上 下
93 / 130
~番外編 鈴木夫妻の被害者~

1.安藤玲子side

しおりを挟む
【鈴木グループの危機!!】
【グループ内企業の経営権を巡って内部抗争か?】
【鈴木グループ幹部の相次ぐ逮捕劇 御曹司の関与も!?】
【鈴木グループ、遂に倒産! 】


 鈴木グループの倒産か……。
 新聞の一面を飾っている大企業の終焉。


「ざまぁみろ」

 新聞の見出しを見て私は思わず笑みをこぼした。

 嘗て勤めていた会社の倒産を喜ぶのは私くらいじゃないだろうか。
 それでも彼等のせいで人生を狂わされた人間は私以外にもいる筈だ。主に専務夫婦に……。







 二十五年前――――



「離婚してくれ」

 土下座して頼み込む秀一の姿に唖然とした。
 帰ってきてそれはない。というか、そもそも何で離婚?

「しゅ、秀一……突然、離婚って言われても……」

「頼む!」

 いやいや、「頼む」と言われてもね。

「……理由はなに?」

「そ、それは……」

「なにか理由があって言ってるんでしょう?」

 私の追及に観念したのか、ぽつぽつと夫は経緯を話し出す。
 話をまとめると、会社の重役の娘を妊娠させてしまったらしく、その女性から結婚を要求されている上に相手の両親からも責任を取って娘と結婚するように迫られているので離婚したい、ということだった。
 呆れてものも言えないとはこのことだ。

「それって浮気よね?」

「魔が差したんだ!」

 秀一の言い訳はこうだ。

 仕事から帰ってきても私は子育てに忙しくて相手にしてくれない(当たり前でしょう!息子はまだ4歳なんだから!!)。
 息子は何故か自分に懐かない。抱っこしようとすると嫌がるし泣かれる(それはそうでしょう。気まぐれに相手をする程度。しかも普段からコミュニケーションを取らないダメ親なんだから!)。
 息子に私を取られたような気がして家に居ても疎外感を感じて仕方なかった(あんたが家事育児を全くしないからよ!)。

 だから寂しくて、つい――――という理由だった。

 そんなアホな理由で浮気するバカってこの世にいるんだ。そっちに驚いた。浮気する暇があるなら子育てを手伝え!


「最初は部長の娘だと知らなかったんだ」

 例え、部長の娘じゃなくても手を出したらダメでしょうが!あんたは既婚者!!

 詳しく聞けば、部長とは職場でもほとんど接点がなくて知らなかったと言う。そして偶然、部長の娘と二人きりで食事したのを皮切りにズルズルと。

「彼女が相談にのって欲しいって言ってきたんだ。だから……」

 だからじゃないでしょ!
 あんたは何やってんの!!
 私は頭を抱えながら溜息をついた。
 バカ過ぎる。
 呆れてモノも言えない!

「それと――――」

 まだ何かあるのか?と思った私は悪くないだろう。ここまでで十分お腹いっぱいなんだから。

「せ、専務夫妻が早く結婚しろって言ってって……」

「どうしてそこに専務夫妻が絡んでくるの?」

「そ、それが……」

 秀一を締め上げたい衝動にかられた。
 なんでも、専務夫妻と部長の娘は知り合いらしい。知り合いというよりも専務と部長の娘は小さい頃に遊んだ事がある間柄だとか。しかも専務夫妻の後輩にあたると……。

「どういうこと?」

「高校が同じなんだよ」

「ああ、そういう繋がり」

「専務夫妻を結婚式に呼ぶから部長が『娘と早く結婚しろ』って言うんだ」

 要するに、引くに引けなくなってるってことね。まったく。

「頼む!別れてくれ!!」

 頭を下げる秀一の姿は情けないの一言に尽きた。シリアスな場面なのになんだか聞いてるこっちが溜息が出るくらいに白々しく感じた。これほど中身のない土下座は中々見ないだろうとも思ったほどだ。

しおりを挟む
感想 372

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

離婚4回の女伯爵は、今日も絶壁の貴公子を探す〜私を愛することなく結婚してくれませんか?〜

白猫
恋愛
ジェルメーヌ・ラチェイド女伯爵は、結婚相手を探している。それも「絶壁の貴公子」を。彼女にとって絶壁とは、いわゆる後戻りも前進もできない「断崖絶壁」な状況に置かれていることを言う。多少の問題を抱えてはいるものの容姿は完璧なジェルメーヌ、そんな彼女が徹底して「悲惨な男性」を求め続ける理由とは?そして、普通の結婚にはない条件「ジェルメーヌを絶対に愛さないこと」を守り抜いてくれる男は現れるのか?5回目の今回が、ジェルメーヌにとってのラストチャンス。「恋人に一生を捧げ、決して私に惚れない男」カモーン!! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

乙女ゲーのヒロインに転生しましたが、悪役令嬢によって攻略済みの世界でした~スローライフ希望なのでそれでオッケーです!~

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
ゲーマーである主人公・花藤瀬利(かとうせり)は、大学からの帰り道に事故に合い、気が付くと、瀬利が発売当日から毎日遊んできた、『黎明のアルケミスト』という女性向けゲームのヒロインに生まれ変わっていた。 わくわくしながらゲームの世界に浸る瀬利だったが、攻略対象のキャラクター達に違和感を抱く。  メイン後略の彼も、ユーザー一番人気の彼も、果ては隠し攻略キャラの彼さえも、全ての攻略キャラがライバルヒロインキャラにベタ惚れだったのである。  瀬利より一足先にライバルヒロインへと転生していた少女・比菱あかりによれば、トゥルーエンドに存在する自らの死を回避するべく行動していたら、攻略キャラすべてがあかりに好意を抱くように変わってしまっていたのだという。  しかし、瀬利が好きなのは本編の乙女ゲームシナリオではなく、おまけのミニゲームのほう。 攻略対象そっちのけでゲームの世界に浸りスローライフの日々を送る……と思っていたのだが、サブキャラでもなくモブキャラですらない、本編に登場していない幼馴染と恋愛フラグが……? 【この作品は完結済みであるPixiv版を加筆・改稿して掲載しています。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『pixiv』にも掲載しています。】

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...