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第2話 王太子殿下お断りです
しおりを挟む悪役令嬢のストーリーの中では、必ずと言っていいほど、ヒロインは悪役令嬢の婚約者と結ばれ、叩かれる。そんなのごめん!!
ヒロイン放棄はここからだ。
「おはようシルエ。」
さ、さっそく挨拶してきた……!
この国、リタ王国の王太子、ヨルダ・フォルール・リタ王太子。
いつものシルエなら、
「おはようございまぁす、殿下♥」
と、挨拶する所だが、そういう訳にはいかない。
「おはようございます、殿下。」
「あ、ああ。ずいぶんイメージを変えたのだな。」
「ええ。」
「そ、そうだ。街に新しいカフェが出来たらしい。放課後一緒に行かないか」
「申し訳ありません殿下。私今日用事がございまして……」
「用事?他の者に任せればよかろう」
ダメだこいつ!!ホントに怠け者なんだから……。
「いえ、私がやらねばならないことなのです。
ですから、ごめんなさい」
「そ、そうか。ではいつ行こうか」
「……殿下。私もう殿下とどこかへ行くことや、隣を歩くことはいたしません。」
「え?」
「婚約者がいる殿下につきまとうということが、失礼だったと思ったからですわ。カナリア様にもご迷惑です」
よし、ハッキリ言ってやったぜ!
これでどうだ!
「まさかっ、カナリアに何か言われたのか!?
安心しろ、シルエ。私が想うのはお前だけだし、カナリアにもきつく言っておく!」
……まさかの逆効果だと?
「いえ、カナリア様には決して何も……」
「嘘をつかずとも良い!!」
ダメだ、悪い方にしか行かない……。
……うーん、うーん。そうだっ!
「わ、私をお疑いなのですかっ?」
目にうるうると、涙を浮かばせた。嘘泣きだ。
「!わ、私がシルエを疑うはずないだろう……!」
よっしゃ上手く言った!……チョロいなこの王太子。
「なら、信じて下さいますよね?」
「も、もちろんだ。」
よぉし、何とかなった。ちょっとヒヤッとしたけど、大丈夫でしょ。
「では、失礼いたします。」
……ふぅ、私もなかなかの演技力あるわね。
さすが演劇部だっただけあるわ。
不安そうにこちらを見ていたカナリアにグッと、
親指をたて、笑った。
すると、カナリアは戸惑ったように戸惑って、私と同じように親指をたてて恥ずかしそうに笑った。
……カワイイかよ!!
カナリア様可愛いヤバいよぉ……。
やはりリアルカナリアの力は偉大ね。推せるわ。
「キーンコーンカーンコーン」
……お昼休みになった訳だが、シルエって友達いなかったんだな。多分いつもヨルダと食べていたと思われる。
……うーん、ヨルダに誘われる前に教室を出よう。
ルーチェに渡されたランチボックスを持って教室を出た。
どこで食べようかなぁ……。
「ちょっと!」
「はい?」
「シルエ・ルナリス嬢!お時間よろしいでしょうか」
……出た。カナリアの取り巻き、
男爵令嬢のターニア・ロッテと、子爵令嬢のラピス・クライネ。ちなみにカナリアは私と同じ公爵令嬢だ。
「かまいませんわ。何でしょう」
「こちらへ来てくださいまし!」
うわぁー……、ここ、校舎裏じゃん。
人目につかない所に呼び出して、この人たち性格わるーい……。まぁシルエ・ルナリスの私が言えたことじゃないんだけどね!!
「で、お話とはなんでございましょうか」
「言わなくてもわかっているのではなくって?」
「今日カナリア様とお話されていた内容を言いなさい!」
……この人達、かなりこちらに強く出てくるな。
シルエの家は別に没落しかけている貴族、没落貴族でもないし、ましてや爵位の1番上の「公爵」の家の子女だ。
ターニアとラピスの家の爵位は、下から2番目と最下位の男爵と子爵。
カナリアの友人でもここまで強気に来るとは、カナリアのことを大切に思う心からか。
……貴族の子女同士の友情、いいね最高!
「ちょっと、聞いていますの?」
「ええと、今日カナリア様にお話したのは、今までの無礼のことへの謝罪ですわ。」
あっぶねぇ……、1人脳内お花畑になってたわ。
「謝罪ですって?あなたが?」
「はい。」
「ふざけないでちょうだい!今までカナリア様の忠告を無視し、王太子殿下に付きまとっていたあなたが!?」
……ですよねー。
カナリアは優しく許してくれたけど、この人たちは一筋縄ではいかないらしい。
「カナリア様に聞けば分かることでは?私は、ルナリス公爵家の名にかけて、王太子殿下に近づかないことを約束し、今までの無礼に許しを乞うたのです。」
「い、家の名にかけて、ですって?」
「ほ、本当に?」
「嘘だと思うならカナリア様に後でお聞きになって下さい」
「……分かりました。でももし、その言葉が真実でなかった場合は、許しませんわよ。」
「もちろんでございます。」
これで解放されるかな……。
「後」
まだあるんかい!今度は何よ……。
「あなたが公爵家の令嬢と知りながら、下位の男爵、子爵令嬢が無礼を申しました。
申し訳ありません、ルナリス公爵令嬢。」
「え」
ターニアとラピスがこちらに頭を下げた。
「……顔をお上げ下さいな。こんなに素敵なご友人がいらっしゃるカナリア様が羨ましいですわね。」
と、顔を上げた2人に苦笑いした。
「何をしているの、ターニア、ラピス。」
「「カナリア様!!」」
……ここでカナリアが登場するのは予想外だったな。あ、待って。このままじゃターニアとラピスがカナリアに咎められるかもしれなくない?
「あ、あのカナリア様。」
「今日ルナリス公爵令嬢に謝罪を受けたというお話、本当なのですか?」
「ええ、本当よ。シルエ様は私にルナリス公爵家の名にかけて、誓ってくださいました。」
「……そう、でしたのね。」
「で、あなた達、シルエ様を取り囲んで何をしていたのかしら。まさか、公爵令嬢を呼びつけたの?」
「いっ、いえ……」
「その……」
ターニアとラピスが口ごもる。
「はぁ……、あなた達ね」
「いやぁ、今からお昼をご一緒しようって話してたんですのカナリア様!」
「「えっ」」
2人が間抜けな声を漏らした。
そしてグイッと、ターニアとロッテの腕に手を回した。
「ね?ターニア様、ラピス様」
うんって早くうなづけ!早く!と目配せした。
「そ、そうですの!」
「そのお話をしていただけですの。」
……これで誤魔化せるかな。
「……そう。私の勘違いだったみたいね。
私もご一緒していいかしら」
「もちろんですわ!」
ふぅー、セーフ……。あっぶね。
あぁもう、この学園修羅場すぎるよぉ。
いくつ心臓があっても足りない……。
……で、お昼を一緒に食べることになったのだが、私が入ったことにより、会話ナシだ。
うわぁぁ、ごめんなさいぃい……。
「……シルエ様」
「は、はい!」
口を1番に開いたのは、ラピスだった。
「そちらのお弁当……、とてもおいしそうですわね。誰がお作りになったの?」
「あ、これは侍女が作ってくれて……」
「まぁ、お料理が上手ですのね。」
ターニアも会話に乗ってきてくれた!
「はい。ルーチェっていうんですけど、とってもいい人で、あ、後っ、すごくかわいいんですよ!!」
あ、ヤバ。調子乗りすぎたかも。
侍女がすごくかわいいとか、貴族の令嬢がランチにする話じゃないわ、これ。
……終わったかも。
「……ぷッ、あははははっ……!」
「え」
な、何かカナリアがすごい笑ってる。
いつもならこんな笑い方絶対しないのに……。
「カナリア様……?」
「ご、ごめんなさい。私ったらはしたないわ。
……王太子殿下にしか興味がなさそうだったあなたが侍女がかわいいなんて、可愛い自慢なさるんですもの。お、おもしろくてつい」
と、顔をカナリアが赤らめた。
いや、あんたの方が可愛いわ。
「い、嫌だ私ったら……。そんな変な話」
と、恥じらって見せた。
「いいえ、おもしろかったわ。」
「朝から気になっていたのですけれど、すごくイメージ変えましたわね。何かあったのですか?」
「ええと、やはり前の髪型は子供っぽいですし、この髪もルーチェにしてもらったのです。この髪型でお兄様に挨拶したら、立派になったな……なんて言われてびっくりしましたわ。」
おどけた様に話すと、ターニアもラピスも笑ってくれた。……まさかカナリアを蹴り落とす役のシルエがカナリアとカナリアの友人とランチしているなんて……、不思議でしかないわ。
でも、これはいい傾向、順調だ。
ー三日後 パーティー当日ー
よぉし、なんとかパーティまで王太子を避けまくり、カナリアと仲良くしたぞ。
……ヒロインにあらまじき行動すぎるな。
だけど処刑されるわけにはいかない!これくらいしないとね。
後、漫画ではシルエは堂々と王太子にエスコートしてもらい、会場に入場するけれど、
今日のエスコートはお兄様に頼んであるもんね!!
「コンコンコン」
部屋のドアが鳴った。
「おいシルエ。そろそろ時間だ。行くぞ」
「はい、お兄様」
部屋のドアを開けた。
「……お前、ドレスの趣味変えたな。えらく大人っぽい」
「ありがとうございます。」
ん?今の褒めたのか?まぁいっか。
「しかし、エスコートは王太子殿下にしてもらうだのアホを吐かしていたが、俺でよかったのか」
「まぁ。そんな子供っぽいこともう二度と口にないわ。」
つい三日前の話だけどねー!!
今日を乗り切れば、私はヒロインを放棄できる。
頑張るんだ、私。
前日のシルエの嘘の証言はないから、きっとカナリアが婚約破棄されることはない。
大丈夫、大丈夫。
会場に着く。
「ルナリス公爵家、マナ・ルナリス様、シルエ・ルナリス様のおなーりー!!」
……ただの学園のパーティーでここまでするかね。
だけど、この学園の創造者は国王陛下であり、王太子と王弟が通う学園であるから、このパーティーにも出席している。
とりあえず、貴族は入ったら国王に挨拶だ。
「ご機嫌うるわしゅうございます、国王陛下。」
と、兄と礼をした。
「おお、マナとシルエか。見ないうちに大きくなったな」
「ありがとうございます。」
「良い、下がれ。良い時間を」
「はい。」
……緊張した。国王陛下も優しいお顔をているけど、さすが国王。雰囲気が、ただの貴族とは全然違う。
「……あ」
ダンスの音楽が鳴り始めた。
「……踊るか?」
スっと、兄が手を差し伸べてくれた。
「……お兄様、他の方をお誘いしなくてよろしいんですか?」
「笑うなら笑え。俺が女性とあまり話さないのは知っているだろう。」
……整った顔をしているし、頭もいい。
そして生徒会役員だし、モテないはずはないんだけど……、女性との交流が一切ないよね、お兄様は。
「……ふっ」
「何がおかしい。フン、嫌ならいい。」
あ、すねちゃった。
「いいえ、踊りましょう!」
兄の手を取った。
「あ、おい!」
……ん?私ってダンス踊れるのか?
兄の手を取ってから気がついた。
……でも体が自然に動いた。
はぁ、ヒヤッとした。よかったぁ。
「お前は器用でうらやましいな」
「はい?」
「小さい頃からお前は何でもやってみせる。ほんと、すごいよ」
「はぁ……」
そんなこと言われても、私は昔からシルエだったわけじゃない。……なんかちょっと申し訳ない気持ちになるなぁ。
「どうした?」
「い、いえ。何でもありません」
……ダンスの音楽が鳴り終わった。
ええと、ダンスの音楽が鳴り終わったら、礼しないとね。
「……カナリア・トリスタ!!お前との婚約者を破棄する!!」
は!?
ちょっと待って、何でっ……!
「り、理由をお聞かせ下さい王太子殿下!!」
「お前はシルエ・ルナリスに嫌がらせをしていたそうじゃないか。そんな奴を国母にはできぬ!証言があるのだからな!」
はぁ!?まさかこいつっ……、証言もないのに自分で証言を作ったの!?
「シルエ、こちらにおいで」
気持ち悪いくらい優しい、王太子の声がした。
「……あ、あの」
「いいから来いっ!!命令である!!」
怒鳴られて、身体がビクンと跳ねた。
「怖かっただろうに……。」
側に寄ると、無理矢理肩を抱かれた。
……このポンコツが……、本当に呆れた。
こんな王太子……絶対お断りよ!!
「離してくださいっ!!」
おもいっきり、王太子の手を振り払った。
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