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~ロクサーヌ王国編~

13.父公爵の改革③

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 勿論、なかには下剋上を果たした傑物もいます。
 事業に成功して富を得た下層階級出身の商人。そんな数少ない成功者は始めは真っ当な商売はしていなかった事でしょう。それでも店を持ち、大きく発展させる過程で「まっとうな商人」となっていきます。文字を読み書きできるように家庭教師を雇い勉強し、経済を知るために政治を知る。そうして得た新しい知識と思想に彼らは気付くのです。貴族と富裕層ばかりが優遇されている現実に。かと言って、彼らが政府を批判する事はありません。彼らも優遇される立場ですから。けれど言い難いナニカが常に胸の内にくすぶっている筈です。
 この理不尽な世界に。
 間違っていると声高に叫びたいのに叫べない鬱憤。
 強かな者はその不満をナニカに利用できないかと考えます。
 
 父はそれに気付かない。
 大貴族に生まれ育った弊害でしょうか。持たざる者が「持つ側」になった時の恐ろしさを御存知ない。彼らは時に貴族よりも恐ろしい化け物だわ。強欲はある意味で貴族以上でしょう。

 私が怖いのは、富裕層ブルジョワの強欲さです。

 いつ不満を持つ民衆を誘導するか分かったものではありません。
 なにしろ、ブルジョワ階級は貴族よりもずっと民衆の思想に詳しいのですから。

 それでも彼らも民衆を制御できると思い込んでいる時点で現政権と大差ないのかもしれません。きっと本当の意味で民衆の怖さを知らないのでしょう。



 
「十年は長いのか短いのか……」

「お嬢様?如何なさいました?」

「何でもないわ。お父様が宰相になられて早十年近く経つのだと思うと感慨深いわ」

「旦那様が今回の件をお知りになったら烈火の如くお怒りになります。暫くの辛抱でございます」

「え?」

「旦那様が必ずお嬢様の無実を晴らしてくださいます。それまでは私がお嬢様をお守りいたします」

 ああ、そういえば冤罪をかけられていたわね。
 この街の様子を見ているとそんなものが些細な事のように感じてしまうわ。

「なんにしても国を出る必要があるわ」

「そんな!!」

「王太子殿下の御命令ですもの。無視する事は不敬に値してよ」

「……口惜しいです。皆さま、お嬢様が冤罪だと分かっていて口を閉ざしているのですから」

「それも仕方ないわね。王族に逆らうことは死罪に等しいことですもの」

「お嬢様……」


 悲壮な顔の侍女には悪いけれど、これは好機だわ。
 この危い均衡にある国から脱出する……絶好の機会。

 
 この国は遠くない未来に必ず大きな混乱に見舞われるはずだわ。
 貴族が今までのように頂点に君臨していることが不可能になる事態が必ずやってくる。民衆を無知で無力な存在だと侮っていたツケを払わされる日が訪れるでしょう。

 集団に勝る暴力はないと身をもって知るはず。 

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