上 下
70 / 82
200年後

67.勇者の力

しおりを挟む
 
 普通の人間に戻ってきている、という勇樹さん。

「それは魔王を倒したから、ということですか?」

「私はそう考えています。魔法を使うにも威力がないというか……。まあ、私の場合は攻撃魔法なので使用できなくても問題はないでしょうが……」

 勇樹さんの話からすると、他の勇者は治癒魔法や補助魔法が得意分野だったらしい。
 ただ、体の変化と魔王討伐について関係があるかもしれないと、勇樹さんは考えている。
 自分でも「あれ?」と思う程度の違い。それでも違和感は拭えない。

「役目を果たしたから力を失ってきている。そう考えるのが自然です」

 勇樹さんの言うことは一理ある。
 もちろん、すぐには失うことは無いでしょう。
 ですが、徐々に力を失っていくパターンは……ありでしょう。物語的にも。

「今回の勇者も賢い者はいるな」

 ボソッと呟いたゴールド枢機卿の一言は、あまりに小さい声で聞き取れませんでした。

「え?何か言いましたか?」

「いや、なんでもな~~い。あ!このケーキ美味しいね」

 ゴールド枢機卿はニコニコと用意されたケーキを食べています。
 なんだかいつもと様子がおかしいような……気のせいでしょうか?




 ゴクリ。
 紅茶を飲み干したゴールド枢機卿が語りだします。

「勇樹くんの言うことは粗方正しい」

「ならやはり力を失ってしまうんですか?」

「全員がそうとは言い切れない。勇樹くんは戦闘に特化していたから力を失い始めていると感じたんだろう。まぁ、多少失ってしまうのは仕方ない」

「では、他の勇者は……」

「そっちも多少は能力は落ちるかもね。ただ、それも推測の域を出ない。まあ、魔王もいなくなったことだし、ゆっくりと様子見をするしかないね」

「そうですね。ゴールド枢機卿、ありがとうございました」

「うん」

 勇樹さんは理由が分かったのかスッキリとしています。
 私はまだ混乱中ですが。

「さて、この話はここまで!僕、お腹が空いたよ。もっとケーキを持ってきて!」

 ゴールド枢機卿がいつものように我儘を言いだしました。
 彼は自分の欲求を満たすことに関してはとても貪欲な方なのです。
 はぁ。仕方ない人。


 その後、私達が危惧していた勇者たちの力が失われたという報告はありませんでした。

 もっとも各国が秘密にしている場合もありますが、ゴールド枢機卿が「魔王を倒したことで起こる変化」という話を広く公表してくれたので彼らを非難する者はいません。いまのところは。
 各国もある程度の理解を示してくれましたし、勇者たちも「それはそれで仕方ない」と受け入れているようです。

 まぁ、力がなくなったといっても普通の人間に戻るだけですから。
 特に問題はないと思いますけど。

 この時はそう考えていました。
 しかし、その三年後。
 とある勇者の一人が死刑になるという事件が起こったのでした。

 公開処刑ではなく、秘密裏での死刑として。



しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

家柄が悪いから婚約破棄? 辺境伯の娘だから芋臭い? 私を溺愛している騎士とお父様が怒りますよ?

西東友一
恋愛
ウォーリー辺境伯の娘ミシェルはとても優れた聖女だった。その噂がレオナルド王子の耳に入り、婚約することになった。遠路はるばる王都についてみれば、レオナルド王子から婚約破棄を言い渡されました。どうやら、王都にいる貴族たちから色々吹き込まれたみたいです。仕舞いにはそんな令嬢たちから「芋臭い」なんて言われてしまいました。 連れてきた護衛のアーサーが今にも剣を抜きそうになっていましたけれど、そんなことをしたらアーサーが処刑されてしまうので、私は買い物をして田舎に帰ることを決めました。 ★★ 恋愛小説コンテストに出す予定です。 タイトル含め、修正する可能性があります。 ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いいたします。 ネタバレ含むんですが、設定の順番をかえさせていただきました。設定にしおりをしてくださった200名を超える皆様、本当にごめんなさい。お手数おかけしますが、引き続きお読みください。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。 ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。 さらっとハッピーエンド。 ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。

捨てられた私が聖女だったようですね 今さら婚約を申し込まれても、お断りです

木嶋隆太
恋愛
聖女の力を持つ人間は、その凄まじい魔法の力で国の繁栄の手助けを行う。その聖女には、聖女候補の中から一人だけが選ばれる。私もそんな聖女候補だったが、唯一のスラム出身だったため、婚約関係にあった王子にもたいそう嫌われていた。他の聖女候補にいじめられながらも、必死に生き抜いた。そして、聖女の儀式の日。王子がもっとも愛していた女、王子目線で最有力候補だったジャネットは聖女じゃなかった。そして、聖女になったのは私だった。聖女の力を手に入れた私はこれまでの聖女同様国のために……働くわけがないでしょう! 今さら、優しくしたって無駄。私はこの聖女の力で、自由に生きるんだから!

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

処理中です...