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~第四章~
91.サバスside ~調査3~
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当時の記者にはすぐに会えた。記者の名前はランバート。
三十代後半の茶髪の男性だ。
「二十年前の転落事故?ああ、覚えていますよ。だってあの事件は有名でしたからね」
ランバートは当時のことをよく覚えていた。
「当時、私は新米記者でしてね。あの転落事故の記事を先輩と一緒に書いたんですよ。その一年もしないうちに二度目の事件でしょう?嫌でも忘れられませんよ。あの事件の記事も私が書きましたからね。それで?何を知りたいんですか?」
「あの転落事故の背景を知りたいんです」
「背景ですか。うーん、私が知っているのはあの転落事故が事件だったってことくらいですよ。当時の新聞にも書いてありましたし、先輩も言ってましたしね。でも、詳しいことは何もわかりませんよ?ただの事故としか私には言えませんので」
「本当に事故だとお思いで?」
「……それ以上は言えません」
ランバートは目を伏せて黙り込んでしまった。
「ただ、あの事故から全てが始まったと私は考えていますよ」
「それはどういう……」
「オレフ王国の王太子の事故死ということで当時の学校は大混乱でしたからね。事故調査など最小限で行われたんです。だから私も後から知りました。オレフ王国からもう一人王子が留学していたということをね。マスコミの餌食になることを恐れたのか、それとも彼も事故死させられることを恐れたのかは知りませんが。王太子の一つ下の弟王子の存在は徹底的に隠されていたんです」
「何故隠す必要があったのでしょう?」
「さあ、私にはわかりません。当時の学校関係者や王家からの圧力があったのかもしれませんし、もしかしたら何か別の理由があったのかもしれませんね」
ランバートは肩を竦めた。
これ以上は何も言えないという意思表示だろう。
エヴァンも察したのかそれ以上を聞くことはなかった。
「ただ、一緒に留学してきた弟王子も身分は偽っていましたよ。王太子と違って貴族としてね。だから余計に怪しまれなかったとも言いますが。ああ、それと、弟王子はその後オレフ王国の国王に即位しています。同じ学校に通っていた女子生徒を王妃にしてね」
「へぇ、そうなんですか。学生時代に愛を育んだってところで、なんだかロマンティックですね」
エヴァンは身を乗り出した。
王族の恋愛事情など知りたくないが、今ここで言ったということは事故の件と何か関係があるのだろうか。
「ええ、本当に。ですが、当時の弟王子を知っている人は『彼の恋人は別にいた』と言うんですよ。『男爵令嬢と付き合っていたなんて知らなかった』とね。同じ学校に通う女子生徒だったそうで、学年でも有名だったそうですよ。仲の良い恋人同士だと。もっとも、その女子生徒はその後どうなったかまでは知りませんが。私は当時まだ新米記者でしたからね」
「それって……」
エヴァンは何かを察したらしい。
俺はさっぱりわからないが、何かを考え込んでいる様子だ。
ただの心変わりじゃないのか?
「なるほど、参考になりました」
「いえいえ、どういたしまして。お力になれず申し訳ない」
「こちらこそ貴重なお時間をとっていただきありがとうございました」
エヴァンは丁寧に頭を下げた。
俺もそれに倣う。
ランバートは笑顔で俺達を見送った。
三十代後半の茶髪の男性だ。
「二十年前の転落事故?ああ、覚えていますよ。だってあの事件は有名でしたからね」
ランバートは当時のことをよく覚えていた。
「当時、私は新米記者でしてね。あの転落事故の記事を先輩と一緒に書いたんですよ。その一年もしないうちに二度目の事件でしょう?嫌でも忘れられませんよ。あの事件の記事も私が書きましたからね。それで?何を知りたいんですか?」
「あの転落事故の背景を知りたいんです」
「背景ですか。うーん、私が知っているのはあの転落事故が事件だったってことくらいですよ。当時の新聞にも書いてありましたし、先輩も言ってましたしね。でも、詳しいことは何もわかりませんよ?ただの事故としか私には言えませんので」
「本当に事故だとお思いで?」
「……それ以上は言えません」
ランバートは目を伏せて黙り込んでしまった。
「ただ、あの事故から全てが始まったと私は考えていますよ」
「それはどういう……」
「オレフ王国の王太子の事故死ということで当時の学校は大混乱でしたからね。事故調査など最小限で行われたんです。だから私も後から知りました。オレフ王国からもう一人王子が留学していたということをね。マスコミの餌食になることを恐れたのか、それとも彼も事故死させられることを恐れたのかは知りませんが。王太子の一つ下の弟王子の存在は徹底的に隠されていたんです」
「何故隠す必要があったのでしょう?」
「さあ、私にはわかりません。当時の学校関係者や王家からの圧力があったのかもしれませんし、もしかしたら何か別の理由があったのかもしれませんね」
ランバートは肩を竦めた。
これ以上は何も言えないという意思表示だろう。
エヴァンも察したのかそれ以上を聞くことはなかった。
「ただ、一緒に留学してきた弟王子も身分は偽っていましたよ。王太子と違って貴族としてね。だから余計に怪しまれなかったとも言いますが。ああ、それと、弟王子はその後オレフ王国の国王に即位しています。同じ学校に通っていた女子生徒を王妃にしてね」
「へぇ、そうなんですか。学生時代に愛を育んだってところで、なんだかロマンティックですね」
エヴァンは身を乗り出した。
王族の恋愛事情など知りたくないが、今ここで言ったということは事故の件と何か関係があるのだろうか。
「ええ、本当に。ですが、当時の弟王子を知っている人は『彼の恋人は別にいた』と言うんですよ。『男爵令嬢と付き合っていたなんて知らなかった』とね。同じ学校に通う女子生徒だったそうで、学年でも有名だったそうですよ。仲の良い恋人同士だと。もっとも、その女子生徒はその後どうなったかまでは知りませんが。私は当時まだ新米記者でしたからね」
「それって……」
エヴァンは何かを察したらしい。
俺はさっぱりわからないが、何かを考え込んでいる様子だ。
ただの心変わりじゃないのか?
「なるほど、参考になりました」
「いえいえ、どういたしまして。お力になれず申し訳ない」
「こちらこそ貴重なお時間をとっていただきありがとうございました」
エヴァンは丁寧に頭を下げた。
俺もそれに倣う。
ランバートは笑顔で俺達を見送った。
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