19 / 94
~第一章~
19.司祭side
しおりを挟む
伯爵も甘い。
仕事は出来る男だ。
家庭よりも仕事といった仕事人間だというのに。
どうやら娘は可愛いらしい。
名馬と宝剣を与えている。
あの伯爵の事だ。てっきり娘を切り捨てるものだとばかり思っていた。まさか親子の情に流されるとは……。意外だ。
「司祭様」
「どうだった?」
「二人はギルドのままとの報告です」
「国から出たのか?」
「はい」
「それならいい」
「はい……」
随分、疲れた顔をしている。
この者にはスパイ組織の洗い出しを命じていた。それに加えて二人の動向を見張るように命じていた。現場は他の者に任せていた筈だが全体の指揮を執っていたのは彼だ。
未だに正体不明の組織だ。実態が分からない。
「ネズミどもは?」
「……何も吐きません」
「そうか」
「如何なさいますか」
処分するか、それとも……。
まだ早いか。
「生かしておく」
「はい」
「引き続き頼むぞ」
「承知しました」
頭を垂れて部屋を出て行く男に視線を向ける。神殿にまで潜り込まれているとは思わなかった。下っ端の神官見習いではあるがな。
盲点だった。
移民の孤児とは。
孤児が神官になるのは何も珍しくない。幾人といる。
南か……。
あの辺りには獣人も多いからな。
「面倒なことよ」
小さく呟く。
今はまだ泳がせておこう。
だが、もし奴らが動き出したら容赦しない。
やはり国と連携を取った方が良いな。
騎士団を神殿に派遣させるよう進言してみるか。
一度、伯爵と話し合わねば。
あの馬鹿二人は大丈夫だろう。
利用価値がなければ狙われる心配はない。
腕の立つ女剣士。
回復魔法が得意な魔法使い。
冒険者ギルドでは珍しくない二人組だ。
下手に肩書など付けない方が良い。
普通に生きられる筈だ。
「甘いのは私も同じか……」
二人と同じだというのに、宮廷魔術師の末路を思えば甘い処罰だ。あの魔術師は死ぬまで王宮の籠の鳥。利用価値がなくなるまで美しく囀り続けなければならない哀れな少女だ。魔力を吸い取られる苦痛。それは想像を絶する痛みが伴う。
魔力を奪う特殊な指輪。
それを嵌められた者の末路は悲惨だ。
あの少女の魔力量を持っていれば、そう簡単には死なないだろう。成長が若干早くなる程度で済む。これが平均的な魔力量の持ち主ならば一年と経たずに魔力と生命力を吸収されて朽ち果てている。
「娘をそんな目にあわせたくない親心が勝った結果だな」
魔術師の少女にも親代わりはいた。にも拘らず、あの筆頭魔術師は何に躊躇いもなく少女を罰した。
『恩を仇で返されたんですよ?当然の報いでしょう』
『国家反逆者を生かしてあげるんです。寧ろ感謝して欲しいくらいですよ』
『放逐?バカな事を言わないでください。あのレベルの魔術師を野に放つなどとんでもない』
『彼女も国家に尽くす覚悟を持って宮廷魔術師になったです。この処罰は妥当だと思っている事でしょう』
国に忠誠を尽くす見本だと感心した。
忠臣と名高い伯爵ですら『親』を捨てられなかったというのに。
『死んだ後? 勿論、この子の死体は私が貰い受ける。そういう契約だ。私の実験に使わせて貰うよ』
『何を言っている? 有効活用だ。君達、神殿の人間がよく言っているだろう? 資源は大切にしないといけない、エコは大事だとね。私はそれを実践しているだけじゃないか。何かおかしいかい?』
私は筆頭魔術師の事を思い出し、溜息をついた。
死者への冒涜だと言っても聞き入れてはくれなかった。
むしろ、私の言葉の意味を理解していないかのような態度にゾッとした。
『この子の所有権は私にあるのだよ』
まるで犬猫のような扱いだと感じた。
いいや。ペットでも、もっと扱いは良いだろう。
少女は愛玩動物以下だった。
憐れに思う。
死んでまで利用されるのだ。
国が認めた以上は合法だ。
内容はどうであれ。
死体は魔術師達に弄ばれる。
私も人の事はとやかく言える立場ではない。だが、あの魔術師よりかはマシの部類だと思う。
『元聖女候補、彼女も本当は欲しかったんですけどね』
下種の声が聞こえた気がして頭を振る。
もう終わった事だ。
それよりも問題はこちらの方だな。
各国の神殿に探りを入れて見るか。なにか情報が手に入るかもしれん。
仕事は出来る男だ。
家庭よりも仕事といった仕事人間だというのに。
どうやら娘は可愛いらしい。
名馬と宝剣を与えている。
あの伯爵の事だ。てっきり娘を切り捨てるものだとばかり思っていた。まさか親子の情に流されるとは……。意外だ。
「司祭様」
「どうだった?」
「二人はギルドのままとの報告です」
「国から出たのか?」
「はい」
「それならいい」
「はい……」
随分、疲れた顔をしている。
この者にはスパイ組織の洗い出しを命じていた。それに加えて二人の動向を見張るように命じていた。現場は他の者に任せていた筈だが全体の指揮を執っていたのは彼だ。
未だに正体不明の組織だ。実態が分からない。
「ネズミどもは?」
「……何も吐きません」
「そうか」
「如何なさいますか」
処分するか、それとも……。
まだ早いか。
「生かしておく」
「はい」
「引き続き頼むぞ」
「承知しました」
頭を垂れて部屋を出て行く男に視線を向ける。神殿にまで潜り込まれているとは思わなかった。下っ端の神官見習いではあるがな。
盲点だった。
移民の孤児とは。
孤児が神官になるのは何も珍しくない。幾人といる。
南か……。
あの辺りには獣人も多いからな。
「面倒なことよ」
小さく呟く。
今はまだ泳がせておこう。
だが、もし奴らが動き出したら容赦しない。
やはり国と連携を取った方が良いな。
騎士団を神殿に派遣させるよう進言してみるか。
一度、伯爵と話し合わねば。
あの馬鹿二人は大丈夫だろう。
利用価値がなければ狙われる心配はない。
腕の立つ女剣士。
回復魔法が得意な魔法使い。
冒険者ギルドでは珍しくない二人組だ。
下手に肩書など付けない方が良い。
普通に生きられる筈だ。
「甘いのは私も同じか……」
二人と同じだというのに、宮廷魔術師の末路を思えば甘い処罰だ。あの魔術師は死ぬまで王宮の籠の鳥。利用価値がなくなるまで美しく囀り続けなければならない哀れな少女だ。魔力を吸い取られる苦痛。それは想像を絶する痛みが伴う。
魔力を奪う特殊な指輪。
それを嵌められた者の末路は悲惨だ。
あの少女の魔力量を持っていれば、そう簡単には死なないだろう。成長が若干早くなる程度で済む。これが平均的な魔力量の持ち主ならば一年と経たずに魔力と生命力を吸収されて朽ち果てている。
「娘をそんな目にあわせたくない親心が勝った結果だな」
魔術師の少女にも親代わりはいた。にも拘らず、あの筆頭魔術師は何に躊躇いもなく少女を罰した。
『恩を仇で返されたんですよ?当然の報いでしょう』
『国家反逆者を生かしてあげるんです。寧ろ感謝して欲しいくらいですよ』
『放逐?バカな事を言わないでください。あのレベルの魔術師を野に放つなどとんでもない』
『彼女も国家に尽くす覚悟を持って宮廷魔術師になったです。この処罰は妥当だと思っている事でしょう』
国に忠誠を尽くす見本だと感心した。
忠臣と名高い伯爵ですら『親』を捨てられなかったというのに。
『死んだ後? 勿論、この子の死体は私が貰い受ける。そういう契約だ。私の実験に使わせて貰うよ』
『何を言っている? 有効活用だ。君達、神殿の人間がよく言っているだろう? 資源は大切にしないといけない、エコは大事だとね。私はそれを実践しているだけじゃないか。何かおかしいかい?』
私は筆頭魔術師の事を思い出し、溜息をついた。
死者への冒涜だと言っても聞き入れてはくれなかった。
むしろ、私の言葉の意味を理解していないかのような態度にゾッとした。
『この子の所有権は私にあるのだよ』
まるで犬猫のような扱いだと感じた。
いいや。ペットでも、もっと扱いは良いだろう。
少女は愛玩動物以下だった。
憐れに思う。
死んでまで利用されるのだ。
国が認めた以上は合法だ。
内容はどうであれ。
死体は魔術師達に弄ばれる。
私も人の事はとやかく言える立場ではない。だが、あの魔術師よりかはマシの部類だと思う。
『元聖女候補、彼女も本当は欲しかったんですけどね』
下種の声が聞こえた気がして頭を振る。
もう終わった事だ。
それよりも問題はこちらの方だな。
各国の神殿に探りを入れて見るか。なにか情報が手に入るかもしれん。
68
お気に入りに追加
1,860
あなたにおすすめの小説
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
帰ってこい?私が聖女の娘だからですか?残念ですが、私はもう平民ですので 本編完結致しました
おいどんべい
ファンタジー
「ハッ出来損ないの女などいらん、お前との婚約は破棄させてもらう」
この国の第一王子であり元婚約者だったレルト様の言葉。
「王子に愛想つかれるとは、本当に出来損ないだな。我が娘よ」
血の繋がらない父の言葉。
それ以外にも沢山の人に出来損ないだと言われ続けて育ってきちゃった私ですがそんなに私はダメなのでしょうか?
そんな疑問を抱えながらも貴族として過ごしてきましたが、どうやらそれも今日までのようです。
てなわけで、これからは平民として、出来損ないなりの楽しい生活を送っていきたいと思います!
帰ってこい?もう私は平民なのであなた方とは関係ないですよ?
【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
これが婚約者にもらった最後の言葉でした。
ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。
国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。
やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。
この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。
※ハッピーエンド確定
※多少、残酷なシーンがあります
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2021/07/07 アルファポリス、HOT3位
2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位
2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位
【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676)
【完結】2021/10/10
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~
juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。
しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。
彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。
知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。
新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。
新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。
そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる