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100年後

45.シャルル王太子視点1

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 枢機卿団の者達。
 聖王国の外交官達。
 王国の重臣達。

 大勢に囲まれ、命じられるままに、父上は差し出された書類にサインをしていく。
 数日の間にすっかり疲れてしまっている両親。

 私は一人、彼らと離れた場所に座らされていた。
 椅子に何らかの細工が施されているのだろう。立ち上がる事ができない。


「お、おやめください……」

 私の声に耳を傾ける者はいない。

「やめ……父上……なぜ……」

「何故?おかしな事を言うね」

 誰だ!?
 耳元で話しかけられる。振り向きたいのに金縛りにあったように動けない!

「君のせいで王国は終わるんだ」

「!!」

 私のせい?
 国が終わる?
 どういうことだ……?

「ねぇ、なんで、あの子を大切にしなかったの?」

 何を言っている?
 あの子?

「婚約者を大事にするのは基本だよ」

 囁く声は子供のように高いのにどこか老いた響きがあった。
 一体、誰が喋っているというのか。
 私は、この声の主を知らない。

「二度も同じことをするなんてね。君、バカなの?」

「な、なんの事だ?」

「あ~~~、自覚ないタイプか。大勢の前で婚約者に恥をかかせておいて、何食わぬ顔で婚約を続けようとする神経がわかんない」

 この時、漸く自分の婚約者の件で怒っているのだと理解した。
 ならば、この声の持ち主は聖王国の者か?

「私は正直に話した」

「それってさぁ、衆人環視の中で言う必要あった?ないよね?」

「それは……」

「あの子が君に何かした?何もしてないよね?婚約だって国が決めた事だ」

 確かにそうだが……。
 私だけじゃない。彼女だって国の意向で婚約をしていた。

 だけど……。

「彼女は笑っていた」

 いつも微笑みを浮かべていた。
 幸せそうに。

「おかしいじゃないか……嫌なはずなら、あんな顔はしないだろう?無理して笑っているのとは違っていた……」

 そうだ。
 本当に婚約が嫌ならもっとこう……。

「おかしいのは君の方だろ?」

「え?」

「嫌だろうが何だろうが、国の為に婚約したんだ。喧嘩をしに来た訳じゃない。君は不機嫌な相手に好意を持つ特殊なタイプなの?普通はね、笑っている方が印象が良い。そうじゃないかい?」

「そ、それは……」

「なのに浮気しちゃってさぁ。まぁ、結婚した後に分かるよりマシだ。君の両親も聖王国に謝罪しているしね。もっとも、謝罪されたところで許すわけないけど」

「申し訳ないと思っている」

「君は思っているだけだよね。行動に移してない」

「……謹慎処分を受けていた」

「でも手紙くらいは書けるよね?」

 ぐっ。
 確かにその通りだった。

「それにさぁ。君は反省していないよね?むしろ自分の行いの何が悪かったのかさえ理解していないんじゃない?」

「ち、違う!」

 心外だった。そんなつもりはない! だが私の反論など無視され続けた。

「ねぇ、どうして君は彼女に恥をかかせたんだろうね?」

「……分からない」

 本当に分からないのだ。
 彼女が傷つくとは想像できなかった。

「じゃあ、どうして婚約を続けたいなんて言ったんだい?君の言葉があったから『もい一度チャンスが欲しい』なんて王国は思ったんじゃない?」

「それは……国に迷惑をかけたから……」

「そのせいで君の恋人が暴走したって言うのに?」

「ラティーがあんなことをするなんて思ってもみなかった」

「思いたくないだけでしょ?」

 そう言われれば否定はできない。
 ラティーは行動的だ。
 それでも他国の王族を襲う計画を立てていたなど考えられない!
 実行に移すとは普通は思わないだろう!!

「君の恋人が言ってたよ。自分は何も悪くないとね。王太子に選ばれなかった女を始末して何が悪いのかと喚いていた。ああ、君が婚約をやり直そうと聞いたから計画を立てたらしい」

 父上から聞いた。
 ラティーを晒したのは私かと聞かれた。「違う」と答えたが「それを信じる者は少ない」と苦々しげに言われたのを覚えている。

 信じて欲しいのに信じてくれない。

「君達一族は揃いも揃って馬鹿なんだね」

 酷い言われようだ。
 言い返す気力もない。
 ただ呆然としている間に全てが終わった。




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