上 下
25 / 70

宰相の息子3

しおりを挟む
「ジュリエット殿は頼もしいな。ヴィエンヌ王国でもよろしく頼む」

「それは私が言わなければならないセリフですわ」

「そうか?」

「そうですとも」

「ふふふふ」「ほほほほほっ」

系統の違う美貌の令嬢二人が見つめ合って笑い合う姿は知らない者が見れば万福だろう。

「アテナとジュリエット嬢は気が合うようだな。歳も離れているし、性格が正反対のようだから心配していたが大丈夫そうで安心した」

「……性格は似ているかもしれないぞ」

アテナ嬢は僕達より2つ上の21歳、それに対してジュリエットは16歳だ。確かに年齢が少し離れているから話などが合わないと心配するアレックスの気持ちも分かるが。女性らしく綺麗な物を好むジュリエットだが中身は実に男らしい。
幼少期は下の弟達を拳一つでいう事を聞かせ、着実に舎弟を増やしていたからな。今の姿からは考えられない子供時代だ。
姉弟喧嘩も凄かった。
ジュリエットの圧勝だ。殴る蹴るを繰り返し、そこに付け入る隙は全くない。一時は飛び蹴りまで繰り出していた程だ。憐れなのはジュリエットの弟達だ。実の姉に体でなのかを理解させられたのだからな。彼らは一生ジュリエットに頭が上がらないだろう。武闘派の傾向にあるアテナ嬢と気が合うのも納得するばかりだ。

 
はそれだけ魅力的というものだ」

アレックス……?

「アテナとジュリエット嬢で『義姉妹の契り』を交わすのも良いかもしれないな」

「はっ!? 『義姉妹の契り』?なんだそれは……『義兄弟の契り』の間違いではないのか!?」

アレックスがおかしな事を言いだした。
何だ、『義姉妹の契り』とは。普通、『義兄弟の契り』だろう!
生死を共にする覚悟を男同士で誓う儀式だ。
特に、戦乱の時代に多かった「約束事」だ。平和な今では廃れた古臭い慣習といってもいい。戦場に出征する男達の間で交わされる「約束事」は、実際には女性の救済を意味している。要は「私が戦死したら、生き残った義兄弟のお前がの面倒をみてくれ」という意味が込められている。場合によってはそれが「母」や「姉妹」、「恋人」になる時もある。

「保護される側である女性の間ではそんな契りを交わす必要性はないだろう?」

「本当にそう思うか?」

「常識的に考えて契りを結ぶのなら僕達の方だろ……」

「インドアの私たちには縁のない話だよ」

「僕は兎も角、アレックスは違うだろ?学園を卒業した後も鍛えているじゃないか」

「それでもお遊戯みたいなものだよ。なにしろ実地経験が無いからね」

ん!?
実地の経験……まさかアレックス…ジュリエットの事を知っているのか?
いや、まさかな。
は子供の時の話だ。
ジュリエットのヤンチャ時代を知っている者は貴族社会では少ない。というか、大体がジュリエットの下僕だ。今は実弟たちの下僕になっているようだが……。

「ジュリエット嬢もアテナ同様にだと聞いているからね」

ああ、狩猟のことか。驚いたぞ。

「戦う二人はさぞかし強いことだろうね」

アレックス、これ以上言うな。言葉の裏を読み取るマネはしたく無いんだ。
僕はメガネの位置を直すふりをしながらアレックスを盗み見る。
普段通りの穏やかな笑顔だが、今はその微笑みが恐ろしく感じる。

一週間後にはこの国を出るというのに不穏な空気に満ちている事に気付かないフリをした。
 
しおりを挟む
感想 194

あなたにおすすめの小説

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

処理中です...