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本編
6.同僚side
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ノア・タナベル。
ライアン・キング。
この二人は『魔術学院』では知らない者はいないと言われる程に有名だった。魔力持ちだけが通う事が許される特別学校は、十三歳から十八歳の七年制であり少数精鋭の学校でもあった。年々魔力持ちが減っている現状を考えると『魔術学院』の卒業生は文字通りエリートコースが約束されている。特に花形である宮廷魔術師になったライアンは学年主席の実力者だったし、ノアも学年次席という優秀な成績を修めていた。
もっとも、二人が有名だったのは成績優秀者とはまた違う意味も含まれていたけど。
彼らから三歳年下であった私でさえ入学当時から二人の事は知っていた。二人が卒業してからは生きた伝説の如く語り継がれていたのだから相当だと思う。私はライアンがノアをストーカーの如く追いかけまわして……うん。あれは間違いなくストーカーだった。
あああ!!!
あの時、接触禁止をどうして誰も言わなかったの!?
場所を選ぶ事なく愛を告げてくるはた迷惑な男。
待ち伏せ付きまといは日常茶飯事。
気付けばノアの後ろにいる。
ホラーか!!
まぁ、恋愛オンチの鈍感男のノアを落すには押して押して押しまくってこれでもかっ!っていうくらい押すしか方法がなかったのも事実だったりするけどね。
それでもアレはないだろう。
なまじ、ノアが気にしなかったっていうのも理由だろう。けどアレはノア以外なら今頃ノイローゼになってるレベルだわ。正直、私にはムリ。
元々、二人は同性愛者ではない。
ライアン曰く「愛するノアがたまたま男の子だっただけだよ。他の男は眼中にないよ」だそうだ。
現に学校一の人気者でファンクラブまで出来ていたというのにライアンは見向きもしなかった。そしてそれは今も変わらない。人気の土台になった美貌と天才的な魔術センスと頭の良さ。ファンクラブのメンバーたちは学校を卒業しても健在で、未だに熱を上げ続けているらしい。
『スマートな身のこなしが最高だわ』
『天は二物も三物も与えるものなのね』
『ああ~ん。素敵すぎるぅ~』
『今日も凛々しいです。キャーッ!』
ファンクラブの中でも選りすぐりの熱狂的なファンたちのお決まりの言葉がこれである。ちなみにライアンの決め台詞はこれまたお決まりで「僕の心はすでにノアに捧げられているんだよ。他はいらないんだよね」である。うん。思い出したら気持ち悪くなってきた。さすがストーカー気質満載な男だわ。
しかも、彼は貴族出身。キング侯爵家の嫡男でもあった。
身分、美貌、才能、将来性、その全てを生まれながらに持っている人物なのだ。
一方ノアの方はそんなライアンとは対照的に地味だった。
整った顔立ちではあるものの印象が薄かった。この国では珍しい黒髪黒目というのも拍車を掛けている。なんでも母方の子爵家が異国の血を濃く引き継いでいるのが理由らしいわ。ノアの母方の実家、子爵家は遠い昔から異国との交流が盛んな土地柄でノア自身にも異国の血が多く流れていると聞いた事がある。ただそれだけで目立つわけもなく。ノアの容姿はこの国の人達から見て地味な部類に入った。
ただ彼の凄いところは目立たない見た目とは裏腹に努力する人だった事かしら?勉強も剣術の訓練も魔術の練習も誰よりも熱心に頑張っていた。努力家というよりも「努力の天才」と言った方がしっくりする程に。もちろん成績はいつもトップクラスだったわ。
『ノア様の努力家なところにキュンときちゃう』
『そういえばノア様って新しい魔法薬の開発に成功したんですって!雑誌に論文が掲載されていたわ!』
『確か、古代薬草を加えたとかじゃなかったっけ?』
『そう!もう使われなくなった物を再利用するって発想が斬新だって!!』
こんな感じで彼の周りにも一定数のファンはいた。
新進気鋭の若き研究者に注目するのは当然の事だろう。
放っておいたら寝食を忘れて研究に没頭する処も彼らのツボをついていたらしくて。まぁ……私から言わせればただの研究バカなんだけど。そんなこんなでノアがライアンのファンから危害を加えられなかったのは彼自身が有能だったからと、曲りなりにも国一の資産家のお坊ちゃまにちょっかいをかける猛者はいなかった。その分、陰口は堪えられなかったようだけど……。
ライアンに相応しくないだとか、暗くてウザいだの、聞くに堪えない言葉を吐く連中もいたけど、そんな連中はライアンがしっかりと報復していたからノアは知らないんじゃないかしら?
そんなノアがライアンに落ちたのは、彼らが十七歳の時。
ライアンの無駄にポジティブで一途な恋が実ったのは周囲の協力もあっての事だろう。
満面の笑みでノアを抱きしめていた交際宣言を目にした時は本当に驚いたものだわ。
ライアンは今まで見たことがないようなデレ顔を見せていて気持ち悪いったらなかったわ。対外用の笑みじゃない。本心からの笑み。あれはキモかったわ。裏表ない明け透けな男だと思っていたけどやっぱり貴族なんだと改めて思ったものよ。
そんなライアンがまさか女を孕ますなんて……天変地異の前触れかと思ったわよ。ノアは普通に浮気されたと思っているみたいだけど、絶対になにかある。それは間違いない。だってライアンがノア以外に興味があるわけないもの。
ライアンに問いただしたくても出仕してないからどうしようもないわ。風邪が長引いているらしいけど、嘘ね。仮病か、もしくは何処かのお貴族様の仕業じゃないかと思うわ。
ノアを悲しませた罪は大きいわよ、ライアン!!
それから数日後――
ライアンは職場に現れた。
ボロボロの姿で。
ライアン・キング。
この二人は『魔術学院』では知らない者はいないと言われる程に有名だった。魔力持ちだけが通う事が許される特別学校は、十三歳から十八歳の七年制であり少数精鋭の学校でもあった。年々魔力持ちが減っている現状を考えると『魔術学院』の卒業生は文字通りエリートコースが約束されている。特に花形である宮廷魔術師になったライアンは学年主席の実力者だったし、ノアも学年次席という優秀な成績を修めていた。
もっとも、二人が有名だったのは成績優秀者とはまた違う意味も含まれていたけど。
彼らから三歳年下であった私でさえ入学当時から二人の事は知っていた。二人が卒業してからは生きた伝説の如く語り継がれていたのだから相当だと思う。私はライアンがノアをストーカーの如く追いかけまわして……うん。あれは間違いなくストーカーだった。
あああ!!!
あの時、接触禁止をどうして誰も言わなかったの!?
場所を選ぶ事なく愛を告げてくるはた迷惑な男。
待ち伏せ付きまといは日常茶飯事。
気付けばノアの後ろにいる。
ホラーか!!
まぁ、恋愛オンチの鈍感男のノアを落すには押して押して押しまくってこれでもかっ!っていうくらい押すしか方法がなかったのも事実だったりするけどね。
それでもアレはないだろう。
なまじ、ノアが気にしなかったっていうのも理由だろう。けどアレはノア以外なら今頃ノイローゼになってるレベルだわ。正直、私にはムリ。
元々、二人は同性愛者ではない。
ライアン曰く「愛するノアがたまたま男の子だっただけだよ。他の男は眼中にないよ」だそうだ。
現に学校一の人気者でファンクラブまで出来ていたというのにライアンは見向きもしなかった。そしてそれは今も変わらない。人気の土台になった美貌と天才的な魔術センスと頭の良さ。ファンクラブのメンバーたちは学校を卒業しても健在で、未だに熱を上げ続けているらしい。
『スマートな身のこなしが最高だわ』
『天は二物も三物も与えるものなのね』
『ああ~ん。素敵すぎるぅ~』
『今日も凛々しいです。キャーッ!』
ファンクラブの中でも選りすぐりの熱狂的なファンたちのお決まりの言葉がこれである。ちなみにライアンの決め台詞はこれまたお決まりで「僕の心はすでにノアに捧げられているんだよ。他はいらないんだよね」である。うん。思い出したら気持ち悪くなってきた。さすがストーカー気質満載な男だわ。
しかも、彼は貴族出身。キング侯爵家の嫡男でもあった。
身分、美貌、才能、将来性、その全てを生まれながらに持っている人物なのだ。
一方ノアの方はそんなライアンとは対照的に地味だった。
整った顔立ちではあるものの印象が薄かった。この国では珍しい黒髪黒目というのも拍車を掛けている。なんでも母方の子爵家が異国の血を濃く引き継いでいるのが理由らしいわ。ノアの母方の実家、子爵家は遠い昔から異国との交流が盛んな土地柄でノア自身にも異国の血が多く流れていると聞いた事がある。ただそれだけで目立つわけもなく。ノアの容姿はこの国の人達から見て地味な部類に入った。
ただ彼の凄いところは目立たない見た目とは裏腹に努力する人だった事かしら?勉強も剣術の訓練も魔術の練習も誰よりも熱心に頑張っていた。努力家というよりも「努力の天才」と言った方がしっくりする程に。もちろん成績はいつもトップクラスだったわ。
『ノア様の努力家なところにキュンときちゃう』
『そういえばノア様って新しい魔法薬の開発に成功したんですって!雑誌に論文が掲載されていたわ!』
『確か、古代薬草を加えたとかじゃなかったっけ?』
『そう!もう使われなくなった物を再利用するって発想が斬新だって!!』
こんな感じで彼の周りにも一定数のファンはいた。
新進気鋭の若き研究者に注目するのは当然の事だろう。
放っておいたら寝食を忘れて研究に没頭する処も彼らのツボをついていたらしくて。まぁ……私から言わせればただの研究バカなんだけど。そんなこんなでノアがライアンのファンから危害を加えられなかったのは彼自身が有能だったからと、曲りなりにも国一の資産家のお坊ちゃまにちょっかいをかける猛者はいなかった。その分、陰口は堪えられなかったようだけど……。
ライアンに相応しくないだとか、暗くてウザいだの、聞くに堪えない言葉を吐く連中もいたけど、そんな連中はライアンがしっかりと報復していたからノアは知らないんじゃないかしら?
そんなノアがライアンに落ちたのは、彼らが十七歳の時。
ライアンの無駄にポジティブで一途な恋が実ったのは周囲の協力もあっての事だろう。
満面の笑みでノアを抱きしめていた交際宣言を目にした時は本当に驚いたものだわ。
ライアンは今まで見たことがないようなデレ顔を見せていて気持ち悪いったらなかったわ。対外用の笑みじゃない。本心からの笑み。あれはキモかったわ。裏表ない明け透けな男だと思っていたけどやっぱり貴族なんだと改めて思ったものよ。
そんなライアンがまさか女を孕ますなんて……天変地異の前触れかと思ったわよ。ノアは普通に浮気されたと思っているみたいだけど、絶対になにかある。それは間違いない。だってライアンがノア以外に興味があるわけないもの。
ライアンに問いただしたくても出仕してないからどうしようもないわ。風邪が長引いているらしいけど、嘘ね。仮病か、もしくは何処かのお貴族様の仕業じゃないかと思うわ。
ノアを悲しませた罪は大きいわよ、ライアン!!
それから数日後――
ライアンは職場に現れた。
ボロボロの姿で。
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