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55.対策
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最近、社交界は第三王子殿下の話題で持ちきりらしい。
とはいえ、あからさまに噂する者は少なく、淑女は扇で口元を隠しながらコソコソと話している。紳士は貴族特有の笑みを浮かべ、彼らの様子を窺っている。……のだとか。
相手は王族。
「不敬にならないように気を付けているのでしょう」
お祖母様はそう言うけれど……どうかしらね?
ここ数週間、お茶会を欠席していらっしゃるし。
私宛の招待状もまた届いているけれど、これも全て欠席にしてある。
伯母様達にもお茶会は出ない方が良いと忠告されたくらい。
殿下関連のあれやこれやに関わりたくないので、私も素直に頷きましたけど……。
「ユースティティアが心配する必要はないわよ」
「お祖母様……」
「幾ら婚約者とはいえ、殿下への苦情は直接本人に伝えるべきことですもの」
「はい」
「我が公爵家は王家の受付係ではないわ」
「……はい」
お祖母様は「心配することはなにもない」と言ってくださる。
その言葉を疑う訳ではないけれど、恐らく遠回しに言ってくる人達がいたのではないかしら?
「ユースティティア、もしなにかあれば直ぐに言うのですよ」
「はい、お母様」
「用心に越したことはないですからね」
「お祖母様、ここ最近のお茶会への欠席はやはり……」
「どこの貴族達も情報収集に躍起になっていますからね。年端のいかない子供を使ってくる者もいるでしょう」
「そうですね」
お母様の心配は、私が標的にされるかもしれないこと。
……いえ、既にされているのかもしれません。
だからこそお茶会を全て欠席していますし。
公爵家からもお茶会を催すことはありません。
お祖母様は「用心に越したことはない」と仰った理由もそれでしょう。
親の意図を組んで行動する者が出てくるのは間違いありません。
それに気付かなくとも、親に言われたからと私に接近してくる者だって出てくるはず。
大人達は貴族子女なのだから当たり前と思われるかもしれませんが、子供には子供なりの付き合いというものがあるのです。
一度壊れた信頼関係は大人も子供も関係ありません。
むしろ、子供だからこそ修復が難しいと言えます。
「暫くの間は窮屈な思いをするかもしれません」
「心得ています」
「そう長くは掛からないと思いますから」
「はい、お祖母様」
ほぼ軟禁状態に等しい生活ですからね。
お祖母様が心配する気持ちも分ります。
屋敷から出ないことが一番の対策ですから。
「伯父様達は大丈夫でしょうか?」
私と違って、伯父様達は社交の場に顔を出していますし。かと言って、公爵家の者になにかを言ってくる不埒者はいないでしょうが……。
それでも自分達の周辺をぶんぶんと飛び回られるのは気分の良いものではないはず。
「ハエ叩きは慣れているから大丈夫よ」
「はい?」
「ハエの他にもコバエが寄ってくるでしょう。あの手の虫は直ぐに駆除しなければならないわ」
心の声がダダ漏れになっていたようです。
お祖母様の的確な例えに、私もつい笑いが込み上げてきました。
「お祖母様ったら……ふふ」
「まぁまぁ、ユースティティア。虫はうるさいうえに放っておくと直ぐに繁殖するのだから、早目に駆除しておかなければならないのよ」
「分かります」
お祖母様と私は一度視線を合わせると、くすりと笑った。
「いずれ、ユースティティアにも伝授してもらわなければならないわね」
「はい。その時は是非、ご教授ください」
「公爵家直伝よ」
「楽しみにしております」
お祖母様と私は再び笑い合ったのでした。
とはいえ、あからさまに噂する者は少なく、淑女は扇で口元を隠しながらコソコソと話している。紳士は貴族特有の笑みを浮かべ、彼らの様子を窺っている。……のだとか。
相手は王族。
「不敬にならないように気を付けているのでしょう」
お祖母様はそう言うけれど……どうかしらね?
ここ数週間、お茶会を欠席していらっしゃるし。
私宛の招待状もまた届いているけれど、これも全て欠席にしてある。
伯母様達にもお茶会は出ない方が良いと忠告されたくらい。
殿下関連のあれやこれやに関わりたくないので、私も素直に頷きましたけど……。
「ユースティティアが心配する必要はないわよ」
「お祖母様……」
「幾ら婚約者とはいえ、殿下への苦情は直接本人に伝えるべきことですもの」
「はい」
「我が公爵家は王家の受付係ではないわ」
「……はい」
お祖母様は「心配することはなにもない」と言ってくださる。
その言葉を疑う訳ではないけれど、恐らく遠回しに言ってくる人達がいたのではないかしら?
「ユースティティア、もしなにかあれば直ぐに言うのですよ」
「はい、お母様」
「用心に越したことはないですからね」
「お祖母様、ここ最近のお茶会への欠席はやはり……」
「どこの貴族達も情報収集に躍起になっていますからね。年端のいかない子供を使ってくる者もいるでしょう」
「そうですね」
お母様の心配は、私が標的にされるかもしれないこと。
……いえ、既にされているのかもしれません。
だからこそお茶会を全て欠席していますし。
公爵家からもお茶会を催すことはありません。
お祖母様は「用心に越したことはない」と仰った理由もそれでしょう。
親の意図を組んで行動する者が出てくるのは間違いありません。
それに気付かなくとも、親に言われたからと私に接近してくる者だって出てくるはず。
大人達は貴族子女なのだから当たり前と思われるかもしれませんが、子供には子供なりの付き合いというものがあるのです。
一度壊れた信頼関係は大人も子供も関係ありません。
むしろ、子供だからこそ修復が難しいと言えます。
「暫くの間は窮屈な思いをするかもしれません」
「心得ています」
「そう長くは掛からないと思いますから」
「はい、お祖母様」
ほぼ軟禁状態に等しい生活ですからね。
お祖母様が心配する気持ちも分ります。
屋敷から出ないことが一番の対策ですから。
「伯父様達は大丈夫でしょうか?」
私と違って、伯父様達は社交の場に顔を出していますし。かと言って、公爵家の者になにかを言ってくる不埒者はいないでしょうが……。
それでも自分達の周辺をぶんぶんと飛び回られるのは気分の良いものではないはず。
「ハエ叩きは慣れているから大丈夫よ」
「はい?」
「ハエの他にもコバエが寄ってくるでしょう。あの手の虫は直ぐに駆除しなければならないわ」
心の声がダダ漏れになっていたようです。
お祖母様の的確な例えに、私もつい笑いが込み上げてきました。
「お祖母様ったら……ふふ」
「まぁまぁ、ユースティティア。虫はうるさいうえに放っておくと直ぐに繁殖するのだから、早目に駆除しておかなければならないのよ」
「分かります」
お祖母様と私は一度視線を合わせると、くすりと笑った。
「いずれ、ユースティティアにも伝授してもらわなければならないわね」
「はい。その時は是非、ご教授ください」
「公爵家直伝よ」
「楽しみにしております」
お祖母様と私は再び笑い合ったのでした。
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