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王子1

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僕は婚約者であったキャサリンを嫌ってはいなかった。ただ好きでもなかった。昔からどこか苦手意識があったのは否めない。幼い頃から「優秀な令嬢」と評判だった従妹。常の微笑みを絶やさない気品ある振る舞い。キャサリンはいつも僕の先を歩いていた。父上が決めた婚約者。公爵令嬢とはいえ王子の僕に対等に意見を言い堂々とした態度はどちらが王族が分からない程だった。

王族に対して不愉快な態度をとり続ける婚約者。

僕はずっとそう思ってきた。
会うたびに、「王族のすべき振る舞いではございません」、「王家のためになるものではありません」、「私たちがしっかりとしなければ国は直ぐにでも衰退に向かってしまうのです。学生の身だからと甘えるのはおやめください」といった小言を聞かされた。

気に入らない。
そう思うのに時間はかからなかった。
賢ぶって、大人たちが言うような忠告を並べ立ててくるのも気に入らなかった。
だが、何よりも気に入らなかったのは父上がキャサリンをしていた事だ。
実の息子よりも優先順位が上だった。
そのことについて周りは父上に何も言わない。寧ろ、当然であるかのような態度だった。そのことも気に食わなかった。たかだか臣下の娘に何故そこまで特別扱いするのか理解出来なかったからだ。アレックスから聞かされなければ今も分からないままだった。父上も周囲もキャサリンを「帝国皇女」として扱っていたのだ。昔を思い起こしていると周囲はしきりに「キャサリンと仲良くしてください」といっていたな。学園に入る前は「キャサリン様を見習ってください」と言われてきたが……。
特に不仲であった訳ではない。
定例のお茶会には参加していたし、パーティーには必ずエスコートしていた。誕生日を始めとした定期的なプレゼントも欠かした事はなない。にも拘わらず周囲は「キャサリン様を大切になさってください」という。これ以上どうやって大切にすればいいのか分からなかった。皆がキャサリンの名前を出すたびにモヤモヤする気持ちになる。「大事にしろ」と口で言う方はいいだろう。だが誰もを教えてはくれなかった。

一度、父上が母上にするような愛情表現口づけをキャサリンにもと行動した事があった。その時は、王家と公爵家の護衛達が僕を羽交い締めにしてきた。そのまま父上の元にまで連行されてこっぴどく叱られたものだ。父上の隣に座っていた王妃様からは「品のない行為をキャサリン様にすべきではない」と言われ一ヶ月間の謹慎を言い渡された。しかも出てくる料理は固いパンと薄いスープだけ。
 
僕がというんだ?
皆が言うように「仲良くしよう」としただけだ!
そう主張すればするほど、何故か、僕に対する周囲の評価は下がるだけ。
落胆した表情を隠すこともなく教育係達からは「考えて行動なさってください」といわれる。
失礼な!
考えた末の行動だ!
なのに、「エドワード殿下は国王陛下とは違います。は婚姻後に行うもの。ましてや人前でそういった行為はしないものです」との応えが返ってきた。
父上も母上も人前で愛を確かめ合っていたぞ?
あれは間違いなのか?
それとも教育係達が言うように「婚姻後」だから許される行為だったのか?
もっとも、そのことを教育係達に質問する事はなかった。

数年後、アリスと出会って、僕の愛情表現が何も間違っていない事を知った。

「愛し合う者同士なら当然の行為だわ。人前だろうと愛を確かめあるべきよ!」

その言葉に慰められた。
僕はやはり間違っていないのだと。
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