伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
14 / 102

14.エンビーside 〜壊れた日常〜

しおりを挟む
「これからは伯爵家の見習いメイドです。その立場を弁えて行動するように」

 何を言われたのか分からなかった。
 私が何?
 なんで使用人に?
 この人は何を言っているの?

「エンビー、返事は?」

「……はい」

「宜しい。それでは、仕事に取り掛かりなさい」

 怖そうなおばさんが偉そうに私に命令する。
 なに?
 何が起こっているの!?
 分からない。
 この状況が理解できない。

 何が何だか分からないまま、一日が終わった。

 明日になれば元に戻っているよね?

 そう願ってベッドに入り、眠りに付いた。
 夢であれば良い。
 もしかしたら今夢の中なんじゃないかって思う。
 だってそうじゃなかったらおかしいもん。

 目が覚めたら元通りに戻っているに違いない。
 きっと、そうに違いない。

 なのに……。
 なんで?どうして? 朝が来ても夢から覚めない。
 夢じゃなかった。

 毎朝、ロディおねえちゃまに整えて貰っていた私の自慢の長い髪。
 それをひとまとめにされて、頭の後ろで縛られた。

「準備は整いました」

「そう、では行きましょう」

 先輩メイド?って人が、私を置いてけぼりにして昨日の怖いおばさんと会話している。
 状況が飲み込めない。
 怖いおばさんに腕を掴まれて引っ張られた。
 痛い。痛いよ。放してよ。
 私はロディおねえちゃまの所に行くんだから!

「エンビー!早く来なさい!」

 怖いおばさんが怒鳴った。
 なんで?なんで私が怒られなくちゃいけないの? 私は何も悪いことしていないのに。
 でも、逆らうとまた怒られそうだから、言う事を聞くしかない。

 嫌だった。
 でも逆らうこともできない。
 辛くて泣いてしまった。そんな私を怖いおばさんが睨んでいる。

「泣くのをやめなさい!」

「うっ……く。ご、ごめんな……しゃい……っく……」


 どうして?
 私が泣いても誰も慰めてくれない。
 ロディおねえちゃまはどうして来てくれないの?
 いつだって私の味方だったのに。

 あの日から、私の全てが一変した。
 使用人が着る服を着せられ、朝から働かされた。

 ロディおねえちゃまの部屋に行こうとしたら、怖いおばさんに止められた。

 あの日から一度も会っていない。

 勉強をする必要がなくなったけど、その分だけ給仕や掃除の仕方を徹底的に教えられた。
 もう、嫌だよ。
 怒られてばかりだし、ご飯も美味しくないし、ベッドも硬い。
 ロディおねえちゃまに会いたい。















『遠慮しないでいいのよ。今日からここがエンビーちゃんの家なんだから』

 そう言ってくれたよね?
 初めて見た大きなお屋敷。
 広い部屋。
 綺麗なドレス。
 ふかふかのベッド。
 甘いお菓子は口の中で蕩ける美味しさだった。
 毎日が楽しかった。
 そんな生活が、ずっと続くと思っていたのに。

 なんで?
 どうしてこんなことになっちゃったの?

 幸せな日々から辛い毎日。


「お嬢様の部屋の掃除をしておきなさい」



しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

嘘はあなたから教わりました

菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

処理中です...