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第六十八話 おしどり夫婦の噂(2)

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「これは今日中に片付けます。
もう休憩に入っていいですよ」

そう言ってゼノから書類を受け取った。
「いや、上官を差し置いて休憩なんてできませんよ」
「十分に働いてくれているのに休ませないなんて…それこそ
上官と言えません。いいから休んで下さい」

騎士団の仕事もかなり大変で、ここのところ少し頭がついていけていない
部分が多い。
剣聖の時は個人的ないイメージが「とりあえず力技で黙らせる」方式だったため、
こうして机と書類とにらめっこしていると学生の時に戻ったみたいに思えてくる。

「そういう上官殿も休んでください。」
「だから私は結構ですから。」

ゼノには悪いが冷たくあしらった。
それに少し一人で集中したいのだ。

「…分かりました」
「ええ。」

やっと出て行ってくれるか…と思ったが、別の来客が執務室を訪れた。
「ゼノの言う通り少しは休んでくれないと困るぞロゼ」
「…!?な、何でいるんですかユーシアス…いえ、団長」

執務室のドアが開き、ユーシアスが入って来る。
「少しは休憩した方がいい。
そう机とにらめっこするものじゃない。」
「でも…」

騎士団長の恋人として、まだ結婚もしていないのに「おしどり夫婦」
なんて噂されることもある。
そしてユーシアスは若く優秀。
その優秀な騎士団長の妻になる者として、やはり自分も優秀でなければならない
という感情が大きい。

ユーシアスは近寄ると頭を撫でてくる。
「すまないなゼノ、少しお前の上官を借りる。
お前は休んでいてくれて大丈夫だから」
「承知いたしました」

ユーシアスがそう言うとゼノはすぐ下がった。
パタン…とドアが閉まってからユーシアスに頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。

「わわ、何ですか…!」
「休め。顔が疲れているぞ。」
そんなに根詰めなくても時間は十分にあるだろう」
「…私あなたの妻になるから、これくらいこなせないとって思って…
ごめんなさい」

ユーシアスの隣にいるためでもあることだから頑張りたいが、
そのユーシアスに迷惑をかけていてはだめだな…と仕方がなく
ペンを下した。

「…そんなことを考えていたのか。
ロゼは大佐の中でもかなり優秀だ、自信を持っていい。
それに…隣にいられるようにと思ってくれるのは嬉しいが、ロゼが何でも完璧にする
必要はない。」
「…はい」

表情をリラックスさせると、ユーシアスがまた頭を撫でてクスリと笑う。
「さ、休憩しようか」
「え!?いや休憩ってそういうっ…」

ユーシアスが首元のボタンを外し始めたのでその手首をつかんだ。
「何だこの手は」
「何だ…じゃないですよ!ここ執務室ですよ!?」
「そういうお前の声の方が大きいと思うがな…」
「…声、我慢できる自信がありません…」

そう言って顔を赤く染めてしまった。
それにゼノが帰ってきたら大変なことになる。

「だから何でお前は拒否する時に限って煽って来るんだ」
「そ、そんなつもりは…!」
「知らないのか?恥じらう姿を見せられると逆にそそられる」
「ふえ!?」

そんなことを言われてしまえばまた頬を赤く染めてしまった気がする。
絶対今ゆでだこのようになっているに違いない、と思った瞬間、
ユーシアスの手を掴んでいた手が緩んでしまう。

「あっ…」
「隙アリ」

さすがに執務室では不味いと思って、逃げようと椅子から立ち上がった時だった。
ガッと両手首を掴まれ、そして机に押し倒された。

「ちょ、ちょっと…!?」
「声、我慢しててな」

やる気満々だこいつ…!とユーシアスを軽く睨んだが、
ユーシアスは怯むことなど絶対ないような余裕の笑みを浮かべている。


「んっ…」

ユーシアスの手がシャツの中に入って来る。
思わす声を上げそうになるが、出来るだけ声を出さないようにしないと、
両手で口を押えた。

「いい子だ。しばらく我慢していてくれ」
「意地悪…!や、ふっ…んんっ…そこっやだ…ぁ」
「静かに。誰か来たらどうするんだ?」

どの口が言っているんだと思うが、始まってしまってはユーシアスは絶対聞かない。
「…じゃあ口でふさごうか」
「え?んむっ…」

キスをしながらもユーシアスの手は止まっていない。
「んっ…んうっ…」

そこでキィ…と鳴った扉の音に、少し顔が青ざめる。
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