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第五十五話 沈んで沈んで眠れない(2)

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「……罪悪感だと?」

ユーシアスの声色が少し濁ったのに、ビクンと肩を震わせた。

「…すまない。
あぁ、どうすれば伝わるんだ……。」

ユーシアスはくしゃりと髪ををかき、それから
キッと真剣な目で見つめてきた。

「罪悪感な訳があるか。
ロゼには、俺がそんな人間に見えたか。」
「…ちがっ、違います……。
ユーシアスは、優しくて……いつも剣聖の私達に申し訳なさそうにしていたから……っ」
「言っただろう。俺は冗談は言わないし
お前が何人も殺した剣聖でも、公爵令嬢でも、カフェの店長でも気持ちに変わりはない。ずっと好きだったんだ。」

彼の言うずっととは、いつからなのか。
でもそんなことはどうでもよくなるぐらい、今は彼の言葉に溺れていたい。

「…ほんとうに?」
「何回も言わせてくれるな。
……それに、ずっと前からロゼが隠してるつもりのことは
知っていたからな。」

そう言ってユーシアスは額に口付けてくる。
それに心がフワフワとして落ち着かない…が、
「隠していたつもりのことは知っていた」という言葉に一度冷静になる。

「…ん?」
「何だ」
「ちょ、ちよっと待って。
……ずっと前からって、いつからですか」

「ん~?」

呆然として固まった体をヒョイと持ち上げられる。
そして隣にあったベッドに体を降ろされた。


「……ずっと前からだよ」

ベッドに押し倒され、足にユーシアスが口づける。
それでは答えになっていない!!と反論したくなったが、
足への口付けで、ハッとする。

「いつか皇后となるあなたにも、一生の忠誠を」そう
三年前にユーシアスがまだ次期皇后だった自分の足に、
手当をし口付けた。

「…ちょっ、それ三年前!!」
「何か問題あるか」
「なっ、なくもないじゃないですか!」
「だったら何だと言うんだ。」
「そんなに前から……ってことは、ずっと前から、
私もがカフェの店長を始めた初日から気がついてたってことですか!?」

わなわなと体を震わせ、押し倒された姿勢のまま
ユーシアスを見つめた。

「そうだな。」

……ということは、今まで剣聖でいる時わざと冷たい態度を取ったりして、別人と思わせる演技も、いつバレるか心配していた時間が、
完璧に無駄だったという結論にいたる。

「はぁ!?
今まで悩んだ時間も、剣聖でいる間の演技も無駄だったってことですか!?」

「剣聖の時はいつバレるかハラハラしていて可愛かったし、
何よりロゼが悩んでくれなければ今にいたっていないだろう。
決して無駄な時間ではない。」
「……そう言われると、反論できません。」

さすがに三年前から想われていたのには驚いたが、
彼の愛が執着でも依存でも自分の気持ちが変わることは無いのだから、それもいいだろう。

顔を赤くして口ごもると、ユーシアスがふっと微笑んで、
今度は口に口付けてこようとする。

だがそれを避け、ユーシアスの首に手を回した。

「……好きです、ユーシアス。」

耳元で囁くと、ユーシアスの耳が真っ赤に染まったのが見えた。
さっきまで余裕をかましていた人間がこうも照れていると、
少し笑えてくる。

「……まだ伝えていませんでしたので。」
「……言っておくが、俺の気持ちは好きで留まらないからな。
三年間、見つめるだけで触れることも出来なかったから。」

「……じゃあその分今日はいっぱい、触れてくれますか?」
「あまりそういう事を言われると寝かしたく無くなるのだが」
「それは、ちょっと困りましたね…。」
「待ったはナシだからな。」

そう言われて何回も唇を重ねた。

これが依存でも執着でも何でもいい。
その想いが苦しくて、沈んで沈んで、眠れない。
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