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5.伯爵夫人のお気に入り4
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「伯爵令嬢の遊び相手」――――将来的には伯爵令嬢付きのメイド。
ある一定の年齢がくれば「見習い」として働いて貰えばいいと、父は考えていたようです。
そこら辺はやはり高位貴族。
まさか、母が彼女を今まで同様に娘扱いするとは想像もしていなかったのでしょう。
三年も一緒に暮らしていてなぜ理解していなかったのか。謎です。
きっと父からすれば「実の娘が戻ってきたのだ。他人の子供に与えていた愛情はそのままそっくり娘に与えるはずだ」という思い込みがあったのでしょう。
実に貴族らしい考え方。
けれど、母は父の想像の斜め上をいった。
ただそれだけのこと。
もっとも、そんな母に今の今まで碌に注意をしてこなかった父にも責任はあります。ええ、大いに。
『エンビーちゃんは可哀想な子なの。あんなに小さいのに一人ぼっちで……』
『だから、お母様がエンビーちゃんの“ママ”になってあげることにしたの!そうすればエンビーちゃんは一人ぼっちじゃなくなるわ』
『エンビーちゃんとっても良い子だから、ユースティティアとも仲良くなれるわ』
『ほら、まるで姉妹のよう!』
『嬉しいでしょう?』
本当に、頭が痛い。
一緒に聞いていた使用人達に申し訳ないわ。
母と娘といえど、親子で二人っきりになることはない。必ず護衛とメイドが側に控える。
それは貴族として当然の配慮で、そうしなければ「何か」あった時に責任が取れませんから。
「はぁ……、アレはもうどうしようもないわね」
会話するだけで疲れてしまう。
使用人達が言うにはエンビー嬢はもっとアレらしい。
母より酷くはないけれど、話しが通じないところがあると……。
母は馬鹿ではないと思う。
馬鹿なら社交界の荒波を泳ぐことなど不可能だから。
お父様のフォローだけで泳ぎ切れる場所ではない。
ただ、根本的なところが抜けているというか……ズレているというか……なんというか……残念な人なのだ。
世間知らずというか、何というか……。
そのうえ、母は思い込みが激しい。
特に自分に都合の悪い現実は見ない傾向があった。
『伯爵令嬢の遊び相手』となったにも拘わらず、エンビー嬢は私にあまり関わろうとしない。
関わらないというよりも、関われない、といったほうが正しいのかもしれない。
理由は単純明快。
エンビー嬢は勉強嫌い。
一日の大半を家庭教師の授業を受けている私は、必然的にエンビー嬢と会う機会がない。
加えて、私は自分で言うのもなんだがとても優秀なのだ。
六歳になる頃には基本のマナーはもちろんのこと、歴史、数学など一通りの知識を詰め込まされた。
伯爵家の娘としてやるべきことは多々ある。ダンス、音楽、刺繍に至るまで様々なことを習い、学んでいた。
本来なら、エンビー嬢も私と共に学ぶはずだった。
実際に父から、「一緒に学ぶといい」と言われていたにも拘わらず、自分で断っている。
これには父も難色を示した。
流石に無作法者を伯爵令嬢付きにはできない。
そんなことをすれば家の品位を落としかねないからだ。
「学ぶ事は大切だ。将来、きっとエンビー嬢のためにもなるだろう」といっても、首を縦には振ることはなかった。
彼女が自分の役割を理解していないのは明白だった。
娘の代わりに愛されてきた。それが悪いとは言わない。今までソレが彼女の役割だったのだから。
だからこそ、屋敷の使用人達も彼女を『伯爵家の(仮)娘役』『奥様の心を慰める役』と受け入れたのだろう。
しかし、既に役割が変わっている。
それを理解していなかった。
彼女は今も自分が『伯爵夫人の娘役』だと思っている。いえ、違うわね。役割だとすら思っていない。
ある一定の年齢がくれば「見習い」として働いて貰えばいいと、父は考えていたようです。
そこら辺はやはり高位貴族。
まさか、母が彼女を今まで同様に娘扱いするとは想像もしていなかったのでしょう。
三年も一緒に暮らしていてなぜ理解していなかったのか。謎です。
きっと父からすれば「実の娘が戻ってきたのだ。他人の子供に与えていた愛情はそのままそっくり娘に与えるはずだ」という思い込みがあったのでしょう。
実に貴族らしい考え方。
けれど、母は父の想像の斜め上をいった。
ただそれだけのこと。
もっとも、そんな母に今の今まで碌に注意をしてこなかった父にも責任はあります。ええ、大いに。
『エンビーちゃんは可哀想な子なの。あんなに小さいのに一人ぼっちで……』
『だから、お母様がエンビーちゃんの“ママ”になってあげることにしたの!そうすればエンビーちゃんは一人ぼっちじゃなくなるわ』
『エンビーちゃんとっても良い子だから、ユースティティアとも仲良くなれるわ』
『ほら、まるで姉妹のよう!』
『嬉しいでしょう?』
本当に、頭が痛い。
一緒に聞いていた使用人達に申し訳ないわ。
母と娘といえど、親子で二人っきりになることはない。必ず護衛とメイドが側に控える。
それは貴族として当然の配慮で、そうしなければ「何か」あった時に責任が取れませんから。
「はぁ……、アレはもうどうしようもないわね」
会話するだけで疲れてしまう。
使用人達が言うにはエンビー嬢はもっとアレらしい。
母より酷くはないけれど、話しが通じないところがあると……。
母は馬鹿ではないと思う。
馬鹿なら社交界の荒波を泳ぐことなど不可能だから。
お父様のフォローだけで泳ぎ切れる場所ではない。
ただ、根本的なところが抜けているというか……ズレているというか……なんというか……残念な人なのだ。
世間知らずというか、何というか……。
そのうえ、母は思い込みが激しい。
特に自分に都合の悪い現実は見ない傾向があった。
『伯爵令嬢の遊び相手』となったにも拘わらず、エンビー嬢は私にあまり関わろうとしない。
関わらないというよりも、関われない、といったほうが正しいのかもしれない。
理由は単純明快。
エンビー嬢は勉強嫌い。
一日の大半を家庭教師の授業を受けている私は、必然的にエンビー嬢と会う機会がない。
加えて、私は自分で言うのもなんだがとても優秀なのだ。
六歳になる頃には基本のマナーはもちろんのこと、歴史、数学など一通りの知識を詰め込まされた。
伯爵家の娘としてやるべきことは多々ある。ダンス、音楽、刺繍に至るまで様々なことを習い、学んでいた。
本来なら、エンビー嬢も私と共に学ぶはずだった。
実際に父から、「一緒に学ぶといい」と言われていたにも拘わらず、自分で断っている。
これには父も難色を示した。
流石に無作法者を伯爵令嬢付きにはできない。
そんなことをすれば家の品位を落としかねないからだ。
「学ぶ事は大切だ。将来、きっとエンビー嬢のためにもなるだろう」といっても、首を縦には振ることはなかった。
彼女が自分の役割を理解していないのは明白だった。
娘の代わりに愛されてきた。それが悪いとは言わない。今までソレが彼女の役割だったのだから。
だからこそ、屋敷の使用人達も彼女を『伯爵家の(仮)娘役』『奥様の心を慰める役』と受け入れたのだろう。
しかし、既に役割が変わっている。
それを理解していなかった。
彼女は今も自分が『伯爵夫人の娘役』だと思っている。いえ、違うわね。役割だとすら思っていない。
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