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番外編

9.新国王side

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 私の義父であるギヨーム国王陛下。

 『善王』と呼ばれた陛下。
 その一方で『愛に生きた悲劇の王』と噂された。

 何故、悲劇なのかというと、陛下の最初の婚約者が病で亡くなったからだ。
 陛下は亡き婚約者を深く愛していたそうだ。

 夭折した婚約者は僕の大叔母にあたる。 
 肖像画で拝見したことがあるけれど、とても美しい方だった。

 最愛の婚約者を亡くした陛下は、婚約者に似た女性と婚約を結び、結婚された。

 亡き婚約者の身代わりとして。

 王妃は唯一人の妃。
 陛下は側妃をもたなかった。

 王妃が罪を犯し、廃妃になった後も陛下は他の女性を妻に迎えることはなかった。
 それは生涯、変わらなかった。







 リーンゴーン。

 鎮魂の鐘が鳴る。
 王都にいる者は皆、喪服に身を包み、陛下の冥福を祈っていることだろう。

 陛下の遺体は通例通り王墓に埋葬される。
 例外はない。
 陛下の遺言に背く行為だがこれも仕方がなかった。


 陛下自身は王墓ではなく、亡き婚約者が眠るトゥールーズ公爵領の墓に入りたかったらしいが、臣下たちが反対した。反対した中には祖父であるトゥールーズ前公爵もいた。

 ならば、「今は亡き、ローゼリア様を王墓に埋葬するのはどうか」という意見もあったが、こちらも臣下たちによって却下された。
「ローゼリア様は公爵令嬢。王族以外の者を王墓に埋葬できない」という理由で。正論だ。

 婚約者であって夫婦ではない。
 諦めるしかなかった。


「どうか天国でお幸せに……」

 私は小さく呟いた。

 天国で再会しているであろうギヨーム陛下とローゼリア様。
 きっと天国で今度こそ幸せになれるはずだろう。

「陛下、そろそろ時間です」

 侍従の言葉に頷く。
 そして、私は棺に横たわる陛下の顔を見下ろした。
 穏やかな顔だった。
 安らかな死に顔だ。
 もう二度と目を開けることはない。
 そう思うと胸が張り裂けそうになる。

「……さようなら、義父上」

 震える声で別れの言葉を告げた。

 私にとって良き義父だった。
 優しく厳しい人だった。

 涙が一筋頰を伝う。
 最後に見た陛下の顔は微笑んでいるように見えた。

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