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~第三章~

66.宰相(アンハルト王国)side

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 最悪だ。
 自国の王女の結婚式だ。主だった貴族達は殆ど出席している。その中で醜態を晒すとは……。予定していた披露宴は当然、取りやめになった。

 王女を有無を言わさず王宮に運び込んだが、自室で泣き叫ぶ。

 
「離してちょうだい!どうして邪魔するの!?彼が!サビオが私を助けに来たのに!!」

 いや、サビオ殿は助けに来た訳ではない。その前に王女殿下がサビオ殿だと叫んだ相手は全くの別人だ。

「どうして愛し合う私達の邪魔をするの!!」

 いや、愛してない。そんなものは過去も現在も未来にだってない!一人で騒いでいるだけではないか! しかし王女は止まらない。

「邪魔さえ入らなければ今頃私は……サビオと一緒になれたのに!結婚できたのにっ!!」

 結婚?出来るか!馬鹿王女が!
 勝手に結婚式の招待状をブランデン王国に送り付けただけで問題だというのに。その事を全く理解していない。

「サビオに会わせなさい!」

「それは出来ません」

「何故!?」

「何故?それはこちらがお聞きしたいですよ。王女殿下。何故、サビオ殿に会わせられると思うのですか?精神を病み廃人寸前の王女殿下は本人と認識できない状態なのですから」

「私は精神など病んでいません!」

「そういう事になっているのです。精神状態のおかしな王女殿下が結婚式の最中で錯乱した。それで、話はまとまっているんです」

「私は正常だわ!サビオは私を助けに、」

 バキッ、バサッ!
 思わず近くにあった文箱を蹴っ飛ばした。しかし、そのお陰で王女が「ひっ!?」と悲鳴を上げると大人しくなった。

「いいですか、王女殿下。よく聞いてください。殿下がサビオ殿と認識した男性はサビオ殿ではありません」

「嘘よ!!」

「本当です」

「彼はサビオよ!間違いないわ!私が愛する婚約者を見間違えるはずがなもの!!」

「……何をもって彼をサビオ殿だと認識したのでしょう?」

「だって!だったじゃない!!」

 この王女は自分の婚約者だったサビオ殿を髪色で判断したのか?!なんて浅はかな。馬鹿げている。そもそも人を髪色で判断するのおかしいだろうが!

「王女殿下、確かにサビオ殿はですが、王女殿下がサビオ殿だと思い込んだ相手はの男でしたよ」

「そ、そんなことは……」

「瞳の色もそうです。サビオ殿は黒髪同様に夜のような漆黒の色。褐色髪の男は何色でしたか?茶色の目をしていた筈です」

「……」

「そもそも、自分を貶めた相手を愛する筈がないでしょう。会う事も不快に感じる筈です」

「そんなこと!」

「あります!」

 そこで絶句する王女の思考回路が理解できない。
 自分を殺そうとしたも同然の相手を愛する?何の冗談だ。よくもまぁ、そんな妄想ができるものだ。

「王女殿下、これ以上、恥を晒すのはおやめください」

 私は溜息をつき、護衛に王女を夫の元に連れていくように指示をだした。
 降嫁した王女は伯爵夫人となった。
 新婚だというのに夫婦仲は冷え切っている。

 王女は屋敷の自室に引きこもって出てこないらしい。
 夫が寝室に侵入してこないように鍵をかけているとか。
 白い結婚を狙っているのだろうか?
 あの王女殿下の事だ。只単に夫と閨を共にしたくないだけだろう。もっとも例え白い結婚を継続しても離縁はできない。神殿側が決して認めないだろう。

 

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