上 下
47 / 94
~第三章~

46.兄side

しおりを挟む
 弟は可愛い。
 それは本当だ。

 サビオは俺の可愛い弟だった。

 俺よりも賢い。
 覚えも早い。
 記憶力も良い。

 可愛かった。
 なのに……。

 可愛い弟はいつの間にか劣等感を抱く存在になっていった。
 小さい頃のように仲良くしたい。
 ずっとそう思っていた。

 でも、できなかった。

 異例の速さで最高学府を卒業した弟は、そのまま王太子の側近になった。
 そうして俺は側近候補から外された。

 兄弟で側近になる事は贔屓に繋がると言われて。


『サビオ殿は優秀だから仕方がない』

『兄として弟に譲ってあげるべきだ』

『なに、サバス殿はいずれ父君の後を継いで宮廷魔術師になるのだから』

 そう周りから言われ続けた。
 俺とサビオでは将来性が違うのだと言われた気がした。

 意地の悪い連中の中には「魔力無しの弟に負けるなんて」と言う奴もいた。
 大人の中には「弟君は魔力がない可哀想な身の上だ」と言う者もいた。

 何だかんだ言ってサビオの方が優れているのだと、そう思っているような口ぶりだった。
 それが悔しかった。
 なんでだよ?
 俺だって必死に頑張っているんだ!
 周囲の言葉によってサビオに冷たい態度しか取れなくなっていった。
 そんな自分に嫌気がさしていた。
 弟の事が好きだった。
 仲直りがしたい。
 謝って許してもらいたい。
 だが、もう遅い。

 サビオはいなくなった。

 俺の弟じゃなかった。
『本物の弟』が家に入ってきた。
 俺達家族とよく似た容姿の本物。

 母上は『本物の弟』に夢中だ。

 天使のように愛らしい容姿。
 なのに何故か嫌悪を抱いてしまう。

 可愛らしい態度。
 婀娜っぽさを感じて気色悪い。

 笑顔を向けられるたびに嫌悪感が増していく。
『本物の弟』なのに。

 サビオのように可愛いと思えなかった。


 我慢できなくなって父上に言った。

アヴィド本物の弟を可愛く思えない」

 父上は一言、「そうか」と呟いただけだった。

 その後、俺は同盟国に留学することが決まった。


 俺の住む国、アンハルト王国の周辺には幾つかの小国が存在している。
 まぁ、アンハルト王国もその小国の一つだ。
 小国同士で同盟を組んでいる状態が長年続いている。なんでも大国に対抗するためだ。だからと言うか、同盟国の王族は互いに政略結婚を繰り返している。

 アンハルト王国は魔法が発展している国だ。
 その一点だけで同盟国の中でも優位に立っていると分家達が話していた。


 俺が留学する事に一族はかなり揉めたようだ。
 結局、父上の鶴の一言で収まったが。


「サバス、外の世界を知れ」

 そう言って送り出してくれた父上には感謝しかない。

 だから気付かなかった。
 父上が俺を留学させた真の目的を。


 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。

章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。 真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。 破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。 そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。 けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。 タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。 小説家になろう様にも投稿。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

飽きたと捨てられましたので

編端みどり
恋愛
飽きたから義理の妹と婚約者をチェンジしようと結婚式の前日に言われた。 計画通りだと、ルリィは内心ほくそ笑んだ。 横暴な婚約者と、居候なのに我が物顔で振る舞う父の愛人と、わがままな妹、仕事のフリをして遊び回る父。ルリィは偽物の家族を捨てることにした。 ※7000文字前後、全5話のショートショートです。 ※2024.8.29誤字報告頂きました。訂正しました。報告不要との事ですので承認はしていませんが、本当に助かりました。ありがとうございます。

今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ
恋愛
 侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。  それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。  オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが…… 「そろそろ許してあげても良いですっ」 「あ、結構です」  伸ばされた手をオデットは払い除ける。  許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。  ※全19話の短編です。

処理中です...