上 下
48 / 94
~第三章~

47.父親side

しおりを挟む
 誕生して数ヶ月で言葉を理解した赤子がいる。
 次男のサビオだ。
 二歳になる頃には文字を覚えていた。

 だから期待していた。
 五歳の魔力鑑定日を。
 長男以上の魔力量に違いないと、楽しみにしていた。

 だが、サビオは『魔力無し』だった。

 どういう事だと思った私は悪くないだろう。
 何度も確認した。
 鑑定間違いという事もあり得る。

 そう考えた。

 残念ながら間違いでは無かった。

 魔術師を代々輩出してきたパッツィーニ侯爵家。
 私の息子に『魔力無し』が出た事に落胆を隠せなかった。
 それと同時に我が子の安全を危惧した。
 もっとも、それは杞憂に終わったが……。

 ただ、サビオは『天才』『神童』と有名になり過ぎてしまった。
 息子を利用しようとする者は多い。
 王家も同じだ。
 サビオの将来性を評判を聞きつけて王女殿下と婚約させられた。


『跡取りでない御子息に箔が付くというものです』

『実に幸運だ』

『婚姻前に国王陛下から直々に爵位を与えられるという話も出ていると聞きます』

『素晴らしい! 名誉な事ですよ!』

『これで侯爵家も安泰!出来の良い御子息を持って羨ましい限りだ』

『サビオ殿も喜ぶでしょう』


 などと口では言っていたが、内心どう思っているか分かったものではない。
 私は貴族連中を信用していない。

 そもそも貴族とは傲慢な生き物なのだ。
 己の利益の為に平気で他人を犠牲にする。
 特に王家や上位の貴族ほどその傾向が強い。
 だからこそ慎重に行動しなければならない。


 それはサビオが取り換えっ子だと判明した時でも同じだ。

 実の息子。
『本物の次男』だと紹介された少年は確かに私達家族に似ていた。
 妻は「私の子よ」と叫んで抱きしめていた。
 そうして『本当の家族』としての生活が新たに始まった。
 だが、違和感しか感じない。
 急に息子だと言われてもそう簡単に納得できるものではない。
 ましてや、十二年間市井で暮らしていた子供だ。
 礼儀作法など知らない。
 マナーもなっていない。
 貴族の常識もない。
 そんな子供を息子として受け入れろと?

 魔力はあるものの、サバスに比べれば微々たるものだ。
 魔法の才能があるとは思えない。

 本当に実の息子なのか疑問しかない。
 サバスも同じように考えているようだ。
 ある日、我慢できなくなったのか「弟とは思えない」と遠回しに言ってきた。
 気持ちは分かる。
 なので、同盟国に留学させた。
 妻は『本物の次男』に夢中で、長男が家からいなくなっても気にする様子はない。



「少し調べて欲しい事がある」

 私は信頼できる部下に指示を出した。
『本物の次男』の再調査だ。
 国王陛下がサビオ不在で政治が回らないと嘆き、取り戻そうと躍起になっている今がチャンスだろう。
 この機を逃すわけにはいかない。

 我が国と交流は少ないが魔道具の技術力が高い国から『親子鑑定装置』なる物を貸してもらった。
 これを使えば、他人の血族かどうか判断出来るらしい。
 本来なら王族の血筋のみに使用するものらしいのだが、今回は特別に使用許可を頂いた。勿論、王家には内密だ。

 結果は予想通りだった。
『本物の次男』は『偽物』だった。

 それが判明した数週間後、サビオの居場所が分かった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

同僚の裏の顔

みつきみつか
BL
【R18】探偵事務所で働く二十五歳サラリーマン調査員のフジは、後輩シマと二人きりになるのを避けていた。尾行調査の待機時間に、暇つぶしと称してシマとしごき合うようになり、最近、行為がエスカレートしつつあったからだ。 ある夜、一週間の張りつき仕事に疲れて車で寝ていたフジのもとに、呼んでいないシマがやってくる。そしてモブ男女の野外セックス現場に出くわして覗き見をするうちに、シマが興奮してきて――。 ◆要素◆ イケメン後輩執着S攻×ノンケ先輩流され受。 同じ職場。入社時期が違う同い年。 やや無理矢理です。 性描写等は※をつけます。全体的にR18。  現代BL / 執着攻 / イケメン攻 / 同い年 / 平凡受 / ノンケ受 / 無理矢理 / 言葉責め / 淫語 / フェラ(攻→受、受→攻)/ 快楽堕ち / カーセックス / 一人称 / etc ◆注意事項◆ J庭で頒布予定の同人誌用に書く予定の短編の試し読み版です。 モブ男女の絡みあり(主人公たちには絡みません) 受は童貞ですが攻は経験ありです ◆登場人物◆ フジ(藤) …受、25歳、160cm、平凡 シマ(水嶋) …攻、25歳、180cm、イケメン

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...