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6.十二年前1

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 ――十二年前――
 
 
「初めまして、私はヴェリエ侯爵の孫娘、ルーナ・ベアトリクス・ヴェリエと申します」

「ふんっ!いいか!俺はお前なんか認めないからな!」

 いきなりの拒否発言です。
 まともに挨拶ができないアホだと認識した瞬間でした。
 周囲、特に祖父の周りの温度が二度ほど下がった気がします。

「あら?認めないとはどういうことでしょう?婚約は両家で決めたものです。どうしても嫌だと仰るなら御両親に泣いて頼めばよろしいのでは?」

「なんだと!?」

「そもそも、この婚約はそちらの立っての希望だと伺っています」

「そんな訳あるか!!お前が俺に惚れ込んで無理矢理婚約者になったんだろ!!」

「いいえ違います。コーネル伯爵が私の祖父に頼み込んで成立した婚約です。まぁ、両家にとって“良い”と判断された結果でしょうが……。お聞きになっていらっしゃらないのですか?」

「くっ!」

 どうやら本当に聞いていなかったようですね。
 それにしても何故、私が彼を見初めたことになったのでしょう?謎です。初対面ですよ?

「こら、テオドール!も、申し訳ない!ルーナ嬢……」

 御子息の態度の悪さにコーネル伯爵が慌てて謝罪してきました。
 まあ、当然の反応でしょうね。
 
「なかなか愉快な御子息じゃの。伯爵がうちの孫娘を是非とも嫁にと言ってきたわけじゃ」

 おじい様の言葉にコーネル伯爵の顔が真っ青になりました。

「も、申し訳ありません!」

 平謝りしてくる伯爵に同情したくなります。
 
「ふんっ!」

 一方の御子息は不機嫌さを隠すこともなく腕を組んでいます。
 まったく、誰のために伯爵が頭を下げているのか考えつかないのでしょうか?馬鹿な息子を持つと親は苦労するのですね。
 
「子息はどうやら孫との婚約に乗り気ではないようじゃ。儂も無理やり押し付けるつもりはない。ただ、孫の婿殿となるならば、それなりに力をつけて欲しいと思うておる。その辺り理解してくれるとありがたいのだがのう」
 
「いえ……あの……それは……」

「な~~に。今すぐとは言わんよ。御子息は確か十二歳じゃったな」

「は、はい」

「来年からカレッジに通うのじゃろう?」

「はい」

「カレッジは寄宿制じゃ。六年の間に貴族の何たるかを学んでこよう。嫌でも他人と関わるのじゃ。自然と協調性と身の振り方を覚えてくるのが普通じゃ。ほっほっほっ。学校生活で揉まれて成長するじゃろ」
 
「……はい」

「まぁ、十歳の少女に出来る礼儀作法を二つも年上の少年が全くできないのも大変もんだいじゃ。いやいや。カレッジの教育者には儂も伝手があっての。子息のことはよ~~く伝えておくぞ。人としての常識とマナーを最低限は仕込んでくれ、とな」

「「「…………」」」

 言葉に詰まるコーネル伯爵夫妻と、両親の顔色の悪さで何かを察したのか無言になる婚約者(仮)の姿を見るとまるで蛇に睨まれた蛙でした。

 今日の様子からして、御子息は余り優秀ではないようですね。おじい様から事前に聞いてはいましたが実際に見ると想像以上かも知れません。
 
 ただ、御子息に何かあった場合を考慮する必要が有るので私達としても簡単に譲る事はできません。
 それに今回の婚約は両家に利のある事だと思います。
 もし御子息の素行が改善されないようでしたら私達は縁を切るつもりですしね。
 ただ、伯爵の様子を見るとそれはそれで難しそうな気がします。意地でも離さないと食い下がって来る恐れも無きにしも非ず。ここは一つ牽制しておいた方が良さそうですね。

 

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