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8.運転手side
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「この度は娘が大変御迷惑をお掛けしました」
謝罪の言葉を述べる男は早川陽向の父親だ。
わざわざ伊集院家に押しかけて「謝罪だけでも」と言ってきた。父と娘。よく似た思考回路だ。謝れば許されるとでも思っているのか?その考えが理解できない。「お嬢様はご不在です」と言っても帰らない。本当に居ないのだが……。
「申し訳ありませんでした」
本人不在にも拘わらず何度も謝罪の言葉を重ねる男。容姿はまったく似ていないが、流石は親子だ。言動がよく似ている。
お嬢様の家族も今はいない。全員、京都の本邸にいる。留守を預かっている私が対応しているが……。何故か、私に謝って来る。私に謝られても仕方ないのだが……。
「早川様方の謝罪はお嬢様にお伝えはしておきます」
「ありがとうございます」
何故、お礼を言う?
私は伝えると言っただけだ。
「最初に言っておきますが、この件は既に解決しています。慰謝料も全額、鈴木家が支払いましたので」
「はい。知っています。ですが……」
「こう言っては何ですが、ご息女は未成年ではありません。成人済みの大人の女性です。ご自分の不始末はご自分で取れる年齢。そのご息女が起こした不始末で他人に迷惑をかけるのは、筋違いだと思いますよ?」
未成年なら……まだ話は分かる。
親の責任が免れることはないだろうが、親の同意があれば未成年者であっても責任能力が認められることはある。だが……成人後は駄目だ。本人が責任を負わなければならない年齢なのだ。もっとも彼女の場合はそれ以前の問題のように思えるが。
「そもそも、ご息女は『自分が悪い』と思っていません。寧ろ『謝罪したのに許さなかった相手が悪い』とでも考えているのではないのですか?だから、この様に父親である貴男が謝罪にいらっしゃったのでしょう?違いますか?」
私がそう言うと男は黙り込んだ。図星だったようだ。
まったく……。
「伊集院家としましては、鈴木家の関係者と私的に会う事は皆無です。勿論、鈴木家の嫁となるご息女も例外ではありません。その事だけは覚えていてください」
「はい」
本当に理解しているのだろうか?
今一つ解っていないように感じる。
「それは俺達兄弟も同じって事ですか?」
黙って父親と一緒に頭を下げに来ていた青年がそう口にした。その目には強い意志を感じることができた。
なるほど。
どうやら、この青年は親と姉とは違うのかもしれない。自分達の立場をよく解っているのだろう。だからこそ聞いてきた。
「ええ、そうです」
「なら謝ったところでどうにもならないって事ですよね」
「そうです」
「父さん、帰ろう」
「大樹!?」
「謝っても許されない事ってある。姉ちゃんはそれをしたんだ
「だ、だが……」
「それに父さん、この人が言ったように二つの家で決着はついてるんだ。だったらもう、俺らが踏み込む事じゃない。寧ろ、踏み込んじゃいけないんだ。だから」
彼はそう言うと私の目を真っ直ぐに見つめた。
強い眼差しだ……。その目に「まだ子供だな」と言う考えは浮かんでこない。どうやら、少しは物事が見えて入るらしい。それに彼の言う通りで決着がついている話だ。彼らの自己満足で蒸し返されても困る。
「どうやら、ご子息の方が物事を理解されている様ですので私から申し上げる言葉はございません。どうぞお帰り下さい。そして二度とこのような事をしないで頂きたい。まだ学生のお子様もいらっしゃるのですから」
私の言葉に男はポカンとしていたが、青年の方は悔しそうに歯を食いしばっていた。
やはり息子の方が理解が出来ている。だが、その事を父親はまだ認識が出来ていない様だ。そして「娘の方はもっと……」と言った感じだろう。この父親も親として娘を守りたいのだろう。庇いたいのだ。
ただ、子供は娘だけじゃない。男が守らなければならない『子供』は他にもいる。しかも未成年者が三人もいる。そのことをよく考えて行動する必要があった。
謝罪の言葉を述べる男は早川陽向の父親だ。
わざわざ伊集院家に押しかけて「謝罪だけでも」と言ってきた。父と娘。よく似た思考回路だ。謝れば許されるとでも思っているのか?その考えが理解できない。「お嬢様はご不在です」と言っても帰らない。本当に居ないのだが……。
「申し訳ありませんでした」
本人不在にも拘わらず何度も謝罪の言葉を重ねる男。容姿はまったく似ていないが、流石は親子だ。言動がよく似ている。
お嬢様の家族も今はいない。全員、京都の本邸にいる。留守を預かっている私が対応しているが……。何故か、私に謝って来る。私に謝られても仕方ないのだが……。
「早川様方の謝罪はお嬢様にお伝えはしておきます」
「ありがとうございます」
何故、お礼を言う?
私は伝えると言っただけだ。
「最初に言っておきますが、この件は既に解決しています。慰謝料も全額、鈴木家が支払いましたので」
「はい。知っています。ですが……」
「こう言っては何ですが、ご息女は未成年ではありません。成人済みの大人の女性です。ご自分の不始末はご自分で取れる年齢。そのご息女が起こした不始末で他人に迷惑をかけるのは、筋違いだと思いますよ?」
未成年なら……まだ話は分かる。
親の責任が免れることはないだろうが、親の同意があれば未成年者であっても責任能力が認められることはある。だが……成人後は駄目だ。本人が責任を負わなければならない年齢なのだ。もっとも彼女の場合はそれ以前の問題のように思えるが。
「そもそも、ご息女は『自分が悪い』と思っていません。寧ろ『謝罪したのに許さなかった相手が悪い』とでも考えているのではないのですか?だから、この様に父親である貴男が謝罪にいらっしゃったのでしょう?違いますか?」
私がそう言うと男は黙り込んだ。図星だったようだ。
まったく……。
「伊集院家としましては、鈴木家の関係者と私的に会う事は皆無です。勿論、鈴木家の嫁となるご息女も例外ではありません。その事だけは覚えていてください」
「はい」
本当に理解しているのだろうか?
今一つ解っていないように感じる。
「それは俺達兄弟も同じって事ですか?」
黙って父親と一緒に頭を下げに来ていた青年がそう口にした。その目には強い意志を感じることができた。
なるほど。
どうやら、この青年は親と姉とは違うのかもしれない。自分達の立場をよく解っているのだろう。だからこそ聞いてきた。
「ええ、そうです」
「なら謝ったところでどうにもならないって事ですよね」
「そうです」
「父さん、帰ろう」
「大樹!?」
「謝っても許されない事ってある。姉ちゃんはそれをしたんだ
「だ、だが……」
「それに父さん、この人が言ったように二つの家で決着はついてるんだ。だったらもう、俺らが踏み込む事じゃない。寧ろ、踏み込んじゃいけないんだ。だから」
彼はそう言うと私の目を真っ直ぐに見つめた。
強い眼差しだ……。その目に「まだ子供だな」と言う考えは浮かんでこない。どうやら、少しは物事が見えて入るらしい。それに彼の言う通りで決着がついている話だ。彼らの自己満足で蒸し返されても困る。
「どうやら、ご子息の方が物事を理解されている様ですので私から申し上げる言葉はございません。どうぞお帰り下さい。そして二度とこのような事をしないで頂きたい。まだ学生のお子様もいらっしゃるのですから」
私の言葉に男はポカンとしていたが、青年の方は悔しそうに歯を食いしばっていた。
やはり息子の方が理解が出来ている。だが、その事を父親はまだ認識が出来ていない様だ。そして「娘の方はもっと……」と言った感じだろう。この父親も親として娘を守りたいのだろう。庇いたいのだ。
ただ、子供は娘だけじゃない。男が守らなければならない『子供』は他にもいる。しかも未成年者が三人もいる。そのことをよく考えて行動する必要があった。
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