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王子2
しおりを挟むキャサリンに婚約破棄を宣言した後の事は分からない。
寝室に軟禁同然だった事もそうだが、誰も僕に教える者がいなかったからだ。僕もあえて知ろうとはしなかったが、噂で隣国に留学したと聞いた。暫く帰ってこないと聞いて安堵したのは言うまでもない。
父上が一人息子の僕の願いを叶えてくれたのだ。
『アリス・ブロワが妃教育を修了した暁にはエドワードと結婚させる。これは決して覆すことのできない条件である』
その言葉を聞いた時は涙が止まらなかった。
息子よりも他人を常に気にかけ贔屓していた父上が、僕を選んでくれた瞬間だった。
妃教育は厳しいが、アリスなら大丈夫だと思ったのだ。
なにしろ、キャサリンと同じ公爵家で育っているのだから。
この時、僕は気付かなかった。
アリスの母親である現ブロワ公爵夫人が社交界に出られない訳を。
そして、十歳まで男爵令嬢として育ったアリスが下位貴族としての教育しか受けておらず、公爵令嬢となった今も尚、高位貴族の教育を受けずにきた事実を知らなかった。
結婚の条件は全てアリスに伝え、彼女もしっかり理解してくれた。
「自信はありませんけど、エドワード様のために頑張ります」
健気に言ってくれるアリスが可愛かった。
「アリス、僕達の結婚は、恐らく王太子夫妻としてのお披露目もあっての事だ。気を引き締めてくれ」
「勿論です」
遅かれ早かれ「王太子妃」になるのだ。
どの道、妃教育は受けなければならない。
そうして始まった妃教育は難航した。
アリスは直ぐに「出来ない」と喚き、教育係と言い合う姿に、僕は頭を抱えざるをえなかった。
一人、また一人と教育係が辞めていく。
実をいうとシルバー夫人で八人目だ。
既に王宮でも噂になっている。
僕とアリスを見る目は日々厳しいものになっているのだ。この分では、市井にまで噂が流れかねない。
癇癪が収まったであろうアリスの様子を見に部屋のドアを開けると、そこにはグズグズと泣き続けるアリスの姿があった。
淡い金の髪を乱れさせ、この世の終わりのように泣き続けるアリスの姿は何処までも儚い。
慣れない王宮での暮らしと厳しい妃教育に精神を苛まれている事は医者に診せなくとも理解している。
それでも、僕との未来のために彼女には頑張って貰わないといけないのだ。
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