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~第一章~

19.司祭side

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 伯爵も甘い。
 仕事は出来る男だ。
 家庭よりも仕事といった仕事人間だというのに。
 どうやら娘は可愛いらしい。

 名馬と宝剣を与えている。

 あの伯爵の事だ。てっきり娘を切り捨てるものだとばかり思っていた。まさか親子の情に流されるとは……。意外だ。

 

「司祭様」

「どうだった?」

「二人はギルドのままとの報告です」

「国から出たのか?」

「はい」

「それならいい」

「はい……」

 随分、疲れた顔をしている。
 この者にはスパイ組織の洗い出しを命じていた。それに加えて二人の動向を見張るように命じていた。現場は他の者に任せていた筈だが全体の指揮を執っていたのは彼だ。

 未だに正体不明の組織だ。実態が分からない。


「ネズミどもは?」

「……何も吐きません」

「そうか」

「如何なさいますか」

 処分するか、それとも……。
 まだ早いか。

「生かしておく」

「はい」
 
「引き続き頼むぞ」
 
「承知しました」

 頭を垂れて部屋を出て行く男に視線を向ける。神殿にまで潜り込まれているとは思わなかった。下っ端の神官見習いではあるがな。

 盲点だった。
 移民の孤児とは。
 孤児が神官になるのは何も珍しくない。幾人といる。

 南か……。
 あの辺りには獣人も多いからな。

「面倒なことよ」

 小さく呟く。
 今はまだ泳がせておこう。
 だが、もし奴らが動き出したら容赦しない。

 やはり国と連携を取った方が良いな。
 騎士団を神殿に派遣させるよう進言してみるか。

 一度、伯爵と話し合わねば。

 あの馬鹿二人は大丈夫だろう。
 利用価値がなければ狙われる心配はない。
 腕の立つ女剣士。
 回復魔法が得意な魔法使い。
 冒険者ギルドでは珍しくない二人組だ。

 下手に肩書など付けない方が良い。
 普通に生きられる筈だ。


「甘いのは私も同じか……」

 二人と同じだというのに、宮廷魔術師の末路を思えば甘い処罰だ。あの魔術師は死ぬまで王宮の籠の鳥。利用価値がなくなるまで美しく囀り続けなければならない哀れな少女だ。魔力を吸い取られる苦痛。それは想像を絶する痛みが伴う。

 魔力を奪う特殊な指輪。

 それを嵌められた者の末路は悲惨だ。

 あの少女の魔力量を持っていれば、そう簡単には死なないだろう。成長が若干早くなる程度で済む。これが平均的な魔力量の持ち主ならば一年と経たずに魔力と生命力を吸収されて朽ち果てている。



「娘をそんな目にあわせたくない親心が勝った結果だな」

 魔術師の少女にも親代わりはいた。にも拘らず、あの筆頭魔術師は何に躊躇いもなく少女を罰した。



『恩を仇で返されたんですよ?当然の報いでしょう』

『国家反逆者を生かしてあげるんです。寧ろ感謝して欲しいくらいですよ』

『放逐?バカな事を言わないでください。あのレベルの魔術師を野に放つなどとんでもない』

『彼女も国家に尽くす覚悟を持って宮廷魔術師になったです。この処罰は妥当だと思っている事でしょう』



 国に忠誠を尽くす見本だと感心した。
 忠臣と名高い伯爵ですら『親』を捨てられなかったというのに。


『死んだ後? 勿論、この子の死体は私が貰い受ける。そういう契約だ。私の実験に使わせて貰うよ』

『何を言っている? 有効活用だ。君達、神殿の人間がよく言っているだろう? 資源は大切にしないといけない、エコは大事だとね。私はそれを実践しているだけじゃないか。何かおかしいかい?』


 
 私は筆頭魔術師の事を思い出し、溜息をついた。
 
 死者への冒涜だと言っても聞き入れてはくれなかった。
 むしろ、私の言葉の意味を理解していないかのような態度にゾッとした。


『この子の所有権は私にあるのだよ』

 まるで犬猫のような扱いだと感じた。
 いいや。ペットでも、もっと扱いは良いだろう。

 少女は愛玩動物以下だった。


 憐れに思う。
 死んでまで利用されるのだ。

 国が認めた以上は合法だ。
 内容はどうであれ。

 死体は魔術師達に弄ばれる。

 私も人の事はとやかく言える立場ではない。だが、あの魔術師よりかはマシの部類だと思う。


『元聖女候補、彼女も本当は欲しかったんですけどね』


 下種の声が聞こえた気がして頭を振る。
 
 もう終わった事だ。

 それよりも問題はこちらの方だな。
 各国の神殿に探りを入れて見るか。なにか情報が手に入るかもしれん。




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