50 / 82
100年後
48.シャルル王太子視点4
しおりを挟む
「どうしたの?」
「いえ……」
「何か言いたい事があるのでしょう?」
母上に見透かされた。
流石は母親というところだろう。なんでも見通している。
「母上、ひとつ聞いても構いませんか?」
「なにかしら」
「何故、母上は父上と別れないのですか?」
「おかしな事をいうのね。別れる理由なんてないでしょう?」
「ですが、父上と離縁なされば母上は実家に帰る事ができます」
「何故?」
「母上の身分ではこのような暮らしをなさる必要はないと言っているのです。侯爵家から定期的に手紙が届いている事も知っています」
そうなのだ。
母の実家は母上の窮状を知って父上と離縁して戻って来るようにという内容の手紙を送ってくる。
母上はそんな実家の願いを聞き入れず、離婚を拒んでいる状態なのだ。
「あなたは誤解しているようね」
「誤解ですか?」
「そうよ。私は何も後悔はしていないわ。王家に嫁いだ時から覚悟はしていた事ですもの。確かに生活環境の変化には戸惑ったけど、今の生活に不満はないの」
「不満がないですか?」
信じられなかった。
侯爵家の令嬢として生まれ育ち、王妃にまでなった女性がこのような不自由な生活を強要され不満に思わない筈がない。笑っていても、それは表面的なものだとばかり思っていた。本心を隠すのが王侯貴族というものだ。
「あなたは未だ分かっていないのね」
母上の言葉が理解できなかった。
何を言いたいのか分からない。
数年後、母が屋敷をホテルに改装した。
屋敷の敷地内には果樹園もある。軌道に乗るのはまだまだ先だったが、いずれは収益を上げるだろうと言われていた。
元王家所有の屋敷という触れ込みは宣伝効果があったようだ。
村人をホテルの従業員として雇い入れて運営をしている。
このホテルが国一番の人気を誇るようになるとは、この時は誰も予想していなかった。
その頃には父は他界し、私は商人として忙しく働く毎日だったからだ。
結局、私は国に留まる選択はしなかった。
新しい場所で、誰も知らないところで何もかも最初から始めた。
商人の世界は思った以上に厳しかった。
貴族社会でないにも拘わらず、彼等は私の事を知っていた。
商人は情報が命だ――
私に商売を教えた人物の言葉だ。
自由になったと思ったのに、以前よりも不自由を感じた。
王族でなくなったことにより私は守る術を失っていた。
何度も騙された。
身ぐるみはがされる寸前まで行った事もある。
それでもなんとか切り抜けてきた。
その度にあの頃の自分を悔やんだ。そして今の自分を見て嘲笑する。
ただただ生きる事に必死になっているだけだ。
だが、不思議と辛くはなかった。
それが普通だと知ったからだ。これが自分の選んだ道なのだから……。
そんな日々の中で時折、聖王国の話を聞く。
元婚約者は『聖女』になったと――――
「いえ……」
「何か言いたい事があるのでしょう?」
母上に見透かされた。
流石は母親というところだろう。なんでも見通している。
「母上、ひとつ聞いても構いませんか?」
「なにかしら」
「何故、母上は父上と別れないのですか?」
「おかしな事をいうのね。別れる理由なんてないでしょう?」
「ですが、父上と離縁なされば母上は実家に帰る事ができます」
「何故?」
「母上の身分ではこのような暮らしをなさる必要はないと言っているのです。侯爵家から定期的に手紙が届いている事も知っています」
そうなのだ。
母の実家は母上の窮状を知って父上と離縁して戻って来るようにという内容の手紙を送ってくる。
母上はそんな実家の願いを聞き入れず、離婚を拒んでいる状態なのだ。
「あなたは誤解しているようね」
「誤解ですか?」
「そうよ。私は何も後悔はしていないわ。王家に嫁いだ時から覚悟はしていた事ですもの。確かに生活環境の変化には戸惑ったけど、今の生活に不満はないの」
「不満がないですか?」
信じられなかった。
侯爵家の令嬢として生まれ育ち、王妃にまでなった女性がこのような不自由な生活を強要され不満に思わない筈がない。笑っていても、それは表面的なものだとばかり思っていた。本心を隠すのが王侯貴族というものだ。
「あなたは未だ分かっていないのね」
母上の言葉が理解できなかった。
何を言いたいのか分からない。
数年後、母が屋敷をホテルに改装した。
屋敷の敷地内には果樹園もある。軌道に乗るのはまだまだ先だったが、いずれは収益を上げるだろうと言われていた。
元王家所有の屋敷という触れ込みは宣伝効果があったようだ。
村人をホテルの従業員として雇い入れて運営をしている。
このホテルが国一番の人気を誇るようになるとは、この時は誰も予想していなかった。
その頃には父は他界し、私は商人として忙しく働く毎日だったからだ。
結局、私は国に留まる選択はしなかった。
新しい場所で、誰も知らないところで何もかも最初から始めた。
商人の世界は思った以上に厳しかった。
貴族社会でないにも拘わらず、彼等は私の事を知っていた。
商人は情報が命だ――
私に商売を教えた人物の言葉だ。
自由になったと思ったのに、以前よりも不自由を感じた。
王族でなくなったことにより私は守る術を失っていた。
何度も騙された。
身ぐるみはがされる寸前まで行った事もある。
それでもなんとか切り抜けてきた。
その度にあの頃の自分を悔やんだ。そして今の自分を見て嘲笑する。
ただただ生きる事に必死になっているだけだ。
だが、不思議と辛くはなかった。
それが普通だと知ったからだ。これが自分の選んだ道なのだから……。
そんな日々の中で時折、聖王国の話を聞く。
元婚約者は『聖女』になったと――――
184
お気に入りに追加
4,024
あなたにおすすめの小説
実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです
サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――
聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話
下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。
主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。
小説家になろう様でも投稿しています。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる