場を弁えた人間ならこんな愚かな行動はしない。この話が本当だとしても。何故、夫の子供の面倒を私が見なければならないの?責任?私にはないでしょう?
「クロス、この名前の女性を調べてちょうだい」
「畏まりました」
流石に手紙だけで判断する訳にはいかない。裏付けは大事だし、詐欺の場合もあるし……きちんと調べなければね。
結果、手紙の女性は『黒』。
間違いなく夫と関係を持っている女性の一人。ただし、女性のお腹の子供の父親候補は数名いると分かったので「当家では責任は取れない事」をしっかりとクロスが説明してくれた。
もっとも、説明されても「この子は次の子爵よ!」と喚いたので、我が家の顧問弁護士が話し合いの場を持ち、幼児にも分かるように懇切丁寧に説明してくれた。
「真っ青になっておりました」
「あら?彼女知らなかったの?」
「はい」
「近隣の領地では有名なのに……」
「どうやら数ヶ月前に引っ越してこられたようです」
「あぁ……そういうこと」
つまり、新参者だったために子爵家の当主が『私』だと知らなかったらしい。なんというオチだろう。その女性は「どうして男が当主じゃないの!!」と発狂していたそう。子供を身籠れば正妻を追い出して自分が『妻』になれると夢見ていたのだろう。それが蓋を開けてみれば『当主は妻』のパターン。追い出されるのは『夫』の方。
「罵詈雑言の嵐でございました」
よほど口汚く罵っていたようだわ。
この国で女性の当主は確かに極少数。けれど、全く居ない事もない。
まぁ、手紙の女性が勘違いするのも無理なかった。
「どうやら、ビブリア子爵を名乗っていたようです」
「あらら……それで勘違いが加速したのね」
「そのようです」
なっとく。
夫は自ら「子爵」を名乗っていた。もっとも、浮気相手にしか言ってなかったから今まで問題なかったらしい。浮気相手の女性達も外で風潮するような人を選んでなかったという事か……。
婿養子に家督を継がす例は結構多いけれど、うちの子爵家は別だった。
当主はこの『私』。
アザミ・ビブリア女子爵である。
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