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~第三章~
57.ブランデン国王side
しおりを挟むこれが一国の国王と王女が出す手紙だろうか?
「これは酷すぎます」
宰相の言葉に深く同意せざるを得ない。
自分達がサビオにした仕打ちを忘れたのか?
よくもまぁ図々しく手紙が出せたものだ。
愚かすぎる。
まさかとは思うが、本当に覚えていないのか?
それとも彼らの頭の中では『無かった事』にでもなっているのか?
だからこんな内容を書けるのか?
罪悪感が一切感じられない。
謝罪の一言もない。
使者達もそうだ。
彼らは主人である国王の言葉をそのまま言うだけ。子供の使いではないのだぞ?
丁寧に送り帰せば、手前勝手な難癖をつけてくる始末。
自分達の行動を振り返って文句を言って欲しいものだ。
「返せと言われてもな……」
「このような手立てで来るとは思いもよりませんでした」
「私もだ。秘密裏に謝罪してからの交渉になると思っていたのだがな……」
正直、予想外過ぎた。
まさかこんな手段を取ってくるなんて思わなかった。
馬鹿の一つ覚えのように「我が国の侯爵子息を返還しろ」の一点張り。
その前にやる事があるだろうに。
ブランデン王国としては、いくら言われようと本人だと認める事はできない。だからこそ「そんな人間は存在しない」と言っているのだ。言葉を濁しながら分かり易く伝えてやった。
「何度も言うが本人がいないのだから返しようがない」――と。
勿論これは表向きの理由だ。
正確には本人が拒否しているし、その上、偽物の存在が未だにあの国にいる以上はどうしようもできない。遠回しに「偽物と神殿をどうにかしろ。話はそれからだ」と言っているのに、向こうの国王は聞く耳持たず。まるで話が通じない。挙句の果てに「サビオが戻れば全てが上手くいく。問題が全て解決するんだ」などと宣う始末。
呆れて物も言えないとは正にこの事だ。
私の気持ちとしては「知ったことか!自分で蒔いた種だろう。自業自得だ!!尻拭いをサビオにさせる気か!!てめぇの尻はてめぇで拭け」と言いたい。勿論、心の声だ。言葉にすると相手を刺激しかねないからな。まぁ、歪曲して伝えたが、あの国王の事だ、私の言わんとしていることの十分の一も理解していないだろう。
一早く気が付いて欲しいものだが……残念ながら無理だろうな。何とも情けない。
あの阿保国王がそれに気づくのは一体いつになることやら。
「全く、愚かな事だ……」
思わず愚痴が漏れてしまう。だが、仕方あるまい。
「どういたします?」
宰相も困り顔だ。私と同じ意見だろう。
「この調子では何時になっても話が進まないでしょうね」
宰相が眉間に指を当てながら呟いた。彼の言い分は尤もだ。
これ以上放置する事もできない。そろそろ手を打つ必要がある。
「国王が人の話は聞かないのだから話し合いに応じる必要はない。かと言ってこのまま放置したところで諦めないだろう。下手をすればサビオを誘拐する可能性もある」
「はい。あちらの重鎮達は偽物を本物のままでいさせるようです」
「そんなところにサビオを戻せるはずがない」
「神殿の動きも気になります」
「ああ、そうだな。彼等の狙いは何だ?」
「私にもさっぱり」
私にも分からない。神殿の真意が全く読めない。そもそもサビオを偽物の侯爵子息とした意図が解らない。
「正式な使者をだす」
「それでは!?」
「アンハルト王国に厳重に注意して二度とこのような事が無いようにしてくれ」
「畏まりました」
こうして、私とアンハルト王国の間で密約が成立した。
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