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番外編~在りし日の彼ら~

49.容疑者3

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 十日後。
 ロイドは釈放された。もちろん無罪放免ではなく条件付きでの釈放だった。しかし警察側も下手に手出しはできない状況であったため条件を受け入れる他はなかった。
 

「世間ってのは薄情ですよね」

「ん?どうした」

「あんだけ殺人事件に騒いでたのに時間が経つと皆忘れるんですよ。ニュースなんて毎日のように殺人の話ばかりなのに三日も経つと話題にならないんですから」

「次の事件を報道するんだ。仕方ないだろ?」

「それはそうなんでしょうけど」

「容疑者は釈放され、犯人の目星さえないんだからな」

「どうなるんですか?この事件?」

「どうにもならないさ。ただな、迷宮入りは間違いないだろうな」

「やっぱりですか……」

 警部に言われるまでもなく、彼自身も薄々感じてはいた。
 今回の事件に関して警察は手詰まりなのだと。
 警察の捜査方法では真犯人に行き着く事はないだろうと――

 
 彼らが思っていた通り事件は解決する事はなく未解決のまま捜査は打ち切りになった。事件当時は騒ぎ立てていたメディアも今では誰もその事件に関心をよせないのだから不思議なものだ。それだけ人間は他人には無関心で興味がないということなのだろう。


 

 そして一年が過ぎた頃――


 とある街角で一人の女性が待ち人を待っていた。
 そこは人通りが多く雑踏と喧騒の中にあった。スラリとしたモデル風の体型に長い髪、顔立ちも整っており、道行く男達が思わず振り返ってしまうほど美しい女性であった。

「やあ、待ったかい?」

 彼女の待ち人は遅れてやって来た。時間にして約束より五分程遅れている。
 しかし彼女は笑顔を浮かべながら言う。
 
「いいえ。大丈夫」
 
「そうか、なら行こう。用件は話しながら聞くよ」
 
「こんな場所で……」
 
「フッ。こんな場所だからさ。木を隠すなら森の中というじゃないか」
 
 男は楽し気に言い女性の肩を抱き寄せる。そして彼女もまたそれを自然に受け入れていた。そのまま二人は雑踏の中に消えていった。


 その一週間後、ある有名ダンサーが自殺した。
 遺書はなかったが警察は自殺と判断したらしい。彼女が死ぬ少し前に恋人と上手くいっていないと知人に漏らしてたという事と彼女のSNSに『もう疲れた』といったような内容が書かれていた事から自殺とされた。それ以外に不審な点が無かったためでもある。

 そう、自殺と判断された彼女の恋人がロイド・マクスタードという以外は――――

 


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