43 / 63
42.とある医師side ~手紙の行方1~
しおりを挟む
【お母さんへ。
ここは退屈な場所です。早く、家に帰りたいです。ここのお茶は伯爵家で飲んだものと違っているの。ここの人が言うにはハーブティーらしいわ。紅茶は一般的ではないようで、お菓子もクリームがないものばかり。エンビーは、クリームたっぷりのお菓子や蜂蜜をたっぷりかけたパンケーキが食べたいです。
それに、ここの人たち、みんなコソコソしているの。いつも何かコソコソ話しているわ。エンビーに聞こえないように言ってるのよ。きっと悪口だわ。きっとそう。
お母さん、エンビーがいなくて寂しいでしょう? お母さんは寂しがり屋さんだから。いつもエンビーに言っているもの。でも心配しないでね。エンビーはすぐに家に帰るから。伯爵家の皆もきっと喜ぶわ。】
【お母さんへ。
今日は、農作業のお手伝いをしました。虫がいっぱいついていたけれど、全然平気。だって皆も同じだったんだもの。あれ?でもおかしいな。お母さんは虫嫌いだったよね?おかしいな。確か前にお母さんから土遊びはダメだって。あれはお母さんじゃなかったのかな?違う人が言っていたのかな?分かんない。最近ちょっと物忘れが激しいみたい。この前も知らない間に手足に痣ができていたくらいよ。頭にも瘤ができていてビックリしちゃった。皆が言うにはテーブルに頭をぶつけて、タンコブが出来ちゃったらしいの。おかしいな。だって暴れた記憶なんてないのに……】
【お父さんとお母さんへ。
今、私は入院しています。
気が付いたらベッドの中だったの。
どうやって、ここに来たのか記憶にありません。
お医者さんが言うには発作?らしいの。病気ではないらしいから安心してね。急に倒れたらしくて……。う~ん。全然思い出せない。だから何を書いていいのかも分からないの。お医者さんは病院から連絡しているから大丈夫としか言わないし。無理せず安静にしておくように言われたの。でもお手紙は書いていいって。だから、こうして書いています。
お父さんとお母さんが心配しないように、毎日楽しいことを書いてあげるね。でも、本当は何を書いていいのか分からない。一日中、ベッドの中から外を眺めるだけ。退屈だわ。】
「はぁ……」
「先生?どうしたんですか?溜息なんて付いて」
「ちょっとね」
「もしかしてまた例の患者さんですか?」
「うん……わかるかい?」
「そりゃあ、分かりますよ。大きな溜息をついて、黄昏ていましたよね」
「そうか……そんなに顔に出ていたかな?」
「出てましたよ。それは盛大に!もしかして例の患者さんに何か問題でも?最近は随分大人しいって聞いてますよ」
「まぁね……それが問題、といえばいいのか……」
私は口を濁した。
看護師の彼女に言っていいものかと考えあぐねたからだ。
個人情報だ。
だがこのケースは……。
はっきり言って私には手に余る。
「ほら、言ってみてくださいよ」
人の気も知らずに、彼女は目を輝かせている。
「そういえば、例の患者、また手紙出してるらしいじゃないですか」
「知っているのか?」
「先生、有名ですよ。例の患者が毎日毎日、手紙を書いているって。王都にいる親宛ての手紙でしょう?熱心に書いているって他の患者さんの間でも話題になってますよ」
「……そうか」
どこからともなく噂は広まっているものだ。
特に患者の噂話は侮れない。
気付いたら個人情報が駄々洩れの場合もある。病院内の力関係を患者の方が把握しているなんてざらにある。
だから、きっと例の患者が毎日書く手紙の宛先もそのうちバレるだろう。
ここは退屈な場所です。早く、家に帰りたいです。ここのお茶は伯爵家で飲んだものと違っているの。ここの人が言うにはハーブティーらしいわ。紅茶は一般的ではないようで、お菓子もクリームがないものばかり。エンビーは、クリームたっぷりのお菓子や蜂蜜をたっぷりかけたパンケーキが食べたいです。
それに、ここの人たち、みんなコソコソしているの。いつも何かコソコソ話しているわ。エンビーに聞こえないように言ってるのよ。きっと悪口だわ。きっとそう。
お母さん、エンビーがいなくて寂しいでしょう? お母さんは寂しがり屋さんだから。いつもエンビーに言っているもの。でも心配しないでね。エンビーはすぐに家に帰るから。伯爵家の皆もきっと喜ぶわ。】
【お母さんへ。
今日は、農作業のお手伝いをしました。虫がいっぱいついていたけれど、全然平気。だって皆も同じだったんだもの。あれ?でもおかしいな。お母さんは虫嫌いだったよね?おかしいな。確か前にお母さんから土遊びはダメだって。あれはお母さんじゃなかったのかな?違う人が言っていたのかな?分かんない。最近ちょっと物忘れが激しいみたい。この前も知らない間に手足に痣ができていたくらいよ。頭にも瘤ができていてビックリしちゃった。皆が言うにはテーブルに頭をぶつけて、タンコブが出来ちゃったらしいの。おかしいな。だって暴れた記憶なんてないのに……】
【お父さんとお母さんへ。
今、私は入院しています。
気が付いたらベッドの中だったの。
どうやって、ここに来たのか記憶にありません。
お医者さんが言うには発作?らしいの。病気ではないらしいから安心してね。急に倒れたらしくて……。う~ん。全然思い出せない。だから何を書いていいのかも分からないの。お医者さんは病院から連絡しているから大丈夫としか言わないし。無理せず安静にしておくように言われたの。でもお手紙は書いていいって。だから、こうして書いています。
お父さんとお母さんが心配しないように、毎日楽しいことを書いてあげるね。でも、本当は何を書いていいのか分からない。一日中、ベッドの中から外を眺めるだけ。退屈だわ。】
「はぁ……」
「先生?どうしたんですか?溜息なんて付いて」
「ちょっとね」
「もしかしてまた例の患者さんですか?」
「うん……わかるかい?」
「そりゃあ、分かりますよ。大きな溜息をついて、黄昏ていましたよね」
「そうか……そんなに顔に出ていたかな?」
「出てましたよ。それは盛大に!もしかして例の患者さんに何か問題でも?最近は随分大人しいって聞いてますよ」
「まぁね……それが問題、といえばいいのか……」
私は口を濁した。
看護師の彼女に言っていいものかと考えあぐねたからだ。
個人情報だ。
だがこのケースは……。
はっきり言って私には手に余る。
「ほら、言ってみてくださいよ」
人の気も知らずに、彼女は目を輝かせている。
「そういえば、例の患者、また手紙出してるらしいじゃないですか」
「知っているのか?」
「先生、有名ですよ。例の患者が毎日毎日、手紙を書いているって。王都にいる親宛ての手紙でしょう?熱心に書いているって他の患者さんの間でも話題になってますよ」
「……そうか」
どこからともなく噂は広まっているものだ。
特に患者の噂話は侮れない。
気付いたら個人情報が駄々洩れの場合もある。病院内の力関係を患者の方が把握しているなんてざらにある。
だから、きっと例の患者が毎日書く手紙の宛先もそのうちバレるだろう。
1,420
お気に入りに追加
3,352
あなたにおすすめの小説
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
クリスティーヌの華麗なる復讐[完]
風龍佳乃
恋愛
伯爵家に生まれたクリスティーヌは
代々ボーン家に現れる魔力が弱く
その事が原因で次第に家族から相手に
されなくなってしまった。
使用人達からも理不尽な扱いを受けるが
婚約者のビルウィルの笑顔に救われて
過ごしている。
ところが魔力のせいでビルウィルとの
婚約が白紙となってしまい、更には
ビルウィルの新しい婚約者が
妹のティファニーだと知り
全てに失望するクリスティーヌだが
突然、強力な魔力を覚醒させた事で
虐げてきたボーン家の人々に復讐を誓う
クリスティーヌの華麗なざまぁによって
見事な逆転人生を歩む事になるのだった
お姉さまとの真実の愛をどうぞ満喫してください
カミツドリ
ファンタジー
「私は真実の愛に目覚めたのだ! お前の姉、イリヤと結婚するぞ!」
真実の愛を押し通し、子爵令嬢エルミナとの婚約を破棄した侯爵令息のオデッセイ。
エルミナはその理不尽さを父と母に報告したが、彼らは姉やオデッセイの味方をするばかりだった。
家族からも見放されたエルミナの味方は、幼馴染のローレック・ハミルトン公爵令息だけであった。
彼女は家族愛とはこういうものだということを実感する。
オデッセイと姉のイリヤとの婚約はその後、上手くいかなくなり、エルミナには再びオデッセイの元へと戻るようにという連絡が入ることになるが……。
公爵令嬢のRe.START
鮨海
ファンタジー
絶大な権力を持ち社交界を牛耳ってきたアドネス公爵家。その一人娘であるフェリシア公爵令嬢は第二王子であるライオルと婚約を結んでいたが、あるとき異世界からの聖女の登場により、フェリシアの生活は一変してしまう。
自分より聖女を優先する家族に婚約者、フェリシアは聖女に嫉妬し傷つきながらも懸命にどうにかこの状況を打破しようとするが、あるとき王子の婚約破棄を聞き、フェリシアは公爵家を出ることを決意した。
捕まってしまわないようにするため、途中王城の宝物庫に入ったフェリシアは運命を変える出会いをする。
契約を交わしたフェリシアによる第二の人生が幕を開ける。
※ファンタジーがメインの作品です
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる