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私は恋をしている。
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私は、旦那様に恋をしている。
初めて会ったのは13歳の時だった。彼は2つ年上の男爵家の次男。公爵家当主でありながら、剣術の指導役を務めている父のもとに彼が通い始めたのが出会いのきっかけだ。
漆黒の黒髪がとてもよく似合う端正な顔立ち。それに惹かれた。
でもそれだけではなく、騎士になるために毎日、訓練している姿も、時折見せる負けず嫌いな面も、格好良かった。
そして何より、口数が少なく、感情表現も豊かではない彼が時折見せる笑顔に、私は一瞬で恋に落ちた。
あれから5年が経過して、彼が20歳を超したとき、私たちは結婚した。
公爵家の令嬢である私は、15歳の時に婚約者を決めるにあたり父にお願いしたのだ。彼と婚約し、いずれは結婚したいと。私に甘い父はその話を彼の家に持って行ってくれた。そして彼は了承した。
私の家が公爵家で、彼の家が男爵家だからだ。
◇◇◇
「旦那様、おはようございます」
ユウナは階段から降りてきた夫であるカイトの姿を確認するとスカートを持ち上げ、頭を下げた。
「…おはよう」
「朝食をご一緒してもよろしいですか?」
「構わない」
それがこの夫婦の毎朝の会話だった。その返事にユウナは嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます」
「…ああ」
カイトは自分の定位置に座った。それを見てユウナもその隣に座る。
本来は向かい合って座るのだが、ユウナがこの家に初めて来た夜、隣がいいと主張し、そこから隣に座るようになったのだ。
ユウナはカイトの食事をしている様子を盗み見る。その時間が好きだった。
「旦那様、今日もお昼のお弁当を持って、騎士団の練習場に伺う予定ですが、大丈夫でしょうか?」
「…」
これもいつもの会話だった。「構わない」そう頷くカイトにユウナが嬉しそうにお礼を言う。そこまでが一連の流れのはずだ。
それなのに、何も言わないままカイトは黙っていた。予想していない沈黙が訪れる。
「…旦那様?」
「こなくていい」
「……え?」
一瞬思考が停止した。
どうしてなのか、それが知りたくてユウナはカイトを見るが、カイトは何も言わず、食事を続ける。その様子に、ユウナはそれ以上言葉を続けることはできなかった。
「…承知しました」
「ああ」
会話はそこで終わり、その後は沈黙が流れた。
執事やメイドたちが2人を見ている。その視線が哀れみを含んでいるようで、ユウナは下を向き続けることしかできなかった。
◇◇◇
食事を終え、カイトを送り出したユウナは部屋にこもった。使用人たちに気分が優れないから一人にしてほしいと断りを入れる。
「何がいけなかったんだろう…」
そんな言葉が自然と口から出た。あまりにショックすぎて涙さえも流れない。ただ、ベッドに伏して、カイトの言葉を頭の中で繰り返す。
トントン
部屋のドアを叩く音がした。使用人には自分が出るまで声をかけなくていいと言ってある。だからユウナはその音に応えなかった。しばらくすれば引き返すはずである。
「…」
だから驚いた。ドアが開く音がしたから。
「体調が悪いのか?」
低く、けれどよく通るその声にユウナは慌てて身体を起こした。
「だ、旦那様?どうして?」
「…出迎えがなかったから」
その言葉にユウナははっとして窓の外を見た。青かったはずの空は、薄暗く夜の訪れを知らせていた。
「も、申し訳ありま…」
急いでベッドから降りようとしたユウナの肩に手を触れると、その行動を制した。
「そのままでいい」
「…はい」
「体調が悪いのか?」
俯きかけたユウナの視線に合わせるようにカイトは膝をついてそう尋ねた。
「だ、旦那様!」
「何だ?」
「そんな格好…」
「どうでもいい。大丈夫なのか?」
「…はい。大丈夫です」
「ならいい」
カイトは一つ頷くと立ち上がる。背を向けて出て行こうとしたカイトをユウナは呼び止めた。
「旦那様!」
「…」
「どうして…ここに?」
「…」
「お出迎えできなかったことへのお咎めでしょうか?でもその割には…その…私のことを心配をしてくださっているようで…」
「…」
「その…」
「心配したらだめだったか?」
「え?」
「心配してはいけなかったかと聞いている」
知り合って5年、婚約して3年、結婚して3か月。
長い月日を一緒に過ごしてきた。その間に二人を呼ぶ名前も変わった。それでもこんな風にカイトと言葉を交わしたのは何回あっただろうか。
「心配…してくださったのですか?」
「ああ」
「…どうして?」
「どうして?」
「だって…お昼に会いに行っては…だめだって」
「…」
「心配するのは、…私が、妻だからですか?でも…私たちは…政略結婚ですよ?」
「…体調が悪くないなら、聞きたいことがある」
カイトはユウナの問いに答えず、そう尋ねた。突然の言葉にユウナは驚きながらも頷くことで先を促す。
「どうして…名前で呼ばなくなった?」
「…え?」
あまりにも突然の問いに、ユウナは一瞬反応に遅れた。
「前は名前で呼んでいた」
ユウナの返答を待たず、カイトは言葉を続けた。
確かに結婚するまでは「カイト」と呼んでいた。
それを結婚してから「旦那様」に変えたのだ。
この結婚は貴族と貴族の結婚であり、格上の公爵家が望んだから受け入れただけの政略結婚。それを忘れないようにするために。
「…旦那様のことが……」
「俺のことが…?」
「好き…だから」
好きだから距離を取るべきだと思った。好きだから、ちゃんと自分の立場を理解しなければいけないと思った。愛されているなんて勘違いしないように。これはただのわがままだ。公爵家の令嬢が男爵家の子息に押しつけた政略結婚。
本当の気持ちなど黙っているべきだった。けれど、これ以上嘘をつきたくない。そう思ってしまったのだ。
ユウナの言葉にカイトは目を丸くした。
驚きがあふれるその表情は彼にしては珍しい。
けれどそんなカイトの表情はユウナの目には映らなかった。
彼女は俯いていたから。
カイトの次の言葉が怖くて、ユウナはそっと目をつむる。
耳もふさぎたかったがそれはできなかった。ユウナの細く綺麗な手はカイトの手の中にあったから。
「旦那…様?」
ユウナの両手はカイトに握られている。暖かさがじんわりと伝わる。
その温度がどこか心地よかった。
「カイトだ」
「え?」
「カイト」
「……カイト」
「ああ」
「好き…です。好きなんです」
ユウナはカイトの服の端を掴みながら、すがるようにそう言った。
カイトはユウナの手を握っていた手をそっとユウナの頬に伸ばした。
ユウナの顔を少しだけ上に向かせる。近づいてくるのは端正な顔。
「…ん」
目を閉じることさえできなかった。
気づけば目の前にカイトの顔がある。それが口づけだとはじめて知った。
もう一度近づいてきたそれに、ユウナは、今度は目を閉じる。
「……カイト」
「何だ?」
「…無理、しなくて…いいですよ?」
「何がだ」
「だから、その…口づけとか。その、世継ぎは…そのつくらなくてはいけないですが」
「無理してない」
「…え?」
「したかったからしただけだ」
「…旦那…様?」
「だから、カイト」
「…どうして?どうして名前で呼ばせたり、口づけしたり…」
「好きだから」
「…え?」
「君が好きだ、ユウナ。はじめて会ったときからずっと」
「…何言って…」
カイトの言葉に思考が追いつかなかった。
何を言っているのかわからない。けれど、頬に触れている大きな手はあたたかいままだった。
「好きじゃあ、だめか?」
どこか伺うような視線にユウナは小さく首を横に振った。
「でも、これは、…私のわがままで。…政略結婚で」
「違うよ、ユウナ」
「え?」
「これは恋愛結婚だ。俺はユウナが好きで。ユウナも俺が好き。ただ、それだけだ」
「だって、今までそんなこと…。それに…それに、お昼に会いに行くことも許してはくれないのに」
「…それは」
カイトは口ごもった。ユウナはそんな彼が言葉を続けてくれるのをじっと待った。
「…ユウナが可愛いから」
「…?」
「ユウナが可愛くて、騎士団の奴らが君を盗み見るから、…来て欲しくなかっただけだ」
「…え?」
思いもしなかった言葉にユウナは自分の思考が固まるのがわかった。けれどそんなユウナに構わず、カイトは言葉を続ける。
「ユウナは俺のものなのに。…俺は、気持ちを伝えるのが苦手で、…それに、言わなくても、わかってくれてるってどこかで思ってた」
「…」
「でも、結婚してから距離が離れていくのを感じて…言わなきゃわからないってはじめて気づいたんだ。今まで…傷つけてごめん」
「…カイト」
「なに?」
「本…当に…?」
「…何が?」
「本当に、私のこと…好きなの?」
ユウナの言葉にカイトは胸が締め付けられるようだった。出会ってからずっと好きだった。それなのに、好きだという言葉をこんなに疑うなんて。気持ちが伝わっていない証拠だ。
カイトは、ユウナの頬に触れていた手をそっと外し、彼女の背に腕を回した。引き寄せるように抱きしめる。
「好きだ」
「…はい」
「ユウナが好きだ。本当に好きだ。出会ったときからずっと」
「…」
「一目惚れだった。会うたびに惹かれていった。俺を心配してくれるところとか優しいところも。俺の好きな料理をお弁当に詰めて持ってきてくれるのも好きだった。いつも…言葉が少なくてごめん。…でも本当に好きなんだ」
「私も…」
「うん」
「私も、好き。カイトが好きです」
「…うん」
カイトはユウナの言葉に頷いた。嬉しいのに泣きそうになり、言葉が詰まる。
自分の肩に顔を埋めるカイトの広い背に、ユウナは両手を伸ばした。
◇◇◇
私は旦那様に、ううん、カイトに恋をしている。
そして、カイトも私に恋をしている。
初めて会ったのは13歳の時だった。彼は2つ年上の男爵家の次男。公爵家当主でありながら、剣術の指導役を務めている父のもとに彼が通い始めたのが出会いのきっかけだ。
漆黒の黒髪がとてもよく似合う端正な顔立ち。それに惹かれた。
でもそれだけではなく、騎士になるために毎日、訓練している姿も、時折見せる負けず嫌いな面も、格好良かった。
そして何より、口数が少なく、感情表現も豊かではない彼が時折見せる笑顔に、私は一瞬で恋に落ちた。
あれから5年が経過して、彼が20歳を超したとき、私たちは結婚した。
公爵家の令嬢である私は、15歳の時に婚約者を決めるにあたり父にお願いしたのだ。彼と婚約し、いずれは結婚したいと。私に甘い父はその話を彼の家に持って行ってくれた。そして彼は了承した。
私の家が公爵家で、彼の家が男爵家だからだ。
◇◇◇
「旦那様、おはようございます」
ユウナは階段から降りてきた夫であるカイトの姿を確認するとスカートを持ち上げ、頭を下げた。
「…おはよう」
「朝食をご一緒してもよろしいですか?」
「構わない」
それがこの夫婦の毎朝の会話だった。その返事にユウナは嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます」
「…ああ」
カイトは自分の定位置に座った。それを見てユウナもその隣に座る。
本来は向かい合って座るのだが、ユウナがこの家に初めて来た夜、隣がいいと主張し、そこから隣に座るようになったのだ。
ユウナはカイトの食事をしている様子を盗み見る。その時間が好きだった。
「旦那様、今日もお昼のお弁当を持って、騎士団の練習場に伺う予定ですが、大丈夫でしょうか?」
「…」
これもいつもの会話だった。「構わない」そう頷くカイトにユウナが嬉しそうにお礼を言う。そこまでが一連の流れのはずだ。
それなのに、何も言わないままカイトは黙っていた。予想していない沈黙が訪れる。
「…旦那様?」
「こなくていい」
「……え?」
一瞬思考が停止した。
どうしてなのか、それが知りたくてユウナはカイトを見るが、カイトは何も言わず、食事を続ける。その様子に、ユウナはそれ以上言葉を続けることはできなかった。
「…承知しました」
「ああ」
会話はそこで終わり、その後は沈黙が流れた。
執事やメイドたちが2人を見ている。その視線が哀れみを含んでいるようで、ユウナは下を向き続けることしかできなかった。
◇◇◇
食事を終え、カイトを送り出したユウナは部屋にこもった。使用人たちに気分が優れないから一人にしてほしいと断りを入れる。
「何がいけなかったんだろう…」
そんな言葉が自然と口から出た。あまりにショックすぎて涙さえも流れない。ただ、ベッドに伏して、カイトの言葉を頭の中で繰り返す。
トントン
部屋のドアを叩く音がした。使用人には自分が出るまで声をかけなくていいと言ってある。だからユウナはその音に応えなかった。しばらくすれば引き返すはずである。
「…」
だから驚いた。ドアが開く音がしたから。
「体調が悪いのか?」
低く、けれどよく通るその声にユウナは慌てて身体を起こした。
「だ、旦那様?どうして?」
「…出迎えがなかったから」
その言葉にユウナははっとして窓の外を見た。青かったはずの空は、薄暗く夜の訪れを知らせていた。
「も、申し訳ありま…」
急いでベッドから降りようとしたユウナの肩に手を触れると、その行動を制した。
「そのままでいい」
「…はい」
「体調が悪いのか?」
俯きかけたユウナの視線に合わせるようにカイトは膝をついてそう尋ねた。
「だ、旦那様!」
「何だ?」
「そんな格好…」
「どうでもいい。大丈夫なのか?」
「…はい。大丈夫です」
「ならいい」
カイトは一つ頷くと立ち上がる。背を向けて出て行こうとしたカイトをユウナは呼び止めた。
「旦那様!」
「…」
「どうして…ここに?」
「…」
「お出迎えできなかったことへのお咎めでしょうか?でもその割には…その…私のことを心配をしてくださっているようで…」
「…」
「その…」
「心配したらだめだったか?」
「え?」
「心配してはいけなかったかと聞いている」
知り合って5年、婚約して3年、結婚して3か月。
長い月日を一緒に過ごしてきた。その間に二人を呼ぶ名前も変わった。それでもこんな風にカイトと言葉を交わしたのは何回あっただろうか。
「心配…してくださったのですか?」
「ああ」
「…どうして?」
「どうして?」
「だって…お昼に会いに行っては…だめだって」
「…」
「心配するのは、…私が、妻だからですか?でも…私たちは…政略結婚ですよ?」
「…体調が悪くないなら、聞きたいことがある」
カイトはユウナの問いに答えず、そう尋ねた。突然の言葉にユウナは驚きながらも頷くことで先を促す。
「どうして…名前で呼ばなくなった?」
「…え?」
あまりにも突然の問いに、ユウナは一瞬反応に遅れた。
「前は名前で呼んでいた」
ユウナの返答を待たず、カイトは言葉を続けた。
確かに結婚するまでは「カイト」と呼んでいた。
それを結婚してから「旦那様」に変えたのだ。
この結婚は貴族と貴族の結婚であり、格上の公爵家が望んだから受け入れただけの政略結婚。それを忘れないようにするために。
「…旦那様のことが……」
「俺のことが…?」
「好き…だから」
好きだから距離を取るべきだと思った。好きだから、ちゃんと自分の立場を理解しなければいけないと思った。愛されているなんて勘違いしないように。これはただのわがままだ。公爵家の令嬢が男爵家の子息に押しつけた政略結婚。
本当の気持ちなど黙っているべきだった。けれど、これ以上嘘をつきたくない。そう思ってしまったのだ。
ユウナの言葉にカイトは目を丸くした。
驚きがあふれるその表情は彼にしては珍しい。
けれどそんなカイトの表情はユウナの目には映らなかった。
彼女は俯いていたから。
カイトの次の言葉が怖くて、ユウナはそっと目をつむる。
耳もふさぎたかったがそれはできなかった。ユウナの細く綺麗な手はカイトの手の中にあったから。
「旦那…様?」
ユウナの両手はカイトに握られている。暖かさがじんわりと伝わる。
その温度がどこか心地よかった。
「カイトだ」
「え?」
「カイト」
「……カイト」
「ああ」
「好き…です。好きなんです」
ユウナはカイトの服の端を掴みながら、すがるようにそう言った。
カイトはユウナの手を握っていた手をそっとユウナの頬に伸ばした。
ユウナの顔を少しだけ上に向かせる。近づいてくるのは端正な顔。
「…ん」
目を閉じることさえできなかった。
気づけば目の前にカイトの顔がある。それが口づけだとはじめて知った。
もう一度近づいてきたそれに、ユウナは、今度は目を閉じる。
「……カイト」
「何だ?」
「…無理、しなくて…いいですよ?」
「何がだ」
「だから、その…口づけとか。その、世継ぎは…そのつくらなくてはいけないですが」
「無理してない」
「…え?」
「したかったからしただけだ」
「…旦那…様?」
「だから、カイト」
「…どうして?どうして名前で呼ばせたり、口づけしたり…」
「好きだから」
「…え?」
「君が好きだ、ユウナ。はじめて会ったときからずっと」
「…何言って…」
カイトの言葉に思考が追いつかなかった。
何を言っているのかわからない。けれど、頬に触れている大きな手はあたたかいままだった。
「好きじゃあ、だめか?」
どこか伺うような視線にユウナは小さく首を横に振った。
「でも、これは、…私のわがままで。…政略結婚で」
「違うよ、ユウナ」
「え?」
「これは恋愛結婚だ。俺はユウナが好きで。ユウナも俺が好き。ただ、それだけだ」
「だって、今までそんなこと…。それに…それに、お昼に会いに行くことも許してはくれないのに」
「…それは」
カイトは口ごもった。ユウナはそんな彼が言葉を続けてくれるのをじっと待った。
「…ユウナが可愛いから」
「…?」
「ユウナが可愛くて、騎士団の奴らが君を盗み見るから、…来て欲しくなかっただけだ」
「…え?」
思いもしなかった言葉にユウナは自分の思考が固まるのがわかった。けれどそんなユウナに構わず、カイトは言葉を続ける。
「ユウナは俺のものなのに。…俺は、気持ちを伝えるのが苦手で、…それに、言わなくても、わかってくれてるってどこかで思ってた」
「…」
「でも、結婚してから距離が離れていくのを感じて…言わなきゃわからないってはじめて気づいたんだ。今まで…傷つけてごめん」
「…カイト」
「なに?」
「本…当に…?」
「…何が?」
「本当に、私のこと…好きなの?」
ユウナの言葉にカイトは胸が締め付けられるようだった。出会ってからずっと好きだった。それなのに、好きだという言葉をこんなに疑うなんて。気持ちが伝わっていない証拠だ。
カイトは、ユウナの頬に触れていた手をそっと外し、彼女の背に腕を回した。引き寄せるように抱きしめる。
「好きだ」
「…はい」
「ユウナが好きだ。本当に好きだ。出会ったときからずっと」
「…」
「一目惚れだった。会うたびに惹かれていった。俺を心配してくれるところとか優しいところも。俺の好きな料理をお弁当に詰めて持ってきてくれるのも好きだった。いつも…言葉が少なくてごめん。…でも本当に好きなんだ」
「私も…」
「うん」
「私も、好き。カイトが好きです」
「…うん」
カイトはユウナの言葉に頷いた。嬉しいのに泣きそうになり、言葉が詰まる。
自分の肩に顔を埋めるカイトの広い背に、ユウナは両手を伸ばした。
◇◇◇
私は旦那様に、ううん、カイトに恋をしている。
そして、カイトも私に恋をしている。
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