20 / 64
20.女たちの謀 参
しおりを挟む
下半身露出の逆さ男たちは、検非違使に連れて行かれた。
検非違使も災難だ。
何故、下半身丸出しの男たちを池から引き出し、遺体を保管しなくてはならないのか。
一生に一度あるかないかの珍事。
憐れ、検非違使たち。
検非違使は困惑しながらも、己の職務を真っ当した。
「検非違使も大変ね」
「誰のせいだ、誰の!」
「誰かしら?実行犯?それとも指示した者?それとも、それを許可した者?」
否定できない。
どう考えても犯人が悪い。
こちらは実行犯を撃退しただけのこと。
正当防衛だ。
人様の敷地内に無断で侵入したのだ。覚悟はできているはず。
数は少ないが恐らく夜盗の類……と思っていた。
が、まさか貴族階級だったとは。
「中納言家の息子までいたとは……」
「息子?ああ、あの下半身露出の逆さ男たちの親の一人ね。ご両親も気の毒に。露出狂の変態貴族だと誤解されているわ。きっと」
「……」
「そうそう、左大将の息子も露出仲間よ」
「は?」
「息子の変態行為がよほど衝撃だったのでしょうね。左大将は自ら謹慎しているらしわ。近々、官位を朝廷に返上するのではないか、と噂されているわ」
「……それはまた……」
「息子を教育しなかった、親の責任は重大よね」
「……」
もう言葉も出ない。
自業自得といえばそうだが……。
「時次お義兄さま、気付いていた?」
「何に、だ?」
「あの露出狂四人組、公卿の息子ばかりだけれど、全員、跡取りにはなれない連中だってこと」
「うん?」
「妾腹。または末っ子」
「つまり、出世できない連中ばかりということか?」
「そう」
「なるほど。それで、か」
「ええ」
要は、捨て駒。
トカゲのしっぽ切りだ。
家に命令されて侵入してきたのか。
誰か別の高位の存在に命じられたのか。
「狙いは何だ?私か?それとも父上か?」
「お・に・い・さ・ま、鈍い。鈍いわ。ここには主上の御子を身籠った女人がいるでしょう」
「……狙いはお前だと?」
「そう考えるのが自然でしょう」
「だが、我が家に侵入してお前を殺したところで何になる?少なくとも御子は生まれないだろうが……」
そこまでする理由が分からない。
殺すなら、毒でも盛ればいい。
屋敷の誰かに金子を握らせ、蓮子の膳に毒を仕込むよう命じればいい。
夜盗に見せかけて殺すにしても、その道のプロに暗殺を請け負わせればいいだけ。
わざわざ自ら手を汚そうとしてまですることではない。蓮子を殺すことに何の意味があるのだ。
思案顔の時次を眺め、蓮子は笑った。
(妙なところで鈍いのよね。時次お義兄さまも。お義父さまも。どうしても“殺害”が先にくるのよね。この辺は男と女の考えの違いなのかしら?殿方も普通に考えつくと思うのだけれど)
蓮子は気付いている。
今回の黒幕は複数いることを。
背後に妃たちがいることを。
里下がりをしている今がチャンスと、自分を狙ったことも。
内裏と違い不慮の事故が起こらないとも限らない。
どこかの貴公子が美しい姫君に懸想して夜這いをかけてくることも、ないとは言えない。
屋敷の姫君が帝の寵妃だと知らない世間知らず貴族がいないとも限らない。
恋い慕った姫君が身重の身だと知らなかった場合もあるだろう。
複数で楽しみたいと、姫君を拉致監禁する輩がいないとも限らない。
屋敷には数多の女房たちがいる。
全員が忠義者という保証はない。
金で動く者、夫や息子の出世を願う者、多種多様だ。
女房の手引きで屋敷内へ潜り込める。
彼女たちに寝所まで案内させれば、後は造作もないこと。
乱暴されて子供が流れれば儲けもの。尚侍が二度と子を産めない体になれば、なお良し。そんな下衆な思惑が渦巻いていたとしても、なんら不思議はない。
だから蓮子は、悩み続ける時次に告げる。
女たちの思惑を。
彼女たちが仕掛けてきた罠を。
検非違使も災難だ。
何故、下半身丸出しの男たちを池から引き出し、遺体を保管しなくてはならないのか。
一生に一度あるかないかの珍事。
憐れ、検非違使たち。
検非違使は困惑しながらも、己の職務を真っ当した。
「検非違使も大変ね」
「誰のせいだ、誰の!」
「誰かしら?実行犯?それとも指示した者?それとも、それを許可した者?」
否定できない。
どう考えても犯人が悪い。
こちらは実行犯を撃退しただけのこと。
正当防衛だ。
人様の敷地内に無断で侵入したのだ。覚悟はできているはず。
数は少ないが恐らく夜盗の類……と思っていた。
が、まさか貴族階級だったとは。
「中納言家の息子までいたとは……」
「息子?ああ、あの下半身露出の逆さ男たちの親の一人ね。ご両親も気の毒に。露出狂の変態貴族だと誤解されているわ。きっと」
「……」
「そうそう、左大将の息子も露出仲間よ」
「は?」
「息子の変態行為がよほど衝撃だったのでしょうね。左大将は自ら謹慎しているらしわ。近々、官位を朝廷に返上するのではないか、と噂されているわ」
「……それはまた……」
「息子を教育しなかった、親の責任は重大よね」
「……」
もう言葉も出ない。
自業自得といえばそうだが……。
「時次お義兄さま、気付いていた?」
「何に、だ?」
「あの露出狂四人組、公卿の息子ばかりだけれど、全員、跡取りにはなれない連中だってこと」
「うん?」
「妾腹。または末っ子」
「つまり、出世できない連中ばかりということか?」
「そう」
「なるほど。それで、か」
「ええ」
要は、捨て駒。
トカゲのしっぽ切りだ。
家に命令されて侵入してきたのか。
誰か別の高位の存在に命じられたのか。
「狙いは何だ?私か?それとも父上か?」
「お・に・い・さ・ま、鈍い。鈍いわ。ここには主上の御子を身籠った女人がいるでしょう」
「……狙いはお前だと?」
「そう考えるのが自然でしょう」
「だが、我が家に侵入してお前を殺したところで何になる?少なくとも御子は生まれないだろうが……」
そこまでする理由が分からない。
殺すなら、毒でも盛ればいい。
屋敷の誰かに金子を握らせ、蓮子の膳に毒を仕込むよう命じればいい。
夜盗に見せかけて殺すにしても、その道のプロに暗殺を請け負わせればいいだけ。
わざわざ自ら手を汚そうとしてまですることではない。蓮子を殺すことに何の意味があるのだ。
思案顔の時次を眺め、蓮子は笑った。
(妙なところで鈍いのよね。時次お義兄さまも。お義父さまも。どうしても“殺害”が先にくるのよね。この辺は男と女の考えの違いなのかしら?殿方も普通に考えつくと思うのだけれど)
蓮子は気付いている。
今回の黒幕は複数いることを。
背後に妃たちがいることを。
里下がりをしている今がチャンスと、自分を狙ったことも。
内裏と違い不慮の事故が起こらないとも限らない。
どこかの貴公子が美しい姫君に懸想して夜這いをかけてくることも、ないとは言えない。
屋敷の姫君が帝の寵妃だと知らない世間知らず貴族がいないとも限らない。
恋い慕った姫君が身重の身だと知らなかった場合もあるだろう。
複数で楽しみたいと、姫君を拉致監禁する輩がいないとも限らない。
屋敷には数多の女房たちがいる。
全員が忠義者という保証はない。
金で動く者、夫や息子の出世を願う者、多種多様だ。
女房の手引きで屋敷内へ潜り込める。
彼女たちに寝所まで案内させれば、後は造作もないこと。
乱暴されて子供が流れれば儲けもの。尚侍が二度と子を産めない体になれば、なお良し。そんな下衆な思惑が渦巻いていたとしても、なんら不思議はない。
だから蓮子は、悩み続ける時次に告げる。
女たちの思惑を。
彼女たちが仕掛けてきた罠を。
101
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」
まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。
(完)そこの妊婦は誰ですか?
青空一夏
恋愛
私と夫は恋愛結婚。ラブラブなはずだった生活は3年目で壊れ始めた。
「イーサ伯爵夫人とし全く役立たずだよね? 子供ができないのはなぜなんだ! 爵位を継ぐ子供を産むことこそが女の役目なのに!」
今まで子供は例え産まれなくても、この愛にはなんの支障もない、と言っていた夫が豹変してきた。月の半分を領地の屋敷で過ごすようになった夫は、感謝祭に領地の屋敷に来るなと言う。感謝祭は親戚が集まり一族で祝いご馳走を食べる大事な行事とされているのに。
来るなと言われたものの私は王都の屋敷から領地に戻ってみた。・・・・・・そこで見たものは・・・・・・お腹の大きな妊婦だった!
これって・・・・・・
※人によっては気分を害する表現がでてきます。不快に感じられましたら深くお詫びいたします。
夫が正室の子である妹と浮気していただけで、なんで私が悪者みたいに言われないといけないんですか?
ヘロディア
恋愛
側室の子である主人公は、正室の子である妹に比べ、あまり愛情を受けられなかったまま、高い身分の貴族の男性に嫁がされた。
妹はプライドが高く、自分を見下してばかりだった。
そこで夫を愛することに決めた矢先、夫の浮気現場に立ち会ってしまう。そしてその相手は他ならぬ妹であった…
完結・私と王太子の婚約を知った元婚約者が王太子との婚約発表前日にやって来て『俺の気を引きたいのは分かるがやりすぎだ!』と復縁を迫ってきた
まほりろ
恋愛
元婚約者は男爵令嬢のフリーダ・ザックスと浮気をしていた。
その上、
「お前がフリーダをいじめているのは分かっている!
お前が俺に惚れているのは分かるが、いくら俺に相手にされないからといって、か弱いフリーダをいじめるなんて最低だ!
お前のような非道な女との婚約は破棄する!」
私に冤罪をかけ、私との婚約を破棄すると言ってきた。
両家での話し合いの結果、「婚約破棄」ではなく双方合意のもとでの「婚約解消」という形になった。
それから半年後、私は幼馴染の王太子と再会し恋に落ちた。
私と王太子の婚約を世間に公表する前日、元婚約者が我が家に押しかけて来て、
「俺の気を引きたいのは分かるがこれはやりすぎだ!」
「俺は充分嫉妬したぞ。もういいだろう? 愛人ではなく正妻にしてやるから俺のところに戻ってこい!」
と言って復縁を迫ってきた。
この身の程をわきまえない勘違いナルシストを、どうやって黙らせようかしら?
※ざまぁ有り
※ハッピーエンド
※他サイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
小説家になろうで、日間総合3位になった作品です。
小説家になろう版のタイトルとは、少し違います。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
婚約破棄はいいですが、あなた学院に届け出てる仕事と違いませんか?
来住野つかさ
恋愛
侯爵令嬢オリヴィア・マルティネスの現在の状況を端的に表すならば、絶体絶命と言える。何故なら今は王立学院卒業式の記念パーティの真っ最中。華々しいこの催しの中で、婚約者のシェルドン第三王子殿下に婚約破棄と断罪を言い渡されているからだ。
パン屋で働く苦学生・平民のミナを隣において、シェルドン殿下と側近候補達に断罪される段になって、オリヴィアは先手を打つ。「ミナさん、あなた学院に提出している『就業許可申請書』に書いた勤務内容に偽りがありますわよね?」――
よくある婚約破棄ものです。R15は保険です。あからさまな表現はないはずです。
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。
(完結)姉と浮気する王太子様ー1回、私が死んでみせましょう
青空一夏
恋愛
姉と浮気する旦那様、私、ちょっと死んでみます。
これブラックコメディです。
ゆるふわ設定。
最初だけ悲しい→結末はほんわか
画像はPixabayからの
フリー画像を使用させていただいています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる