伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子

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30.伯爵夫人(母)side ~新婚気分~

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 悲しいわ。
 辛いわ。

 こんなに苦しいのにユースティティアは母親の私を慰めにも来ない。
 薄情な子……。


「ロディ、いつまでも塞ぎこんでいてはいけないよ」

「ユーノス……でも……」

「ロディの気持ちも分かるよ。どうだろう。気分転換に旅にでるというのは」

「旅?」

「そう、旅だ。ロディはあの子の件でずっと部屋に閉じこもってばかりだったじゃないか。いい機会だと思うよ。環境を変えれば気持ちも少しは楽になるはずだ」

「……そうかしら……」

「きっとね」


 ユーノスの言葉に身を任せて旅にでることに決めた。
 最初は何処に行こうかしら。
 海の見える街がいいかもしれない。

「海が見たいわ」

「海?どうしてだい?」

 ユーノスは不思議そうに私を見る。

「海辺を歩きたいの。ユーノスと一緒に!」

「新婚旅行の時みたいに?」

「ええ、そうよ。手を繋いで歩くの。夕暮れの海をバルコニーから眺めるの。あの時の光景はとってもロマンチックだったわ」

「それは素敵だね。それじゃあ、最初は南の方に行こうか」

「ありがとう、ユーノス」

 私達の旅はここから始まった。
 楽しい旅の始まり。
 この時は直ぐに屋敷に戻ってこようと思っていたの。
 でも思った以上に楽しくて。新婚時代に戻ったよう。
 南の海沿いの町に滞在することにして、ユーノスと色々な場所を見て回った。
 ホテルからの眺めは最高だったし、屋台で買った海鮮料理はどれもこれも絶品だったわ。

「この海鮮パスタ美味しいね」

「ええ」

「この貝も美味しいよ。ロディも食べる?」

「いただくわ」

 ユーノスがフォークに巻きつけたパスタを私の口元に運んでくれるので私はそれを口に含む。
 うん、美味しい。

「こっちも食べてみる?海老が大きくて美味しいよ」

「じゃあ、いただこうかしら」

 差し出されたフォークに巻かれたパスタを口に含む。
 とっても美味しかったわ。
 幸せで胸が一杯になる。
 ああ、そういえばこうやってユーノスと二人きりで行動したのは久しぶりだわ。
 いつもエンビーちゃんが傍に居たもの。
 私ったらエンビーちゃんにばかり構ってユーノスを蔑ろにしてしまったのね。いけないことだわ。妻失格よ。

「ねえ、ユーノス」

「なんだい?」

「私、貴方ともっと夫婦の時間を持ちたいわ」

「ロディ……」

「ユーノス、私ね。貴方を愛してるわ」

「私もだよ。ロディ」

「嬉しいわ」

 ユーノスが私の頬に口づける。
 私もユーノスの頬に口づけを返す。

 やっぱり、ユーノスが一番好き。
 結婚してもう数年が経っているというのに、こんなにも胸が高鳴る。
 ドキドキするわ。
 なんだか彼と初めて会った時を思い出しちゃう。
 素敵!
 旅行に来たのは正解だったわ。
 新婚のやり直しをしているみたい。

 この後、私達はホテルに戻って夕食をとり、二人で夜を過ごしたの!きゃ~~!恥ずかしいわ!嬉しいわ!この感情をどう表現したらいいのかしら。キュンキュンしちゃう!

 もうユースティティアのことも、エンビーちゃんのことも、まったく気にならなくなっていた。
 だって、ユーノスが傍に居てくれる。最愛の夫が近くにいるんだもの。他のことなんてどうでもいいわ。
 私だけを見つめる目。
 愛を囁いてくれる唇。
 ユーノスに身を委ねている間、私は本当に幸福だった。
 ああ、ユーノス!私には貴男だけよ。私には貴男だけ!

「ロディ、次は何処に行こうか?」

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