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~一度目~
21.浅田理事長side
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空気が重く感じる。
まさかとは思うが……。というか気のせいであって欲しいのに……現実は残酷だった。
「私がこちらに参ったのは、確認のためです。それと証言は大事ですものね」
「……証言?」
流石に様子がおかしいと女子生徒も感じたのだろう。視線を彷徨わせている。だが誰も彼女と目を合わせようとはしない。目が合えば「状況を説明しろ」と詰め寄ってくるのは明白だ。
重苦しく微妙な空気に精神の図太すぎる女子生徒も口を動かそうとしながら、最終的には黙るしかなかったようだ。それがいい。下手に喋れば更なる墓穴を掘る。
この場にいる大人が何か言えばいいのかもしれない。だが、なんと声を掛ければいいのか分からなかった。
「これは独り言なんですけど――――」
こうして始まった大場夫人の独白。
俺達はそれを静かに聞くしかなかった。
まるで罪人のようだ。
いや、大場夫人に関して言えば、ここにいる全員に罪があった。それも誰一人として「罪」だと自覚しないままいたのだ。
浅成学園から家に存在しない名前の長男について三者面談を求めるという督促状。
学園に問い合わせたら「在籍している長男」という返答。
おかしいと思った夫人は内密に調査したそうだ。学園側の求める日程まで調べられるだけ調べた結果、「大場家の長男」を名乗っているのは夫が外で産ませた子供。それも結婚前の子供だった。そして、なによりもその子供は夫人に極秘で「認知」していた。「認知」するのはいい。だが何故か結婚後に「認知」している事実がそこにあった。この「大場家の長男」がどこの誰かは分からないが、「結婚前に産ませた子供」という時点でその相手とは真剣に付き合っていたとは思えない。遊びだった可能性が高い。なにより――――
「主人は結婚前と後も変わらず女性に大変モテますからね。ですから、私、更に調べましたの。他に隠し子が居ないかどうか。だってそうでしょう?認知しているのは一人でも他にいないとは限らないのだから。そうしたら数人の女性の影がありましたわ。いずれも結婚前ですけどね。でも、その中の一人が女の子を産んでいた事が判明したんです。そうしたら……なんだかおかしくて……。だってそうでしょう?片や男の子は認知しているにも拘わらず、もう一人の女の子は放置されたまま。それも“他人の子供”になってしまってるんですもの」
大場の奴……。
何が「俺の避妊は完璧だ。心配することは無い」……だ。全然完璧じゃねぇ!種をまき散らしてるぞ!!しかも奥さんにバレてるし……。もう嫌だ。この奥さんは何か怖い。修羅場の真っただ中だってのに微笑んでるんだ。逆にこぇ~。
「もっとも、本当に主人の子供かどうかは鑑定してみなければ分かりませんけどね」
大場夫人の長い独白が終わった頃には、全員が青褪めた表情をしていた。
そんな中で大場夫人はおっとりとした笑顔を絶やさずいる。彼女一人を除いては誰も動かない中、彼女は静かに爆弾発言をした。
「私、もう一人の隠し子が女の子だと分かった時、主人に言われた事を思い出しましたの。『もし生まれてくる子供が女の子だったら“めぐみ”がいい』と。『愛と書いて“めぐみ”。良い名前だろう』と言われましたの。珍しい漢字と仮名を使うのだと半ば感心したのを覚えてますわ。ええ、よくある名前。でもね、漢字と読みでは珍しい名前でしょう?お陰で昨日の事のように思い出す事ができたわ」
重い空気が更に重みを増して凍った瞬間だった。
まさかとは思うが……。というか気のせいであって欲しいのに……現実は残酷だった。
「私がこちらに参ったのは、確認のためです。それと証言は大事ですものね」
「……証言?」
流石に様子がおかしいと女子生徒も感じたのだろう。視線を彷徨わせている。だが誰も彼女と目を合わせようとはしない。目が合えば「状況を説明しろ」と詰め寄ってくるのは明白だ。
重苦しく微妙な空気に精神の図太すぎる女子生徒も口を動かそうとしながら、最終的には黙るしかなかったようだ。それがいい。下手に喋れば更なる墓穴を掘る。
この場にいる大人が何か言えばいいのかもしれない。だが、なんと声を掛ければいいのか分からなかった。
「これは独り言なんですけど――――」
こうして始まった大場夫人の独白。
俺達はそれを静かに聞くしかなかった。
まるで罪人のようだ。
いや、大場夫人に関して言えば、ここにいる全員に罪があった。それも誰一人として「罪」だと自覚しないままいたのだ。
浅成学園から家に存在しない名前の長男について三者面談を求めるという督促状。
学園に問い合わせたら「在籍している長男」という返答。
おかしいと思った夫人は内密に調査したそうだ。学園側の求める日程まで調べられるだけ調べた結果、「大場家の長男」を名乗っているのは夫が外で産ませた子供。それも結婚前の子供だった。そして、なによりもその子供は夫人に極秘で「認知」していた。「認知」するのはいい。だが何故か結婚後に「認知」している事実がそこにあった。この「大場家の長男」がどこの誰かは分からないが、「結婚前に産ませた子供」という時点でその相手とは真剣に付き合っていたとは思えない。遊びだった可能性が高い。なにより――――
「主人は結婚前と後も変わらず女性に大変モテますからね。ですから、私、更に調べましたの。他に隠し子が居ないかどうか。だってそうでしょう?認知しているのは一人でも他にいないとは限らないのだから。そうしたら数人の女性の影がありましたわ。いずれも結婚前ですけどね。でも、その中の一人が女の子を産んでいた事が判明したんです。そうしたら……なんだかおかしくて……。だってそうでしょう?片や男の子は認知しているにも拘わらず、もう一人の女の子は放置されたまま。それも“他人の子供”になってしまってるんですもの」
大場の奴……。
何が「俺の避妊は完璧だ。心配することは無い」……だ。全然完璧じゃねぇ!種をまき散らしてるぞ!!しかも奥さんにバレてるし……。もう嫌だ。この奥さんは何か怖い。修羅場の真っただ中だってのに微笑んでるんだ。逆にこぇ~。
「もっとも、本当に主人の子供かどうかは鑑定してみなければ分かりませんけどね」
大場夫人の長い独白が終わった頃には、全員が青褪めた表情をしていた。
そんな中で大場夫人はおっとりとした笑顔を絶やさずいる。彼女一人を除いては誰も動かない中、彼女は静かに爆弾発言をした。
「私、もう一人の隠し子が女の子だと分かった時、主人に言われた事を思い出しましたの。『もし生まれてくる子供が女の子だったら“めぐみ”がいい』と。『愛と書いて“めぐみ”。良い名前だろう』と言われましたの。珍しい漢字と仮名を使うのだと半ば感心したのを覚えてますわ。ええ、よくある名前。でもね、漢字と読みでは珍しい名前でしょう?お陰で昨日の事のように思い出す事ができたわ」
重い空気が更に重みを増して凍った瞬間だった。
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