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番外編~在りし日の彼ら~

48.容疑者2

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「そうですか。いえ、ご協力感謝いたします」

 高級マンションを後にした刑事の二人は依然と聞き込み調査をしていた。
 もっとも目ぼしい情報はない。ただ『被害者の女性』がどうも容疑者のロイドに言い寄っていたようで色々と揉めていたようではあったようだが。それでも有力な証言とは程遠いものであった。そもそも捜査自体が難航しているのが現状だ。容疑者にアリバイがないのと同様にこれといった証拠もなかった。

「被害者の女性の交友関係を洗った方がいいかもしれませんね」

「ああ。被害者はモデルだ。それも随分と派手に遊んでいたって話だ」

「はい。ですけど容疑者と付き合うようになってからはそうでもなかったみたいです」

「モデル仲間からの評判は最悪だがな」

「ショービジネスの世界は競争も苛烈ですからね」

「そうなると……容疑者の範囲は広がるだろうな。被害者にこっぴどく振られた連中もかなりいたって話だ」

「それを言うなら容疑者の男もですよ。数人と同時進行で付き合っているんですから……」

「怨恨の線が濃厚だろうな」

「警部……」

「ん?なんだ?」

「警部はどうお考えなんですか?やはり犯人は収容された容疑者だと……?」

「いや、あの男は違うだろう」

「なぜですか?唯一の証拠である指紋がでてきていますよ?」

 部下が差し出す報告書の束をパラパラと捲りながら上司の男は首を横に振るだけだった。
 
「奴が犯人なら指紋なんか残さないさ。もっとも手口が素人のそれじゃないからな」

「プロということでしょうか?」

「そこまでは知らん。しかし少なくとも誰かに依頼された可能性もあるかもな。依頼人が容疑者の指紋を残しておいてくれとでも頼んだのかもしれん。そう考えれば辻褄があう」

「まさか……こんな危険な事を誰の依頼で?」

「さあな?だが金次第で何でもやる奴なら可能性はあるぞ。なにせ、金で犯罪をする連中はロンドンの裏社会には腐るほどいるからな。お前もよく知っているだろう?」

 ニヤリと笑う上司の言葉を聞いた彼は苦笑しながらも首肯するしかなかった。年々治安が悪化している現実を嫌でも目にしているのだ。治安の悪化に伴いテロも頻発している。引退した刑事たちからしたら「昔のテロ活動よりはマシ」という話だが、若い世代からすると頻繁に起こる小規模のテロの方が精神的に応えるのだ。

(まだまだ甘いな。若いからか?ポーカーフェイスができていない。少なからず容疑者を疑っていた口だな)

 警部である彼は部下の若い男の心の内を理解していた。
 だからこそ釘をさす。

 犯人は他にいると――――
 
 上の連中もバカではない。
 初めから容疑者の男が犯人とは思っていない。
 それでも手掛かりは彼一人であることも確か。真犯人の狙いが分からない以上は彼を野放しにはできなかった。収容したのも真犯人の魔の手にかからないための処置だ。
 

「とにかく俺は一旦署に戻る。後は任せたからな」

「はい。ご苦労様です」

 敬礼して見送る部下に軽く手を振ると、彼はロンドン市内へ続く地下鉄の入り口へと姿を消した。

 
 真犯人の目星はまだつかない――――



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