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16.王太子side

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 僕の父上は母上を愛し過ぎている。
 その証拠に母上が二番目の妹を産んだ後に後宮を閉じさせた。

 父曰く、「愛する王妃がいるのに他の妃など不要だ」という理由らしい。

 他にも賢妃と国内外に知られる母上は政治の世界に積極的に介入し、今や『改革の母』とまで呼ばれている。
 国民の支持も厚くて、『慈愛の王妃様』『女神の化身』なんて呼び名まであるくらいだ。

 いつだったか父上が「後宮という場所に閉じ込めていい女性ではない。政治の中枢で活躍するのに相応しい。政策を立てている王妃は美しいだろう?」と自慢気に語っていたことがある。その時は適当に聞き流していたが……。

 まぁ、元々エリート文官だった母だ。

 優秀な頭脳は父上の目に何よりも魅力的に映るのだろう。
「美しいだけの女は三日で飽きる」とも言っていたが、母上にベタ惚れの父上は、僕からしたら気持ち悪いほどだ。

 母上が理性的な女性で良かった。
 これが質の悪い女性ならどうなっていたか……。




「宰相、どうやら父上の決済が必要な書類が混ざっていたぞ?」

 父上のサインを必要とする重要書類を手渡すと、執務室には気まずい沈黙が流れた。
 ん?どうしたんだ?

「これは大変失礼致しました、王太子殿下。実はこれは陛下が殿下に任せるようにと申されておりまして……」
 そう言いながら困ったように眉を下げた宰相。僕に任せるというが、本当にコレを判断していいのだろうか?

「爵位と領地の返上の案件だ。僕の方で処理してしまっていいのか?これだと伯爵家と子爵家は潰れることになるが……?」

「はい。問題ございません」

 いや、問題は大有りだ。
 代替わりして以降、領地経営に失敗する貴族家がいるとは聞いていたが、これは酷い。
 特に伯爵夫妻は土地の管理人に仕事を丸投げしている。
 そればかりか借金までしている。子爵家はその余波を受けて首が回らない状況らしい。
 本来なら寄り親の貴族が救済すべき案件なのだが、何故か寄り親の貴族は一切助けを出そうとしない。寧ろ、領地と爵位を返上すれば良いと考えているようだ。仲が悪いのだろうか?

「寄り親の公爵家からは『元々貴族としての責任を果たさない無能共だ。野に放った方が世のためだ』との報告が上がっております。陛下もその点は同意されているようでして……」

 凄いな。
 寄り親の貴族にそこまで言わせるとは。
 まぁ、確かにこの二家は社交界にも出席していない。親しく付き合っている貴族家も皆無だ。よくこれで今まで貴族としてやってこれたものだと呆れてしまう。

 今は管理人がなんとか領内をまわしているが、そのまま放置しておく訳にもいかない。

「領民の生活に影響が出ていないがそれも時間の問題か」

「はい」

 寄り親の公爵家もそれが解って上奏してきたのかもしれない。
 そう考えると別の意味で良い寄り親の貴族なのか?少なくとも領民からしたら良い貴族だろう。

「わかった。ではこちらで進めさせて貰う」


 こうして僕は二つの貴族を潰すことにしたのだった。

 それは奇しくも両親の結婚二十周年記念の式典が開かれる前日のことだった。




 僕は知らない。
 この伯爵家と子爵家が母上と因縁深い間柄であった事を。
 社交界でハブられ続けた二家。その理由を知る世代はアルカイックスマイルで何も語らない。

 二十年前に社交界から追放された貴族のドラ息子達の記憶など遠い彼方の出来事なのだから……。

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