8 / 27
8.報告(ベアトリクスside)
しおりを挟む
ランドルト侯爵家の三姉妹の真ん中に生まれた娘。
それが私、ベアトリクス・ランドルト。
侯爵家は、どこの派閥にも属していない中立を保ち続けている。
建国当時から続く、由緒正しい家柄。
建国以来の宮廷貴族で領地を持たずに、政財界で力をふるってきた。
王家も無視できない力を持っている。
だからこそ、婚姻に置いても慎重になるし、なにより“血統保持”にうるさい。
もっとも“血統保持”に関しては古い血筋ほど、管理下に置かれているので我が家だけではない。
なのに……
「お父様。レーゲンブルク公爵の嫡男達が男爵家の庶子と大変親密な関係を築いております。速やかに手を打ってください」
「わかった」
父は書類に判を押しながら、小さく頷いた。
驚かないところを見ると、もう把握しているのでしょうね。
「王家も動いている。……本当にいいのか?」
父は書類から顔を上げずに尋ねてきた。
婚約者の処遇についてだろう。
王家が動いたとなると生半可な処罰では済まない。
「もちろんです」
そう答えると、父は小さく溜め息をついた。
「わかった。……確かに伝えたぞ」
そう言うと父は再び書類に判を押す。
私はそれを確認して、父に頭を下げた。
「お気遣い、感謝します」
そしてそのまま部屋を後にした。
これで男爵家は終わりだ。
公爵家もどうなることか……。王家が動くということは、そういうことだ。
王家が絡んでいる婚姻契約だというのに、それを反故にするかのような言動。彼らは理解していないのか、それとも忘れ去っているのか。
どちらにしても、身の程知らずも甚だしい。
「それにしても……、困ったわ」
婚約者の挿げ替え、もしくは他家との婚約。
いずれ王家から下されるだろう。
そこに、当事者の意思は反映されない。
まぁ、王家が絡まない結婚であっても、貴族の結婚の場合は個人の意思など殆ど無視される。
極々稀に、相思相愛の相手と結ばれるケースは稀にあるが、それも数十年に一度あるかないか。
兄姉が多く、地盤固めが不要な末っ子なら「好きな人と結婚していい」と言われることもあるだろう。殆どないけど。ただし、その場合は「これ以上の地盤固めをすると上の連中から睨まれるから」が理由だ。もっと深読みするなら「上の相手を選ぶなよ。下を選べ。ただし敵対派閥はダメだ。中立派閥から選べ」とか。別の意味で無理難題を吹っ掛けられるので、正直言って自由結婚も地獄である。
「はぁ……」
私は溜め息をついた。
この年齢で婚約解消。憂鬱だった。
同年代の目ぼしい令息は、既に婚約済み。
ほぼほぼ狩りつくされて、残っているのは残りかす。運よく有望物件を捕まえられたとしても、相手はワケアリ物件だろう。
本当に憂鬱だわ。
まぁ、幸いなことに王家が動いてくださったおかげで、不名誉なレッテルを貼られずに済みそうだけど。
「偉そうなことは言えないわね。私もこれでワケアリの傷物物件だもの」
それが私、ベアトリクス・ランドルト。
侯爵家は、どこの派閥にも属していない中立を保ち続けている。
建国当時から続く、由緒正しい家柄。
建国以来の宮廷貴族で領地を持たずに、政財界で力をふるってきた。
王家も無視できない力を持っている。
だからこそ、婚姻に置いても慎重になるし、なにより“血統保持”にうるさい。
もっとも“血統保持”に関しては古い血筋ほど、管理下に置かれているので我が家だけではない。
なのに……
「お父様。レーゲンブルク公爵の嫡男達が男爵家の庶子と大変親密な関係を築いております。速やかに手を打ってください」
「わかった」
父は書類に判を押しながら、小さく頷いた。
驚かないところを見ると、もう把握しているのでしょうね。
「王家も動いている。……本当にいいのか?」
父は書類から顔を上げずに尋ねてきた。
婚約者の処遇についてだろう。
王家が動いたとなると生半可な処罰では済まない。
「もちろんです」
そう答えると、父は小さく溜め息をついた。
「わかった。……確かに伝えたぞ」
そう言うと父は再び書類に判を押す。
私はそれを確認して、父に頭を下げた。
「お気遣い、感謝します」
そしてそのまま部屋を後にした。
これで男爵家は終わりだ。
公爵家もどうなることか……。王家が動くということは、そういうことだ。
王家が絡んでいる婚姻契約だというのに、それを反故にするかのような言動。彼らは理解していないのか、それとも忘れ去っているのか。
どちらにしても、身の程知らずも甚だしい。
「それにしても……、困ったわ」
婚約者の挿げ替え、もしくは他家との婚約。
いずれ王家から下されるだろう。
そこに、当事者の意思は反映されない。
まぁ、王家が絡まない結婚であっても、貴族の結婚の場合は個人の意思など殆ど無視される。
極々稀に、相思相愛の相手と結ばれるケースは稀にあるが、それも数十年に一度あるかないか。
兄姉が多く、地盤固めが不要な末っ子なら「好きな人と結婚していい」と言われることもあるだろう。殆どないけど。ただし、その場合は「これ以上の地盤固めをすると上の連中から睨まれるから」が理由だ。もっと深読みするなら「上の相手を選ぶなよ。下を選べ。ただし敵対派閥はダメだ。中立派閥から選べ」とか。別の意味で無理難題を吹っ掛けられるので、正直言って自由結婚も地獄である。
「はぁ……」
私は溜め息をついた。
この年齢で婚約解消。憂鬱だった。
同年代の目ぼしい令息は、既に婚約済み。
ほぼほぼ狩りつくされて、残っているのは残りかす。運よく有望物件を捕まえられたとしても、相手はワケアリ物件だろう。
本当に憂鬱だわ。
まぁ、幸いなことに王家が動いてくださったおかげで、不名誉なレッテルを貼られずに済みそうだけど。
「偉そうなことは言えないわね。私もこれでワケアリの傷物物件だもの」
832
お気に入りに追加
1,263
あなたにおすすめの小説
姉が私の婚約者と仲良くしていて、婚約者の方にまでお邪魔虫のようにされていましたが、全員が勘違いしていたようです
珠宮さくら
恋愛
オーガスタ・プレストンは、婚約者している子息が自分の姉とばかり仲良くしているのにイライラしていた。
だが、それはお互い様となっていて、婚約者も、姉も、それぞれがイライラしていたり、邪魔だと思っていた。
そこにとんでもない勘違いが起こっているとは思いもしなかった。
幼馴染か私か ~あなたが復縁をお望みなんて驚きですわ~
希猫 ゆうみ
恋愛
ダウエル伯爵家の令嬢レイチェルはコルボーン伯爵家の令息マシューに婚約の延期を言い渡される。
離婚した幼馴染、ブロードベント伯爵家の出戻り令嬢ハリエットの傍に居てあげたいらしい。
反発したレイチェルはその場で婚約を破棄された。
しかも「解放してあげるよ」と何故か上から目線で……
傷付き怒り狂ったレイチェルだったが、評判を聞きつけたメラン伯爵夫人グレース妃から侍女としてのスカウトが舞い込んだ。
メラン伯爵、それは王弟クリストファー殿下である。
伯爵家と言えど王族、格が違う。つまりは王弟妃の侍女だ。
新しい求婚を待つより名誉ある職を選んだレイチェル。
しかし順風満帆な人生を歩み出したレイチェルのもとに『幼馴染思いの優しい(笑止)』マシューが復縁を希望してきて……
【誤字修正のお知らせ】
変換ミスにより重大な誤字がありましたので以下の通り修正いたしました。
ご報告いただきました読者様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
「(誤)主席」→「(正)首席」
王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
【完結】え? いえ殿下、それは私ではないのですが。本当ですよ…?
にがりの少なかった豆腐
恋愛
毎年、年末の王城のホールで行われる夜会
この場は、出会いや一部の貴族の婚約を発表する場として使われている夜会で、今年も去年と同じように何事もなく終えられると思ったのですけれど、今年はどうやら違うようです
ふんわり設定です。
※この作品は過去に公開していた作品を加筆・修正した物です。
大恋愛の後始末
mios
恋愛
シェイラの婚約者マートンの姉、ジュリエットは、恋多き女として有名だった。そして、恥知らずだった。悲願の末に射止めた大公子息ライアンとの婚姻式の当日に庭師と駆け落ちするぐらいには。
彼女は恋愛至上主義で、自由をこよなく愛していた。由緒正しき大公家にはそぐわないことは百も承知だったのに、周りはそのことを理解できていなかった。
マートンとシェイラの婚約は解消となった。大公家に莫大な慰謝料を支払わなければならず、爵位を返上しても支払えるかという程だったからだ。
婚約を破棄したいと言うのなら、私は愛することをやめます
天宮有
恋愛
婚約者のザオードは「婚約を破棄したい」と言うと、私マリーがどんなことでもすると考えている。
家族も命令に従えとしか言わないから、私は愛することをやめて自由に生きることにした。
フランチェスカ王女の婿取り
わらびもち
恋愛
王女フランチェスカは近い将来、臣籍降下し女公爵となることが決まっている。
その婿として選ばれたのがヨーク公爵家子息のセレスタン。だがこの男、よりにもよってフランチェスカの侍女と不貞を働き、結婚後もその関係を続けようとする屑だった。
あることがきっかけでセレスタンの悍ましい計画を知ったフランチェスカは、不出来な婚約者と自分を裏切った侍女に鉄槌を下すべく動き出す……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる