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第六十話 剣聖と騎士団(2)
しおりを挟む「あ?」
ハヤテが聖剣アルデアンを取り出したため、戦う姿勢を取る。
「やる気かお前。
いいか、お前は分かってない。
剣聖がどれだけ苦しめられてきたか、傷ついて来たか…
人としての扱いを受けられなかったか、騎士団を責めずにいられなかったかをな…!!」
ハヤテが攻撃を仕掛けてきたのに一瞬遅れ、ブリューナクの蔓でバリアするが
少し間に合わず跳ね飛ばされる。
「かはっ…!!」
「ロゼ!!」
壁に体をぶつけるが、大した損傷はない。
立ち上がりハヤテを睨む。
「…知らない?
ふざけないで…私も剣聖になって間もないけれど…嫌な思いは腐るほど
してきた…、女手一つで育ててくれたお母様に…どんな顔すればいいかわからなかった…。
必死に育ててくれたのに、娘が人殺しになったなら…どんな顔されるか怖かった…。
でも…でもそれは、ユーシアスのせいじゃない」
よろよろと立ち上がり、壇上に戻る。
騎士団長とはいえ、ユーシアスはまだ正式な爵位を持った人物ではない。
こんな大掛かりな提案は王族の…いや、皇帝の許しがないと成り立たないものだろう。
グラディウスが直接来たことを考えるとグラディウスの手も借りたはずだ。
そして王族を納得させるにはかなりの時間がかかる。一年でどうこうできるものでない。
誰もルールをかえようとしなかった。
だがそれを今ユーシアスは変えようとしているのだ。
怒りをぶつけたくなる気持ちは同じ剣聖として十分分かる。
でも怒りの矛先を向ける先がユーシアスではない。
「嫌な思いだってした、苦しい思いだってした、痛かった、悲しかった。
死ぬより辛い思いをした。
そんなの十三人いる剣聖全員そうです。
だけどね、ハヤテ…誰が悪いかって聞かれたら…皆が悪い。」
そう言った瞬間会場がどよめきだす。
「確かに剣聖に汚れ仕事を任せるルールを作った人が悪いですよ。
そのルールを決めた人は剣聖の人権というものを考えていなかった。
だけど…」
ハヤテに右手を向け、ブリューナクでの攻撃を放つ。
すると蔓がハヤテに巻き付き、首を絞める。
「ぐあっ…!!何すんだてめえっ…」
ハヤテが即アルデアンで蔓を切り、地に着地する。
「…そうやって」
「…あ?」
「そうやって、抵抗すればよかったんです。その力があるのに抵抗しなかったのは誰ですか?
ただ私たちはその決まりが当然のように従っていた。
おかしい、こんなの間違ってるって言いながらも、何もせずにルールに従っていた
だけの人間に、騎士団を責める資格はない。
それにそのルールを決めたのは、騎士団でもない。
私たちは、ただ抵抗せずに従っていただけ」
もちろんそれは自分にも言えることだ。
だがここにいる十三人の剣聖は力ずくでもこのルールを変えようとしなかった。
だから誰にも誰かを責める資格はない。
「不敬罪に問われるような発言をしますが、
剣聖が二人いれば騎士団を制圧し、皇帝をも黙らすことなど造作もなかったはずですよ。
もちろん、私だって誰かを責める資格はない。
…本当は、分かってるんじゃないですか」
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