上 下
25 / 94
~第一章~

25.とある外交官side

しおりを挟む
 サビオ・パッツィーニ。
 彼は『天才』だ。

 数百年に一度の『神童』とさえ言われていた。

 わずか五歳で既に最高学府を受験するだけの頭脳を持ち、その知識量も半端ではない。

 王太子殿下が秘かに彼に劣等感を感じていたとしても不思議ではない。
 実際に彼と比べられて、嫌な思いをしていたようだ。



 あれは数年前。
 彼がまだ六歳の子供だった頃。

 王宮で行われた茶会。
 そこに彼も来ていた。
 茶会と言う名目の交流会。
 王太子の側近候補を選ぶためのものだった。

 最有力候補は、サバス・パッツィーニ。
 そう、サビオ殿の兄上だ。

 側近候補は王太子と歳の近い男児が選ばれる。『学友』となり共に切磋琢磨し合い、将来は側近として仕える事になる。
 彼の兄は王太子より二歳下の九歳。
 将来は筆頭魔術師としての頭角を現し始めていた。
 また、同年代の中では群を抜いて優秀で、勉学でも剣術でもトップクラスの成績を修めていた。

 もっとも、サビオ殿の方がずっと優秀だった。

『パッツィーニ侯爵家の次男、サビオ・パッツィーニと申します。以後お見知りおき下さいませ』
 丁寧な挨拶をされ、誰もが好印象を抱いた。
 礼儀正しく聡明で利発そうな男の子。
 幼児とは思えないしっかりとした受け答えに、誰もが驚いたものだ。
 天才と言われるだけの事はある。それが第一印象だった。

『僕はアルヴァーンだ!よろしく!』

 サビオ殿を睨みながら握手を求める王太子。
 とてもじゃないが、仲良くしたといった態度では無かった。
 会場の注目が自分からサビオ殿に向いた事に苛立っているようだった。
 サビオ殿は一瞬だけ不快そうにしたのだが、すぐに笑顔を浮かべて対応された。

『はい、よろしくお願いします。アルヴァーン様』

 王太子の手を握り返す。
 王太子は満足げに笑っていた。

 サビオ殿は笑顔のままだったが、その目は笑っていなかった。
 まるでゴミを見るかのような目だった。
 誰も気付かなかったが、私は気付いた。
 あの時の衝撃は今でも忘れられない。サビオ殿は、本当に賢く、そして何よりも聡い方なのだと実感した瞬間でもあった。
 王太子が私情で彼を追放したのだと知った時、心底呆れた。
 あれだけ尻拭いさせておいて、よくそんな事が出来たものだと怒りを通り越して感心してしまったほどだ。優秀なサビオ殿の才能に嫉妬していたのだろう。王太子がもう少し強かな性格なら、あんな事態には陥らなかったはずだ。


 自分より遥かに優秀な側近サビオ
 王太子である事を理由に彼を下に見ていた。
 そうする事でプライドを保っていたのだろう。

 自信を高めるための努力を一切せずに、相手を無意識に否定し続ける。
 周囲がそれに気付かない筈がなかった。
 優秀だが王太子に軽んじられる存在は、徐々に周囲からも同じ対応をされるようになった。


 結果、王女からの婚約破棄と国外追放の宣言だ。
 周囲の大人たちが唖然としている間に、全てが終わっていた。あっという間だった。口を出すタイミングを逸していた。

 事前の打ち合わせがされていた事は明らかだ。
 こういう事には抜け目がない。
 悪知恵が働くと言うべきだろうか。


 彼がいなくなった事で仕事に支障が出た事を知り、国王陛下が慌てて「連れ戻せ」と命じてきたが、正直言ってもう遅いと思った。

 国王の命令とはいえ、連れ戻すなど無理がある。
 そもそも隣国に行った理由が理由だ。王太子と王女が勝手に国外追放の命令を出したからだ。
 国王は、自分が許可を出した訳ではないので大丈夫だと言うが、そんな筈がないだろう。
 あまりにも身勝手すぎる命令だ。
 国王命令を出したとしても、彼が素直に従う訳がない。
 むしろ、全力で逃げるだろう。

 私なら逃げる。全速力で。





しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

真面目に仕事をしていただけなのに、戦帝に好かれちゃいました

ヒンメル
恋愛
元男爵令嬢ナディアは体を悪くした父を抱え、騎士団詰所で侍女の仕事に励んでいた。そんなある日、国の英雄である戦帝オスカー・グラフトンが王都に帰還したのだった。そんな二人が出会ったことにより何かが起こるのか?起こらないのか?(→起こらないと話が進まない……) ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...