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王子3
しおりを挟む午前中はマナーというよりも令嬢としての嗜みを見るだけのものだった。
てっきり厳しいマナー教育に入るとばかり思っていたので僕もアリスも少々拍子抜けした。
音楽とダンス。
どちらもアリスの好きなものだった。
ダンスのパートナーは僕が務めた。
例え学ぶための作業でもアリスの細腰に他の男が触れるなど我慢ならない事だ。
王妃様も「エドワード殿下が未来の妻の貞淑を求めるのは当然のことです」と仰って許可してくださった。
これには僕もアリスも喜びを隠すことが出来なかった。
王妃様が僕の参加を促したのは、王太子妃になるアリスを不埒な目で見る者達を牽制する狙いがあったのだな。
僕は王妃様を誤解していたようだ。
他の口さがない者達とは違う。
王妃様ならアリスの素晴らしさを理解してくださるだろう。
アリスと一緒に踊るのは久しぶりだ。
卒業パーティーも途中でお開きになってしまったので踊ることが出来なかったのだ。
相変わらず難しいステップも軽やかに舞う姿は妖精のようだ。
優雅なばかりで冒険心のないキャサリンとのダンスと違ってアリスとのダンスはワクワクする事の連続だ。
音楽は、ピアノを弾く。
随分と難しい演目を選んだようだ。
少し不安になったが、よほど弾き込んだのだろう。危なげなく弾きこなしている。
プロ顔負けの正確さを誇るが冷たい印象が拭えないキャサリンの音とは、まるで正反対だ。
暖かい中ではっとする音を出すのだ。
これがプロなら「新しい音の発見だ」と喜ぶ処だろう。
他は兎も角、音楽とダンスでいえばアリスの方が才能がある。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、気付けば昼近くになっていた。
「折角なので昼食も一緒に頂きましょう。これもマナー教育の一環です」
王妃様の一言で、アリスとの昼食が可能になった。
婚約者といえども、アリスは王族ではない。
そのため、食事を一緒に取ることは出来なかった。
一度、父上に抗議したことがある。
キャサリンが婚約者だった時、彼女は普通に王族席を用意されていたからだ。義妹のアリスにも許されてしかるべきと思ったからだ。
父上はこれだけはお認めにならなかった。
「キャサリンとアリス嬢とでは立場が違う。
公爵令嬢とはいえ、キャサリンは王族だ。王族として席があるのは当然だろう。
その点、アリス嬢は男爵令嬢だ。例え、今は公爵家の者になっていたとしても、アリス嬢には王家の血は一滴も入っておらん!!!」
そう仰った父上が恨めしかったが、後に続いた言葉に納得する他なかった。
「私とて、そなたの母である側妃と一緒に食事をした事はないぞ!」
確かに、父上と母上が一緒になって食事をしている姿は生まれてこのかた見た事が無かった。
勿論、私と母上が共に食事をとった事もない。物心ついた頃には食事マナーとして、教育係が傍で指導していた。
王家に嫁いだといっても側妃である母上は王族ではないのだ。王族に成るには「正妃」でなければならない。
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