【完結】元妃は多くを望まない

つくも茄子

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11.後宮9

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 定期的に陛下の御渡りがある。
 ただしなにも無し。

 陛下がなにを考えているのかは分からないけど、こちらは気楽で良い。

 毒入り菓子の件以来、離宮の贈り物は全て検閲されている。
 陛下の指示……というよりも後宮を管理している人物の判断だと思う。

 贈り物攻撃が効かないとなると、今度は別の嫌がらせが待っていた。

 陛下主催の宴で恥をかかそうと色々画策された。

 披露する演目が被っていたり、ドレスの色が被っていたり、話題や順番が重なっていた。酷い時は末席が用意されていた。流石に末席に座るわけにはいかないので丁重にお断りしたけれど。
 私が断れば断るほど嫌がらせはエスカレートした。
 演奏会に参加したとき、私だけが演奏をしないということもされた。
 楽器は普通に弾けるので弾く必要がない場合は演奏しないよう、事前に指示を出していたから問題なかったけれど、それでも恥をかかせたかったらしい。
 なんて幼稚な……と思ったのは秘密である。
 そんな嫌がらせが続くものだから、後宮全体がピリピリし始めた。とはいっても、それらは白の離宮の外での出来事でしかないので、私はいつもどおりに過ごしている。
 あとから来た妃たちには申し訳ないけれど、私は基本的に離宮から出ないので彼女達とは交流を持つことも少ない。
 せいぜいがパーティーの時に挨拶をする程度だ。

 後宮の雰囲気が益々ピリピリしたものになると、それに比例するように陛下の御渡りもなくなった。

 これにはちょっとした理由がある。
 寵愛する妃ができたらしい。グーシャ国王陛下が寵愛する妃は、その名もラヴリー・ボイル。

 ボイル男爵家の令嬢。
 陛下が地方視察の時に見初めたらしく、最近寵愛が深いと専らの噂だ。

「なるほど、それで……」

 陛下の御渡りがなくなったわけだ。

 これは一波乱ありそうだと思った矢先に、それはやってきた。

 下級妃のラヴリーに対しての嫌がらせ。
 それを私がしたと、陛下から断罪された。

 王宮の夜会でのこと。

「シャーロット上級妃!今日限りで妃の位を剥奪する!以後、登城は許さぬ!!なお、元妃ということを考慮し、オウエン・ローマンとの結婚を命じる!!!これは『王命』である!!!
 分かったな!!」

 ……余興としてなら大成功だろう。
 前触れもなく、突然始まった断罪劇と上級妃の下賜に誰もが驚きを隠せない。
 妃の中には「これはやり過ぎでは……」「いくら何でも……」などと呟く者もいる。


 こうして、その日のうちに後宮を追い出され、下賜先のローマン伯爵邸に連れてこられたのである。








 ローマン伯爵邸・玄関――――


「婚姻……ですか?そのようなことは何も伺っておりません。なにかの間違いでは?どうぞお引取りください」

 執事らしき男はそう言って扉を閉めた。
 はっきりいって正気を疑った。
 王家の紋章入りの手紙を片手に訪れた私を一瞥すると、この対応である。

 使用人の質が悪いのか、それとも執事の独断がまかり通っているのか……どちらにしても、ありえない。

 一応、政略結婚だというのに。
 門前払い。
 これって王家に対する侮辱行為じゃないかしら?
 大丈夫なの?これ……?

「とりあえず、今日は宿に泊まりましょう」

「はい、シャーロット様」

 私はリコリスを連れて、馬車へと戻る。
 御者は困惑しながらも、指示通りに動きだす。
 まさかこんなことになるなんてね。
 でも、これで良かったのかもしれない。
 あの状況で婚家に居たらどんな扱いを受けるかは想像できる。まともな扱いはされない。

 宿に付いたらすぐにでも両親と兄に連絡を取らなければ。
 まさか両親と兄が外交で他国に赴いている時にこんな事になるなんて……ついてないわ。
 まぁ、陛下がそれを狙っていた可能性も否定できないのだけれど。

「忙しくなりそうだわ」

 私はこれから起こるであろう面倒ごとにため息を吐くのだった。


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