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第5話 大人しく守られといて下さい

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……はぁ、結構学園に行くのが憂鬱だ。
何せ王家に堂々と喧嘩を売ったようなものだ。
帰ったあとお兄様にめっちゃ怒られたし……。

でも昨日のお出かけは楽しかったなー。
ただ街をブラブラしただけだったけど、普通の15歳の女の子みたいなことが出来て嬉しかった。

後、昨日ぶつかった人……、顔はマントであんまり見えなかったけど、カナの護衛かな。
……視られてたし。
まぁ時期女王になることを約束された人だもんね。護衛くらいつけるか。

「おい、おいシルエ!」
「は、はいっ!」
「何をボケーッとしている。出るぞ」
あ、もう学園についちゃったのか。
「ごめんなさいお兄様。」
「……別に、そんなに怒っていないからな。」
「え?」
「その、昨日はきつく言いすぎた。あの場でお前がしたことは、命を天秤にかけた行為だったが、そこまでしてまでトリスタ令嬢を守りたいと思ったのなら、良い友人を、持ったな。」
「お兄様……」

ごめんなさいお兄様……、そのことは正直あんまり気にしなかったです。
でも、厳しくとも妹思いの良いお兄さんだな。
ちょっと不安が和らいだかも。
「えへへ」
「何を笑っている気待ちの悪い」
は!?やっぱり前言撤回よ!!
「行くぞ」
「はーい」

馬車から降りると、痛いほどの視線を感じた。
……やっぱり見られてるよねぇ。
「……気にするな。」
「……はい」
「おはようございます副会長殿、ルナリス公爵令嬢!」

……んっ?
だ、誰だこの人。待って顔は見たことある。
確か、えーと、えーーっと……、
漫画ではカナにつきまとってた、シーナ・ポワール……様?伯爵家の長男じゃなかったっけ?
「誰だ貴様は」
「シルエ様のクラスメイトのシーナ・ボワールでございます副会長!」

あ、ポワールじゃなくてボワールか。
ごめんなさい。
しかしまぁ、態度がウザイな。あと顔もうるさい。
「で?何の用だ」
「実は提案がありまして!私とシルエ様のお付き合いを認めて下さいませんでしょうか!」

……は?
お兄様がまるで"こういう男が好きなのか?"と言わんばかりにしかめっ面をして私を見た。

それに勢いよくブンブンと首を振った。
「貴族同士でのお付き合いが何を意味するか理解しているのか?」

貴族同士で恋人になる、ということは、結婚前提での付き合いになるということだ。

私が転生前の世界のように、付き合って別れたりがこの世界では簡単に出来ない。
つまり今、私はこの男に結婚を申し込まれているのだ。

「もちろんでございます!」
「はぁ……、どいつもこいつも、シルエが第1王子殿下に興味が失せてから近寄ってくるな。」
「それもありますが、シルエ様はとてもお美しくなりましたので」

「正直な所は褒めてやる。だがな」
ビュッと、お兄様がシーナに手をかざした。
はやい……!お兄様の得意な、風魔法だ。
「うわっ!」
シーナが「ひいっ!?」と尻もちをついた。

お兄様が寸止めでその魔法を止めた。
「こんな簡単な攻撃も避けられないやつに妹は任せられん。後……、誰の妹に目をつけている?私は魔法も勉学も成績上位者の5名しか入れない生徒会のメンバーだぞ。妹に手を出したら風魔法で切り刻んでやる。」
「ご、ごめんなさいいっ」

「行くぞ。」
「はい」
……お兄様めっちゃかっこよくない?
ヤバいわ。これは推せる。
「あの、お兄様ありがとう」
「フン。お前につく嫌な虫は全て排除してやる。堂々としてろよ」
かっこいいいー!!……結局はいい人なんじゃん。
「はい!」

「キーンコーンカーンコーン」

……お昼か。
お腹すきすぎて死ぬかと思った。
バリバリ貴族の令嬢だから授業中にお腹を鳴らすわけにはいかないのだ。
貴族は辛いよ……。
「シル!お昼ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「はい!あ、ターニア様とラピス様は?」
「今日はあの二人家の都合でお休みですの。
2人が来たらまた4人でお昼しましょうね。」

……めっちゃいい子じゃん。知ってるけど。
ホント何でシルエはこんないい子と対立してたんだ。
「ありがとうカナ。」
「今日は天気が良いから外のテラスで食べませんか?」
「いいですね。行きましょ」

「あ、よかった。席空いてますわね」
「はやく席とっちゃいましょうか」
テーブルに歩き始めた時、私たちの前に、黒い手袋が投げつけられた。
「……これは」
黒い手袋は、この国の選ばれし騎士、王族専属護衛を任される、シュヴァリエだけが着用を許される。
手袋が投げつけられるイコール、決闘の申し込みだ。その手袋が、何で…?
「!!」
右からすごい殺気……、そして、強大な魔力の気配。
「カナ!!伏せてっ!!」
「え?」
「バチイインっ!!!!」
急いで結界魔法を張って正解だった。
…今のは、雷魔法か。
イメージするだけで魔法が使えるなんて、さすが異世界ね。

だがそれとは別にルナリス家は魔力に秀でた家系らしいけど。
……今の避けなきゃ死んでたな。

「な、何が起きたの」
カナがものすごく同様していた。
それに周りもざわついてる。
「大丈夫、落ち着いて下さい、カナ。」
「シル!お、お怪我はありませんか?」
「ええ。大丈夫です」

……いったい誰がこんなこと……。
「誰かの決闘の流れ弾かしら……」
「いいえ、流れ弾にしては正確すぎる。これは狙われていた……」
「さすが名門ルナリス家のご令嬢!今のを避けられるとは驚きですよ!!」

高らかに響いた声の後に、カナの方にに第2弾の魔法攻撃が飛んできていた。
「危ないっ!」
ドンッと、カナを突き飛ばす。
…防御が間に合わなっ
「バァンッ!!」
「かはっ……!?」
急いで防御結界を張ったが、遅くてすぐに結界は破られ、私は後方へと吹っ飛ばされ壁に体を打ち付けられた。

「シル!!!!」
……全身痛い。
だけど、あの通り魔に刺された痛みよりかはマシね。……大丈夫、まだ立てる。

よろよろと立ち上がった。
「おや、死んだかと思いましたよ」
「…あなた、シュヴァリエでしょ?こんなことして許されると思っているのかしら。あなたが狙ったのは次期王妃なのよ」
「トリスタ嬢より自分の心配をされては?というか、許されると思っているのか、はこちらのセリフですね。」
「ごちゃごちゃうるさいわね……。で、今のどういう意味かしら」
「初めまして、私は第1王子、ヨルダ殿下の専属騎士のシュヴァリエ、エイナ・イヤルダと申します。」
と、男がこちらに礼をした。

イヤルダ……、同じ公爵家の人間か。
「あなた達のせいで私の主様はすごく絶望的な状況なのに、あなた方は楽しそうにランチしているな、と思った手袋を投げつけてしまいました。」

「…私たちに恨みがあるってわけ。」
「ええ。ですから決闘を申し込みます、シルエ・ルナリス。」
「……いいでしょう。」

こうなったら仕方ない。
決闘を受け取ればもう王家の人間のストップがかかるまで止められない。
こんな所に都合よく王族が現れるわけはないしね…。

漫画で読んだ通り、私の得意な魔法は氷魔法。
息を吸って、吐いて。
しっかりイメージすることが大事。ゆっくりと閉じた目を開けたら、そこはもう私の魔法領域。

パキパキと地面が凍りだして、周りの空気がヒンヤリし始める。

体が痛くて限界だから、せいぜいでかいのを1発食らわせるので精一杯だろうな。


全身に魔力が巡る。
これが出来るチャンスは1回だけ。
……しっかり狙わないとね。

ここだ、そう思った瞬間、魔法を発動した。
「うぐっ……」
氷の雨が、エイナを襲った。結界でバリアを防いでいるが、限界だろう。エイナの魔力障壁が割れ、エイナの左腕に氷の矢が刺さった。

……あ、だめだ。限界
その場にバタンと崩れ落ちた。

だが、エイナの起き上がる気配がした。
まずい、立ち上がらないと……、殺られる。
力を振り絞って、立ち上がろうとした。

「……駆けつけるのが遅くなって申しわけありません、レディ。」
「え…?」
「もう立ち上がらなくて大丈夫です。後は、大人しく守られといて下さい。」







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