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王子6
しおりを挟む部屋に着くまでの間アリスはブツブツと呟いていた。隣にいながらも小さ過ぎる声は生憎と聞き取れなかった。時折、「お兄様」とか「選んで」とか「お母様が」と言うのが辛うじて聞こえる程度だ。
母と兄。
何かあるのか?
先ほどの王妃様との会話によると、異母兄はアリスが七歳の時に病死している。
王妃様も仰っていたが、歳の離れたアリスを異母兄は随分可愛がっていたようだ。
実父が幼少期に亡くなったせいで、母親がブロワ公爵と再婚するまでは貴族生活とは言えない暮らし向きだった事を少し聞いた事がある。メイドも一人しか雇えない有り様だったとか。
昔話をしたがらないアリスに無理強いする訳にもいかなかった。聞いた事と言えば些細な事ばかりだ。
『着る物も質素だったし食べる物も薄いスープと固い黒パンが多かったわ。まるで労働階級のような生活よ!私は、もう二度とあんな日々を思い出したくないし、あんな生活に戻るなんて嫌だわ!』
『周りに同じ歳のお友達がいなかったから学園に来れて嬉しいわ』
『お茶会?男爵家は酷い貧乏でとてもお茶会が出来るような環境じゃなかったの……もう聞かないで』
思い返しても、僕は自分が思った以上にアリスの事を知らないみたいだ。
いや、そんなはずはない。
知らないのは男爵令嬢であった時のものだ。
今を知っていればそれでいいじゃないか。
『ブロワ公爵邸に入った時、お城に来たのかと思ったほどだったのよ。
大理石の玄関に、眩いばかりのシャンデリア。なのに、私とお母様は離れの別邸で暮らさないといけなくなったの…どうして?公爵様とお母様は結婚したのよ?私も公爵令嬢でしょう?お母様だって公爵夫人だわ!なのに、社交界に出られないってどういうことなの!?』
『同じ公爵家の娘なのに……私とお義姉様には明確な差があるわ。
ドレスもアクセサリーもお義姉様の方がずっと上質な物ばかり使っているのよ。不公平だわ!公爵家の者達もそれが当然とばかりの対応なのよ!!!』
『皆、酷いわ。お茶会の招待状を送ったのに誰も来てくれなかった。欠席の返事ばかり……私、嫌われているんだわ。お義姉様も落ち込んでいる私なんか気にも留めないで、本邸でお友達と楽しく遊んでいるのよ!!!』
アリスは高位貴族になっても差別されている。
だからこそ、僕が守ってあげないといけない存在なんだ!
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