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第百八話 結婚式(3)
しおりを挟む「…あの、あの、ユーシアス?
ダメだったらダメって言ってくださいね?」
じーっとヴィルテローゼを見つめるユーシアスに
焦りの表情を浮かべた。
やはり騎士団長にそんな時間があるわけがないのかと、
ヴィルテローゼは少し落ち込んだ表情をする。
「……しよう」
「え?」
「したいな、結婚式」
ユーシアスがへにゃりと微笑んでヴィルテローゼの手を握る。
それに何だか、ヴィルテローゼは泣きそうになってしまった。
「大勢呼んでもいいが、領地の領民に祝福されて行う結婚式もいいな。きっと皆祝ってくれるよ」
結婚式を行うことを許してくれたのは嬉しいが、
ユーシアスが前のような柔らかい表情で微笑みかけてくれることが、今は何より嬉しいんだと、気がついた。
目覚めてからのユーシアスはどこか焦ったり少し怒っているように見える硬い表情で、それも心配してくれているようで嬉しかったが
眠りにつく前のような、安心しきって心を許してくれている
自分だけに見せてくれる笑みを見て、
ようやく「帰ってきた」実感が沸いた。
「…どうした?ロゼ」
「い、いえ。領地の方々もお呼びしたいですけど、
皇后陛下やシュリ…しばらく会っていないけどシアンさん、
ツキヤさん、ラビさんもお友達ですから呼びたいです。」
「ああ、多分皇帝陛下も呼ばないと拗ねるから呼ばないとな」
それにクスクスと笑って、ユーシアスの手を握る。
「それと、やっと…帰ってこられたんだなぁって、思って」
握った手は、握り返されユーシアスは安心させるように
ヴィルテローゼを抱きしめた。
「大丈夫、ちゃんとここにいるし、ロゼは俺の奥さんだ。
明日の朝使用人の皆に挨拶して、カフェを無理しないように
もう一度開いて、ドレスを選んで、式で永遠の愛を誓おう。
…それで、起きて笑っていてくれるロゼに、きちんと指輪をはめさせてくれ。」
抱きしめられているのでユーシアスの顔は見ることが出来なかったが、きっと泣きそうな顔をしている気がした。
何事も無ければ、結婚式を挙げて愛を誓っていた日に、
眠るヴィルテローゼにユーシアスは指輪をはめた。
それがどれだけ無念で虚しかったことだろう。
いつ目覚めるか分からない恋人に、誓いの言葉もなく愛を誓う印である指輪をはめたのだから。
だから、今日も明日も明後日も、明明後日もその先も、夫と朝日を迎えて、その日一日を大切に、その一日を幸せと思える日々を
ユーシアスと永遠に歩み続けられますように、とヴィルテローゼは目を閉じる。
「…はい、おやすみなさいユーシアス。
良い夢を」
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