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9.男爵令嬢3
しおりを挟む私の願いも虚しく、三日後に侯爵家に嫁ぐための馬車に乗せられた。
見送りは正妻と執事の二人だけ。パパもママもいない。豪華な馬車が迎えに来て、嫌がる私を無理やり乗せると侯爵家まで運び込まれた。
私の花婿は七十を過ぎた老人だった。
先代の侯爵。
しわくちゃのエロ爺に純潔を散らされた。
こんなことなら殿下にさっさとあげておくんだった!
でも、このエロ爺、信じられないくらいに貢いでくれた。
煌びやかな流行のドレス、豪華な宝石、贅を尽くした料理。
夜ごと着飾って夜会に出席する。
これには私自身が驚いた。
てっきり軟禁されるものだとばかり思っていたから。
でも、数週間後に理由がわかった。
エロ爺は私を他の貴族に貸し出した。
いや、違う!あれは貸したというより集団レイプよ!
一晩で何人もの男の相手をさせられたのよ!!!
あのエロ爺に、『王太子殿下を虜にした女』の触れ込みで貴族相手の枕営業をさせられた!
これは後で分かった事だけど、侯爵家は確かに権力も金もあった。でもそれはエロ爺の代まで!エロ爺の息子や孫は典型的な『貴族のドラ息子』だった。
到底、エロ爺の後釜に収まる事なんて出来やしない、次代たち。
自分の息子や孫の才覚の無さに呆れを通り越して憐れんでいたエロ爺は、息子達可愛さと、侯爵家の繁栄を長引かせるために持ちうるだけの手は尽くしていたらしい。
最終奥義が私という存在だ。
本来、妻の貸し出しなど不名誉極まることだろうが、王太子を始めとした高位貴族の子弟が夢中になった女なら話は違った。
毎晩夜会に繰り出しては、貴族の男達の相手をさせられる。
年齢もまちまちで、恰幅の良い男、初心な若い男、遊びに長けた男、屈強な男。
こんな生活続けてたら普通は性病を患って早死にするところだけど、エロ爺は私に高名な主治医を付けて毎回診察させる。
だから病気も未然に防がれる。
子供が出来たら『仕事』が出来ないという事で、早い段階から避妊薬を飲まされた。
もう、私に子が出来ることは無いだろう。
あんな男達の子供なんていらないけど。
エロ爺の所業を知らないから、世間で私は『男狂いの毒婦』呼ばわりよ!
三十歳を過ぎても、この生活は変わらなかった。
寧ろ、需要が増えたとエロ爺は大喜びだ。
若い貴族の筆おろし。
いつの間にか私は、貴族専用の娼婦扱いだ。
花の命は短い。
私も既に盛りは過ぎていたけれど、エロ爺と主治医のお陰か若々しい体を維持出来ている。
それに『王太子殿下と数多の高位貴族を破滅させた女』を屈服させたがる男は大勢いた。
ある日、客の一人に「稀代の悪女だと他国でも有名だ」と教えられた。
私の悪評は周辺諸国まで広がっているそうだ。
それから数年後、国の名前が変わった。
王国は公国になり、王家の代わりに公爵家が新しい国の主となった。
貴族社会に少々異変があったようだけど、侯爵家はなんとか無事だった。
その頃にはエロ爺はもう死んで『仕事』をする事も無くなった。
私はお払い箱として侯爵家から捨てられるものとばかり思っていたけれど、『貴族のドラ息子』たちは真実を知っていたようで、私に同情的であったせいか、侯爵家から追い出されることはなかった。
だからといって、私が自由になる事もなかった。
気まぐれにパレードを見にいくと、そこには、あの女にそっくりの男がいた。
新しい公王。
遥か昔に見た憎い女に瓜二つだった。
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