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国王2
しおりを挟む……ピチャ。
水滴が落ちる音が聞こえる。
頭が痛い。
体が動かせない。
何かに縛りつけられているようだ。
目隠しをされて何も見えない。
ここは何処だ?
「お目覚めですか?」
「誰だ!? 国王である私に危害を加えてタダで済むと思っているのか!」
一体何者だ?
「酷い事を仰る。僕ですよ、父上」
「な……に?」
「久しぶりに帰って来た息子に酷い事を言わないでください」
息子だと?
私の息子は亡くなったエドワードだけだ!
「冗談も大概にせい! 私の息子は死んだ!」
たった一人の息子だ。
出来が悪くても可愛い子だった。
「私の息子はもういない……痛ましい事故だった」
突如、男が笑い出した。
「くっふ……ふふ…あっははははは!!」
見えないが笑い転げているのが分かる。国王に対してこんな無礼な笑い方をする者はいない。嗤っている声は悪意に満ちていた。
「あーっはははははは! 僕を笑い死にさせる気ですか? 事故とは恐れ入りますよ。僕達を殺そうと刺客を放っておいて……『事故死』ときた! 一国の王になるには相当面の皮が厚くないとなれないようですね!」
「なぜ……」
そのことを知っているのは極限られた者だけのはず……まさか本当に?
本物のエドワードだというのか!?
バカな。
どうやって生き残ったというんだ!
「友人達が助けてくれなかったら確実に死んでました。ふふふっ。父上にとってはとんだ誤算だった事でしょう。邪魔な存在が居なくなったと思ったら生きて帰って来るんですから。そういえば、王妃様も上手く始末したんですね。この場合、『おめでとうございます』と言うべきですか?」
何を言っているんだ?
王妃は地方巡礼に行っているはずだ。
「エド、例の物が見つかったよ」
「……ジン」
「久しぶりの親子対面の邪魔しちゃったかな?」
「いや、大丈夫だ」
「そう? 感動の涙の御対面だったんじゃないの?」
「息子を殺そうとした親だぞ?」
「あはっ! そうだった!そうだった!」
誰だ?
随分陽気な男の声だ。
「で? コレどうするの? 殺しちゃう? ……それとも飼う?」
「僕はどちらでもいい」
「ならさ、僕にくれない?」
「王印が見つかった以上、コレは必要ない。何に使うつもりなんだ?」
「やだな~、僕は画家だよ? 国王最後の瞬間を画く機会は逃せられないよ!」
「そういうものか?」
「そういうもんだよ! もう今からワクワクするよ!」
「なら、これはジンに任せる」
「うん。会いたくなったら何時でもおいでよ」
コツコツコツ……。
足音が遠のく。
帰っているのは息子と名乗った男の方だということは嫌でも理解する。
「これから、よろしくね。国王陛下」
先ほどの陽気な声は何だったのかと思う程、酷く暗い声だった。
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