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~第四章~

92.サバスside ~調査4~

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「狸だよね、あの記者。絶対に何か隠しているよ。隠していることを僕達に話すつもりはないみたいだけどね」

「そうだな」

 ランバートは何か隠している。
 だがそれを話すつもりはないらしい。
 それはきっと知ればまずいことなんだろう。
 笑顔で牽制してきたのは俺もエヴァンは気付いてる。
 彼も俺達が気付いたのを知っている。

 だから本来話す必要のないことを話した。

「手掛かりは掴めたんだ。それで良しとしよう」

「そうだね。で、次はどうする?僕としては当時から学校にいる人を探して話を聞くべきだと思うんだけど」

「そうだな。それが無難か」

 マッド共は間違いなく当時からいたはずだ。
 なにかしら知っているかもしれない。
 一介の記者と違って彼らも魔術師。それも凄腕だ。秘儀することもないだろう。

「じゃあ、行こうか」

「ああ」

 俺達はマッド共イカレ教師が根城とする場所研究室へ向かった。

 









「転落事故じゃと……?」

「はい、そうです」

 マッド共は快く俺達を歓迎してくれた。
 エヴァンも笑顔で対応している。

「はて?そんなことあったかのぉ?」

「あったんですよ。当時、留学していたオレフ王国の王太子が転落したんです」

「そんなこともあったかのぉ……?」

 マッドは顎に手を当てて考え込んでいる。
 覚えていないようだ。

「誰か覚えておるかのぉ?」

 マッドが他の四人に問いかけた。
 彼らは顔を見合わせて首を横に振ったり、「知らない」と口々に言ったりしている。

「そうか……」

 マッドは残念そうに呟いた。
 本当に覚えていないのか?
 それとも演技なのか?
 あり得る。
 マッド共ならやってのける。

「残念じゃが、儂らでは役に立ちそうにないのぉ。すまんのぉ」

 マッドは頭を下げた。
 他の四人も「ごめんね」と謝る。
 エヴァンは残念そうに肩を落とした。
 どこまで本当なのかは分からないが年より連中相手にムチャはできない。
 エヴァンもそれが分っているのか、別の質問をした。

「では別のことを聞いても?」

「なんじゃ?」

「二十年前に在校生の中で犯罪をおかした人はいませんか?」

「ふぉふぉふぉ。面白い質問をするのぉ」

 マッドは笑った。
 何か知っているようだ。

「そうさなぁ。色々な生徒がおるが彼らほど個性的な者はそうおらんだろうよ」

「この国にはおらん。だがのぉ他国では別じゃな」

「ああ、かなり頭がおかしい連中じゃ」

「まぁの。みんな塀の中なものでのぉ。会うことはできんじゃろうて」


 イカレたマッド共から「イカレている」と評されるとは相当だろう。
 マッド共は「儂らも人のことは言えんがね」と笑っていたが。

「それでも塀の向こう側じゃないだけマシじゃ。あいつらはのぉ、おいたが過ぎたようじゃ」

「ふぉふぉふぉ。若さゆえの暴走じゃな」

「恐ろしいことじゃ」

「お主らは……まぁ、大丈夫そうじゃな。よしよし、これをあげよう。持っていきなさい」

 マッドは懐から小さな箱と古い資料をエヴァンに渡した。

「これは?」

「ん?ああ、それはなぁ。儂が趣味として色々調べたものじゃ」

「はあ……え……と……?」

「お主らの役に立つじゃろうて」

「はあ、ありがとうございます?」

 エヴァンは不思議そうに箱と資料を受け取った。
 分かる。
 俺にはエヴァンの気持ちが痛いほど分かる。
 困惑するのも無理ない。
 このマッド共がタダでくれるとは珍しい。ああ、非常に珍しい。
 いやいや、相手は腐っても教育者。生徒のことを思って……ダメだ。まったく想像できない。何か裏があるのでは?と勘ぐってしまう。

 それとも……。

「ふぉふぉふぉ。ではの、またいつでも来るといい」

 笑顔のマッド共が不気味だ。
 こいつら何か企んでいないか?

 


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