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~第一章~
8.宿屋の評判2
しおりを挟むしんみりとした雰囲気になってしまった。
それにしても解せない。
なんで二年後に自殺?
疑問はオヤジの次の言葉で納得した。
「奥さんが消えて自暴自棄になっちまった。宿の経営も芳しくなかったしな。そんな時に、ロイは見ちまったのさ」
「見た?」
何を見たんだろう?
「仕事で三軒隣の町に行っていた時の事さ。自分の女房とジャコモの野郎が小さな子供を連れてまるで家族のように歩いているのをな」
…………あちゃぁぁぁああああ!!!!
そりゃダメだ。
どう考えても修羅場だ。ていうか、何でそんなに近くにいるんだよ!? 普通はもっと遠くに行くべきだろ!
寧ろ、国境を越えろ!!
バカたれ!!!
「……で、その後、どうなったの?」
止めればいいのに、怖いもの見たさで聴いてしまう。
だって気になるもん。
「ロイは当然、半狂乱だ。そりゃそうだろ? 二年間、血眼になって探していた女房が他の男と一緒にいたんだ。しかも男とよく似た子供と三人仲良く手を繋いでな」
あ!お腹の中の子供が自分の種じゃない事にも気付いちゃったのか。それはキツイ。妻の不貞を合わせてのダブルパンチ。
「怒りに任せて、その場でジャコモを殴りかかっていったらしいが、逆に返り討ちにあっちまった」
「……」
気まずい。言葉にするのが憚れるくらいに。
そこは一発殴られてあげるものだよ、ジャコモさん。
「あの男は強いぞ。あんな優男だってのにな。人は見かけによらねぇもんだ。結局、ロイは女房の不貞と不義の子供の存在にショックを受けて首を括ったんじゃないかって話だ」
そう言い終わるとオヤジは溜息をついた。
「なるほど。でも、どうしてロイさんから奥さんを奪った男が宿屋の主人になってるの?それに奥さんと子供は今どこにいるの?」
昨日の今日だ。
僕が気付かなかったってのもあるのかもしれない。それでも、宿に女将はいなかった。通常、宿に付いた場合は女将が率先として挨拶するものだ。それがなかったから「嫁さん貰ってないのか」と思ったし、「まあ、若い主人だから周りが見合いを斡旋してるはずだ」と勝手に解釈してた。
子供だって見かけなかった。
いる筈なのに、存在しない妻子。おかしいよね?
「さあな……それは知らねえ。あの野郎は、一人で町に戻って来たからな」
「一人で?」
なんだか違和感を感じた。だっておかしいだろ? 普通は妻子を伴って来るんじゃ……心がザワザワしてきた。
「ロイが亡くなって暫くたった頃だ。ジャコモの野郎が宿屋の権利書を持って住み着いちまったのさ」
「権利書?」
「土地と建物のな。あの男の仕業は皆知っている。反対したさ。あんな男に住みつかれちまったら、何時また犠牲者がでるか分かったもんじゃない。だが権利をちらつかせられちゃあ役人だって対処できやしねぇ。てっきり偽物だとばかり思ってたが、まさか本物の権利書だったとはな」
「どうやって手に入れたの?」
「さあな。ロイがあの野郎に渡すはずがねぇ。なら怪しいのは女房だろうよ」
「権利書を持ってたってこと?」
「だろうな。町の連中は女房が雲隠れした時にでも権利書を盗んでいったんじゃないかった噂し合ったもんだぜ。まぁ、そうでもなきゃあジャコモの野郎が持っている筈がないからな。俺を含めた町の連中はそれで納得した。だから女房と子供は此処には戻ってこれなかったんだ、とな。それからだ。この辺一帯が活気付いたのは――――」
ガタン!
辻馬車が大きく揺れて止まった。
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