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6.王太子4
しおりを挟む数ヶ月後、男の言葉が事実であることを知った。
乳母が知らせてくれたのだ。
ミリーは侯爵家に嫁ぎ派手に遊び歩いていると。
毎夜、違う男を侍らせては夜の闇に消えていくそうだ。
彼女の悪評は瞬く間に国中を駆け巡り、私は、彼女の犠牲者として同情を呼んだ。
それは王家も無視できない事だった。
異母弟である第二王子が『王太子』となり、婚姻し、子供が産まれても、私は生かされた。異母弟の妻に子供が産まれたら毒杯を贈られるものだとばかり思っていたため、少々肩透かしを食らった気分だ。異母弟の子供が女児ばかりだったからだろうか?
数十年後、私は塔を出た。
まさか生きて出られるとは思ってもみなかった。
乳母が数年前に亡くなってからは外の情報が何一つ入ってこなかったので分からなかったが、どうやら王国は無くなったようだ。
亡国になった訳ではない。
国のトップが変更し、それに合わせて国名も変わったのである。
新しい国となったことで『恩赦』が出た。
私は自由の身になったのである。
だが、世俗を離れて何十年も経っている。今更、自由になっても何をしていいのか分からない。
監視役の勧めるままに聖職者になった。紹介された教会は、緩やかな戒律であったためか私に合っているような気がする。穏やかな余生を送れそうだ。
結局、異母弟は跡継ぎになる男児が生まれないまま、この世を去っていた。
不眠症の末の死だと聞いた。
私と違って、有力貴族である側妃を母に持っていた異母弟は、後ろ盾に困ることはなかったようだが、一国の王には不似合いな男だった。生来、優しく大人しかった異母弟。
その異母弟に、『国王』という冠は重すぎたようだ。
即位早々に鬱病を発症させていたと聞く。
私と違って、婚約者とは仲が良かった。正妃として異母弟を支えていたそうだが、王女一人しか誕生しなかった。女王制度がないわけではなかったものの、過去に即位した女性は二人のみ。家臣達は、世継ぎに王子を望んでいた。
異母弟は、結婚十年目にして側妃を娶ることになった。
その妃達も王女しか産めなかった。王女が生まれるたびに側妃の数も増えたせいで、異母弟は『好色王』などという不名誉な通り名がつけられてしまった。大臣や側近達の進言通りに側妃を増やしたせいだろう。異母弟は正妃一筋であったというのに。
私のせいだ。
穏やかな人生を進むはずだった異母弟に茨の道を歩ませてしまった。異母弟と正妃の間に生まれた王女が、新しい国の『公妃』になった事がせめてもの慰めだ。
今度、公王夫妻が教会を訪れる。初めて姪に会えると思うと心が弾む。
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