90 / 130
~一度目~
42.その後2
しおりを挟む
元夫は直ぐに出所しました。
元々、実刑には問われない程度のものだったらしく、裁判も直ぐに終わりました。
しかしその直後に彼は大怪我を負いました。
背後から殴られ、その後にバットのようなもので滅多打ちにされて。
とても酷い現場だったそうです。
元夫をそんな目に合わせた犯人は逮捕されないまま。
犯人は一人ではなく複数いたらしく、未だに捕まっていないようです。
警察は鈴木グループに対して恨みを晴らすために犯行に及んだと見て捜査を行っています。
ですが、元夫はきっと知らないでしょう。
彼自身が憎まれ恨まれている事を。
恨みを買う覚えがないという方ですから。
それでも世間は彼を非難します。
自業自得とはいえ、彼には同情的な意見もあり、今でも腫れ物のように扱われています。
そんな彼の最愛の妻である陽向さんがどうなったかと言うと、日常生活もままならなくなった夫をそれは献身的に支えているそうです。
それだけなら美談で済んだかもしれません。
ですが、住んでいる場所が場所です。
陽向さんの今までの言動や鈴木グループの事を知るご近所の目は冷たいものがあります。
世間の目も冷たい。
陽向さん自身は気にしていないようですが、彼の方はそこまで鈍感では無かったようです。
周囲からの冷遇は、重い障害を負ってしまった彼には相当堪えたでしょう。
精神的に追い詰められても仕方ありません。
耐え兼ねた彼が妻の「引っ越さないか」と提案をしたそうです。それに対して陽向さんは「いいかもしれない」と賛成し、早川家の家を売り払って遠い土地で再出発を図ろうとする始末。
家を売り払うって……。
呆れてモノも言えませんわ。
「彼らは何を考えているのでしょう。ご自宅の名義は陽向さんではありませんでしょう?」
私は不思議に思い、シオンに話しました。
すると彼はあっさりと答えました。
「そこまで考えていないんじゃないか?」
「はい?」
「実際にあの家に住んでいるのは二人だ。彼のことだ、家の持ち主は妻だ、と思っている可能性が高い。だから彼女に提案したんだろう」
「それでは……」
「自分の実家だから自分の持ち物だ、とでも思っているのでは?」
「そんなことあります?」
「普通はない。だが、彼女は普通じゃない」
「……」
言われてみればそうかもしれません。
普通は家や不動産を手放すとあれば、もっと悩むものですし、名義の事にだって敏感になるでしょう。
ですが、陽向さんは違いました。
自分の夫の提案に対して深く考えず、むしろ乗り気です。
「これを機に彼女の父親も娘に見切りが付くのではないか?」
「と、言いますと?」
「実家の家を娘に与えて縁を切るという手もある。孫の事を考えれば娘とその夫は害でしかない」
シオンの読みは当たっていました。
陽向さんのお父様は、陽向さんに家を譲り渡したのです。
「これを機に、娘とは縁を切る」という意思を込めて――――
元々、実刑には問われない程度のものだったらしく、裁判も直ぐに終わりました。
しかしその直後に彼は大怪我を負いました。
背後から殴られ、その後にバットのようなもので滅多打ちにされて。
とても酷い現場だったそうです。
元夫をそんな目に合わせた犯人は逮捕されないまま。
犯人は一人ではなく複数いたらしく、未だに捕まっていないようです。
警察は鈴木グループに対して恨みを晴らすために犯行に及んだと見て捜査を行っています。
ですが、元夫はきっと知らないでしょう。
彼自身が憎まれ恨まれている事を。
恨みを買う覚えがないという方ですから。
それでも世間は彼を非難します。
自業自得とはいえ、彼には同情的な意見もあり、今でも腫れ物のように扱われています。
そんな彼の最愛の妻である陽向さんがどうなったかと言うと、日常生活もままならなくなった夫をそれは献身的に支えているそうです。
それだけなら美談で済んだかもしれません。
ですが、住んでいる場所が場所です。
陽向さんの今までの言動や鈴木グループの事を知るご近所の目は冷たいものがあります。
世間の目も冷たい。
陽向さん自身は気にしていないようですが、彼の方はそこまで鈍感では無かったようです。
周囲からの冷遇は、重い障害を負ってしまった彼には相当堪えたでしょう。
精神的に追い詰められても仕方ありません。
耐え兼ねた彼が妻の「引っ越さないか」と提案をしたそうです。それに対して陽向さんは「いいかもしれない」と賛成し、早川家の家を売り払って遠い土地で再出発を図ろうとする始末。
家を売り払うって……。
呆れてモノも言えませんわ。
「彼らは何を考えているのでしょう。ご自宅の名義は陽向さんではありませんでしょう?」
私は不思議に思い、シオンに話しました。
すると彼はあっさりと答えました。
「そこまで考えていないんじゃないか?」
「はい?」
「実際にあの家に住んでいるのは二人だ。彼のことだ、家の持ち主は妻だ、と思っている可能性が高い。だから彼女に提案したんだろう」
「それでは……」
「自分の実家だから自分の持ち物だ、とでも思っているのでは?」
「そんなことあります?」
「普通はない。だが、彼女は普通じゃない」
「……」
言われてみればそうかもしれません。
普通は家や不動産を手放すとあれば、もっと悩むものですし、名義の事にだって敏感になるでしょう。
ですが、陽向さんは違いました。
自分の夫の提案に対して深く考えず、むしろ乗り気です。
「これを機に彼女の父親も娘に見切りが付くのではないか?」
「と、言いますと?」
「実家の家を娘に与えて縁を切るという手もある。孫の事を考えれば娘とその夫は害でしかない」
シオンの読みは当たっていました。
陽向さんのお父様は、陽向さんに家を譲り渡したのです。
「これを機に、娘とは縁を切る」という意思を込めて――――
125
お気に入りに追加
4,567
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!
桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。
令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。
婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。
なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。
はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの?
たたき潰してさしあげますわ!
そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます!
※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;)
ご注意ください。m(_ _)m
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
離婚4回の女伯爵は、今日も絶壁の貴公子を探す〜私を愛することなく結婚してくれませんか?〜
白猫
恋愛
ジェルメーヌ・ラチェイド女伯爵は、結婚相手を探している。それも「絶壁の貴公子」を。彼女にとって絶壁とは、いわゆる後戻りも前進もできない「断崖絶壁」な状況に置かれていることを言う。多少の問題を抱えてはいるものの容姿は完璧なジェルメーヌ、そんな彼女が徹底して「悲惨な男性」を求め続ける理由とは?そして、普通の結婚にはない条件「ジェルメーヌを絶対に愛さないこと」を守り抜いてくれる男は現れるのか?5回目の今回が、ジェルメーヌにとってのラストチャンス。「恋人に一生を捧げ、決して私に惚れない男」カモーン!!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜
雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。
しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。
英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。
顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。
ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。
誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。
ルークに会いたくて会いたくて。
その願いは。。。。。
とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。
他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。
本編完結しました!
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる