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番外編~在りし日の彼ら~

45.悩み

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 最近、ロイドにはある悩みがあった。
 こういう時、普通なら家族や友人に相談するだろう。
 しかしロイドには相談する相手が残念ながら存在しなかった。
 なので、仕方なく……本当に仕方なく、イートン校OBの「紳士クラブ」で嘗ての同級生たち相手に相談した。彼ら「紳士クラブ」のメンバーの口の堅さには定評があったからだ。



「――――というわけでさ、なんかマスミを見てるとついつい触りたくなるんだよ」

 スコッチを飲みながら話す内容にその場は沈黙した。

「毎日ハグしてるんだけど、抱き心地も抜群なんだよね。最近は頬ずりしてみたんだけどこれがまたプニプニしていて気持ちいいんだ!」

 ロイドはまるで子供のように嬉々としながら話しているのだが、周りから見ればその光景は変態そのものにしか見えないのだ。「こいつをなんとかしろよ……」と誰もが思った。
 そもそもなんで自分達にそんな話を振って来るのか意味が分からない。しかも内容が下世話すぎる!と全員が思った。
 ロイドにとっては「悩みの相談」であっても他者にとっては「変態の告白」にしか聞こえないのだから、当然といえばそうなのかもしれない。

「日本人はスキンシップが苦手だろう?キス一つさせてくれないんだ。酷いと思わないかい?」

 酷いのはお前の頭の中だ、と思ったが誰も何も言えなかった。何故ならこの場に居る全員にとってロイドの恋愛事情などどうでも良かったからだ。むしろ関わり合いになりたくなかったのだ。だが、次の言葉でその思いは覆った。
 
「パソコンやスマホの待ち受け画面のマスミを見るだけでなんだかムズムズするんだよね。飾ってある写真なんかもあるから余計にだよ」

 ――ゴフッ!! 飲もうとしていた酒を噴き出す者が続出した。
 
(((((なに言ってんだ!!? このアホは!!!)))))

 全員が同時に心の中で叫んだ。
 それでもロイドの口は止まらない。

(((((誰かこのアホの口を塞いでくれ……)))))

 
 皆の心の声が届いたのか、勇気のある一人が恐る恐る声をかけた。


「え~っと、ロイド? ちょっといいか?」

「ん?なんだい?」

「その『写真』と『待ち受け』というのは?」

 顔を引き攣らせながら尋ねる様子はとても紳士とは思えない程滑稽だったが本人と周囲は気にしない。笑顔で聞ける内容ではない。とはいえ、エスカレートしそうなロイドの話をそのまま聞くことはできなかった。精神的に。


「決まっているじゃないか!待ち受け場面をマスミにしてるからだし、デスクにはマスミとの思い出の写真が飾ってあるからだよ!!」

 ごくごく当たり前のように言い放つロイドに周囲の気温は低下する一方だ。

「写真は今と昔のを両方を飾ってあるんだよね!マスミって昔とちっとも変わらないんだ。俺ばっかり歳食ってる気がして仕方ないよ。この前なんて一緒にショッピングに出かけたら職質されたんだ。あの警官の目は節穴だね」

 ぷりぷり怒っているロイドには悪いが、全員がさもありなんと納得した。
 そして「何故、そのまま逮捕しなかった!!」とも思った。

 自分が職質された理由を全く理解していないロイドに呆れるしかない。


(((((マスミが未成年に見られているのは今に始まった事じゃない。きっとその時ロイドにセクハラまがいなことをされていたに違いない。だから警官がきたんだ。店側が通報したんじゃないのか?)))))


 まったくもってその通りだったりする。
 未成年のアジア系の少年が成人男性に振り回されていれば誰だって怪しむというものだ。
 

 
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