11 / 24
11.後宮9
しおりを挟む
定期的に陛下の御渡りがある。
ただしなにも無し。
陛下がなにを考えているのかは分からないけど、こちらは気楽で良い。
毒入り菓子の件以来、離宮の贈り物は全て検閲されている。
陛下の指示……というよりも後宮を管理している人物の判断だと思う。
贈り物攻撃が効かないとなると、今度は別の嫌がらせが待っていた。
陛下主催の宴で恥をかかそうと色々画策された。
披露する演目が被っていたり、ドレスの色が被っていたり、話題や順番が重なっていた。酷い時は末席が用意されていた。流石に末席に座るわけにはいかないので丁重にお断りしたけれど。
私が断れば断るほど嫌がらせはエスカレートした。
演奏会に参加したとき、私だけが演奏をしないということもされた。
楽器は普通に弾けるので弾く必要がない場合は演奏しないよう、事前に指示を出していたから問題なかったけれど、それでも恥をかかせたかったらしい。
なんて幼稚な……と思ったのは秘密である。
そんな嫌がらせが続くものだから、後宮全体がピリピリし始めた。とはいっても、それらは白の離宮の外での出来事でしかないので、私はいつもどおりに過ごしている。
あとから来た妃たちには申し訳ないけれど、私は基本的に離宮から出ないので彼女達とは交流を持つことも少ない。
せいぜいがパーティーの時に挨拶をする程度だ。
後宮の雰囲気が益々ピリピリしたものになると、それに比例するように陛下の御渡りもなくなった。
これにはちょっとした理由がある。
寵愛する妃ができたらしい。グーシャ国王陛下が寵愛する妃は、その名もラヴリー・ボイル。
ボイル男爵家の令嬢。
陛下が地方視察の時に見初めたらしく、最近寵愛が深いと専らの噂だ。
「なるほど、それで……」
陛下の御渡りがなくなったわけだ。
これは一波乱ありそうだと思った矢先に、それはやってきた。
下級妃のラヴリーに対しての嫌がらせ。
それを私がしたと、陛下から断罪された。
王宮の夜会でのこと。
「シャーロット上級妃!今日限りで妃の位を剥奪する!以後、登城は許さぬ!!なお、元妃ということを考慮し、オウエン・ローマンとの結婚を命じる!!!これは『王命』である!!!
分かったな!!」
……余興としてなら大成功だろう。
前触れもなく、突然始まった断罪劇と上級妃の下賜に誰もが驚きを隠せない。
妃の中には「これはやり過ぎでは……」「いくら何でも……」などと呟く者もいる。
こうして、その日のうちに後宮を追い出され、下賜先のローマン伯爵邸に連れてこられたのである。
ローマン伯爵邸・玄関――――
「婚姻……ですか?そのようなことは何も伺っておりません。なにかの間違いでは?どうぞお引取りください」
執事らしき男はそう言って扉を閉めた。
はっきりいって正気を疑った。
王家の紋章入りの手紙を片手に訪れた私を一瞥すると、この対応である。
使用人の質が悪いのか、それとも執事の独断がまかり通っているのか……どちらにしても、ありえない。
一応、政略結婚だというのに。
門前払い。
これって王家に対する侮辱行為じゃないかしら?
大丈夫なの?これ……?
「とりあえず、今日は宿に泊まりましょう」
「はい、シャーロット様」
私はリコリスを連れて、馬車へと戻る。
御者は困惑しながらも、指示通りに動きだす。
まさかこんなことになるなんてね。
でも、これで良かったのかもしれない。
あの状況で婚家に居たらどんな扱いを受けるかは想像できる。まともな扱いはされない。
宿に付いたらすぐにでも両親と兄に連絡を取らなければ。
まさか両親と兄が外交で他国に赴いている時にこんな事になるなんて……ついてないわ。
まぁ、陛下がそれを狙っていた可能性も否定できないのだけれど。
「忙しくなりそうだわ」
私はこれから起こるであろう面倒ごとにため息を吐くのだった。
ただしなにも無し。
陛下がなにを考えているのかは分からないけど、こちらは気楽で良い。
毒入り菓子の件以来、離宮の贈り物は全て検閲されている。
陛下の指示……というよりも後宮を管理している人物の判断だと思う。
贈り物攻撃が効かないとなると、今度は別の嫌がらせが待っていた。
陛下主催の宴で恥をかかそうと色々画策された。
披露する演目が被っていたり、ドレスの色が被っていたり、話題や順番が重なっていた。酷い時は末席が用意されていた。流石に末席に座るわけにはいかないので丁重にお断りしたけれど。
私が断れば断るほど嫌がらせはエスカレートした。
演奏会に参加したとき、私だけが演奏をしないということもされた。
楽器は普通に弾けるので弾く必要がない場合は演奏しないよう、事前に指示を出していたから問題なかったけれど、それでも恥をかかせたかったらしい。
なんて幼稚な……と思ったのは秘密である。
そんな嫌がらせが続くものだから、後宮全体がピリピリし始めた。とはいっても、それらは白の離宮の外での出来事でしかないので、私はいつもどおりに過ごしている。
あとから来た妃たちには申し訳ないけれど、私は基本的に離宮から出ないので彼女達とは交流を持つことも少ない。
せいぜいがパーティーの時に挨拶をする程度だ。
後宮の雰囲気が益々ピリピリしたものになると、それに比例するように陛下の御渡りもなくなった。
これにはちょっとした理由がある。
寵愛する妃ができたらしい。グーシャ国王陛下が寵愛する妃は、その名もラヴリー・ボイル。
ボイル男爵家の令嬢。
陛下が地方視察の時に見初めたらしく、最近寵愛が深いと専らの噂だ。
「なるほど、それで……」
陛下の御渡りがなくなったわけだ。
これは一波乱ありそうだと思った矢先に、それはやってきた。
下級妃のラヴリーに対しての嫌がらせ。
それを私がしたと、陛下から断罪された。
王宮の夜会でのこと。
「シャーロット上級妃!今日限りで妃の位を剥奪する!以後、登城は許さぬ!!なお、元妃ということを考慮し、オウエン・ローマンとの結婚を命じる!!!これは『王命』である!!!
分かったな!!」
……余興としてなら大成功だろう。
前触れもなく、突然始まった断罪劇と上級妃の下賜に誰もが驚きを隠せない。
妃の中には「これはやり過ぎでは……」「いくら何でも……」などと呟く者もいる。
こうして、その日のうちに後宮を追い出され、下賜先のローマン伯爵邸に連れてこられたのである。
ローマン伯爵邸・玄関――――
「婚姻……ですか?そのようなことは何も伺っておりません。なにかの間違いでは?どうぞお引取りください」
執事らしき男はそう言って扉を閉めた。
はっきりいって正気を疑った。
王家の紋章入りの手紙を片手に訪れた私を一瞥すると、この対応である。
使用人の質が悪いのか、それとも執事の独断がまかり通っているのか……どちらにしても、ありえない。
一応、政略結婚だというのに。
門前払い。
これって王家に対する侮辱行為じゃないかしら?
大丈夫なの?これ……?
「とりあえず、今日は宿に泊まりましょう」
「はい、シャーロット様」
私はリコリスを連れて、馬車へと戻る。
御者は困惑しながらも、指示通りに動きだす。
まさかこんなことになるなんてね。
でも、これで良かったのかもしれない。
あの状況で婚家に居たらどんな扱いを受けるかは想像できる。まともな扱いはされない。
宿に付いたらすぐにでも両親と兄に連絡を取らなければ。
まさか両親と兄が外交で他国に赴いている時にこんな事になるなんて……ついてないわ。
まぁ、陛下がそれを狙っていた可能性も否定できないのだけれど。
「忙しくなりそうだわ」
私はこれから起こるであろう面倒ごとにため息を吐くのだった。
989
お気に入りに追加
2,178
あなたにおすすめの小説

【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。

おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です
あなはにす
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる