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第十一話 ロゼ(1)
しおりを挟む「ねえロゼ…私ね、あなたのこと全然知らなかったのよ」
「え…?」
知らなかった…というのも無理はなかったかもしれない。
なんせ中等部ヴィルテローゼは学院の寮暮らしだったため、
その期間全くと言っていいほど、会うことをしなかった。
「あなた変わってしまったのね。
…いいえ、私がそうさせたの。」
「な、何のことですか?」
「…私が知ってるロゼは、泣き虫で甘えん坊さん。
でも弟のロベインをしっかり守ってくれるお姉さんで、純粋な子。」
そんな時期も…あったかもしれない。
一つ下の弟の前ではそれこそ姉ぶっていたが、隠れて姉のアナスターシャや母に甘えていた。
それで今日あったことを話すのだ。嫌なことがあった日は泣き付いたりもした。
それは年相応の純粋な子供といえただろう。
それに、今は「純粋」などという言葉は当てはまらない。
「…いつからそんな私にそっくりな笑い方を覚えたのかしら。」
「中等部に入ってから…です。」
「そう…。
それと、婚約破棄の件と剣聖に選ばれたという知らせを受けた時、
陛下にあの子に剣聖は務まらないって猛抗議したんだけれど、当然ながら受け入れてもらえなかった。」
「なっ、そんなことを…?」
全然知らなかった…とぽかんと口を開けた。
「ええ。あなたが高等部一年の時に会ったでしょう?
その時あなたは変わりすぎていた。あまりにも昔と違いすぎて、笑顔は全部作り物だし、
生きている感じがしていなかった。
婚約破棄の話を聞いて、剣聖に選ばれたことを知った時ね、
あの純粋な子に剣聖なんて務まるわけないって思ったの。絶対大丈夫じゃないって。
だけど、もうあなたが昔のあなたじゃないって思い出して、自分の娘が大丈夫なのかが分からないことが、
ものすごく嫌で怖かったわ。それにすごく心配した。
昔ならあなたってば単純で、考えていることもそれこそ手に取るようにわかった。
それが今では完璧に仮面をかぶり、何を考えているのか分からない聡明な子。
…でも所詮それは演じている物。なんでも自分のせいにして誰かを庇おうとするところは昔からのロゼのくせ。
だから結局あなた優しくて何も変わっていないの。分かっていたのにその優しさに甘えて、
一人で、悩ませて、そんな演技をさせてしまった。…仕事ばっかり優先して、今思えば、結局は自分が舐められないために頑張ってただけ。完全に母としての在り方を間違えた。
いい、ロゼ。今回のことにあなたが悪いことなんてひとつもありません。
間違ったのは、私なんですから。甘えさせてあげられなかった、母のせいなのです。」
「で、でも剣聖になってしまったのはお母様のせいでは…」
「それは元から誰のせいでもないもの。
あなたが婚約破棄されてなくても聖女の遺跡は反応していたかもしれない。」
確かに、その通りだった。
先走って、全て自分のせいにしようとしていた…かもしれない。
「あなたが私の助けになればいいと努力してくれたこと、
心より嬉しく思います。
…こんなこと言える資格は私にはないし、嫌だったら嫌だと言ってね。
…その、これからも、あなたがどうなろうとも、ロゼは私の可愛い娘だから。
今まで甘えさせてやれなかった分もいっぱい甘えて…欲しい」
下を向いて顔を赤らめ、それからまっすぐな目で自分を見つめる母を見ていると何かが、プツンと切れた音がした。
ずっと糸で引っ張られているような緊張がほどけて、肩の力がストンと抜けていた。
ああ、自分はこの人の娘でいて良いのだと、この家にいても良いのだと。
「あれ…?」
ボロボロと涙が頬をつたって、あふれ出した。
「まあまあ、相変わらず泣き虫さんだこと」
母がハンカチで涙をぬぐってくれた。
「お帰りなさいロゼ。久しぶりね」
「お母さまぁっ…!」
まだ私には「お帰り」と行ってくれる人がいる。
だからもうあの愛想笑いをやめよう。もうそんな演技を、する必要はない。
泣きじゃくること五分、やらかしたという青い顔をローアンは浮かべていた。
「…落ち着いた?」
「…ごめんなさい。」
「謝ることないわ。まだ子供なんですもの。
我がまま言ってもいいんだから…」
「わが、まま…」
悪役令嬢には鉄則である我がままであるような気がするが、
そんなこを考えたこともなかった…。
「あ」
「ん?」
「あの…私の作った料理を食べて下さいませんか?」
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