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第1話 まさかのヒロインでした

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「はー、やっぱり悪役令嬢のラブストーリーは良いよねぇ」
「澪はホントに悪役令嬢本好きだよねえ。」
「大好き!最高だよ~。」
悪役令嬢のラブストーリーの漫画を抱きしめて笑った。

ホントにこの本は当たりだ……。
この漫画の主人公は、悪役令嬢役のカナリア・トリスタ。美しくて、勉強も出来る。まさに令嬢の鏡。

カナリアは学園のパーティで、王太子に婚約破棄されるが、その後王弟に告白され、溺愛される。

王太子はヒロイン役のシルエ・ルナリスを溺愛するが、何ともこのヒロインがムカつくのだ。

押されてもないのに、カナリアに押された、と嘘をつき、偽りだらけの証言を王太子に告げていたのだ。しかもこの王太子も顔だけしかいい所ない。

カナリアとの婚約を破棄したら、王宮は大損害なのに、自分勝手に破棄するなんて……。

そして、王太子とシルエは王と王妃になるのだが、
贅沢のしすぎで反乱が起きる。
その先頭に立ったのは、王弟。
最終的に王弟が国王になり、カナリアは王妃に。
王太子とシルエは最終的に処刑される。

……うん!実にスッキリした!
「バイバイ!」
「うん。あ、最近通り魔でるらしいから気をつけなよ?」
「大丈夫だよ。ありがとー」

通り魔、か。
そういえば今日朝のニュースで女子高生が刺されたって言ってたな。
……まあ大丈夫だと思うけどね。
東京の人がざわつく道を歩いていく。こんなに人が多けりゃ大丈夫でしょ。
「ドンっ!」
「あ、ごめんなさい」
人とぶつかってしまった。
「え……?」
ぶつかったのは、肩のはずなのに、お腹、痛い。
恐る恐る、お腹を見ると、ナイフが刺さっていた。
「……!?」
1歩、2歩下がって、倒れた。
「きゃああああっ!!」
1人の女性の声で、皆こちらを向いた。
「女の子が倒れてるぞ!!」
「救急車呼んで!!はやくっ!」
……嘘、でしょ。こんな所で、私死ぬの?
まだ16歳なんですけど……。


「……あれ」
ここは?どこだろう。私……、死ななかったんだ。
「おはようございます、シルエお嬢様。」
「……?」
ゆっくりとベッドから降りた。
「……え?」
何これ、私の髪銀色じゃん……!?
ま、まさかの通り魔に刺されてからの転・生!!
「お、おはよう。」
部屋に入ってきた侍女?に挨拶する。
「おはようございます、お嬢様。今日お嬢様に仕えさせて頂きます、ルーチェでございます。」
「よろしくね、ルーチェ。」

うわぁぁぁ、ルーチェ可愛い!!
オレンジの髪に、緑の瞳っ!お人形さんみたいだよぉ……。これが転生じゃなくてただの夢でも満足!!
さすが異世界ね。

「髪をセットいたしますね。こちらへどうぞ。」
「ええ。」
転生したってことは、悪役令嬢の可能性が高いのでは……?

「髪のセット、終わりましたよ。」
「ありがと……、え?」
ちょ、ちょっと、待ってくれ。
「……あの、ルーチェ。」
「はい。」
「私の、名前、言ってみてくれる?」
「どうしたんですか、そんな質問……」
「いっ、いいから!!」
「何を仰るんですか。……お嬢様はルナリス家のご長女、シルエ・ルナリス様です。」
「!?」
やっぱり、この姿は、見間違えるはずはない。
私、アホ令嬢、シルエ・ルナリスに転生しちゃったんだ……。
赤い瞳にシルバーの髪。ぶりっ子ですとアピールしているようなムカつくツインテール。
間違いない、私はシルエ・ルナリスだ。
……嘘でしょ。何でよりによって、あのポンコツ王子に溺愛され、最終的に処刑されるヒロインに転生してるのよ!!

……考えても仕方ない、か。
私が処刑されない方法は、ただ一つ。
シルエは毎日王太子につきまとっていたから、不思議がられるかもしれないが、今日から王太子に近づかないこと。

確かパーティの前日にシルエは王太子にカナリアから嫌がらせされているという、嘘の証言をし、王太子はカナリアとの婚約破棄を決める。
だったら近づかなければいい。パーティは……三日後か。それまで王太子を避ける。

そして、この3日間でカナリアと仲良くなる。
今まで王太子につきまとっていたことを謝罪し、打ち解ける。じゃないと、カナリアの取り巻きに何されるかわかったもんじゃないのよね……。

王弟殿下には悪いけど、カナリアが王太子とくっつけば、王太子が贅沢しすぎることなんて、ない。
これで全部上手くいく!
……出来ればだけど。ううん、弱気になっちゃダメ!!出来なかったら処刑だから、私!
……その前に
「ルーチェ」
「はい」
「髪型……変えてくれるかしら」
「あら、いつもこの髪型じゃありませんか。」
……てことは、ルーチェは元からルナリス家に仕える侍女なのか。じゃなくて、その前に、このぶりっ子ツインテールをどうにかしたい。
「いいの。この髪型は子供っぽいわ」
「わかりました。」
「大人っぽいのでお願い」
「大人っぽい、ですか。うーん……、では全部下ろされてはいかがですか?」
「下ろす?」
「はい。」
髪につけていたリボンをルーチェはほどき、
くくった後がついた髪にトリートメントを塗った。
「どうですか?」
わぉ、ストレート。でも、いい感じ!
「ありがと、ルーチェ。」

学園の制服に着替えてから、家族が待つリビングへと向かった。
「おはようございます、お父様、お母様、お兄様。」
スカートの端をつまんで、礼をした。
確か、漫画ではこうやって礼をしてた。
「……?」
あれ、返事がない。礼が間違ってたかな。
「あの、皆……?」
「ど、どうしたんだシル!?その髪型はっ……」
お、この人はシルエの兄、マナ・ルナリスだ。
そのマナが、ガタンと立ち上がった。
そんなに驚いて、どんだけシルエはツインテールを愛してたんだ……。
「い、いやぁ、子供っぽいかなぁと、思って?」
「何故疑問形?」
「い、いいじゃありませんか!こっちの方が大人っぽいですし!」
「……立派になったな、シルエ」
髪型変えただけで立派になったって、言い過ぎじゃない……?
まあ、いいか。

「行ってまいります」
「はぁい、行ってらっしゃいシルエ。」
兄と共に家を出た。
確か、シルエは15歳の1年生、兄は3年生、だったよね?
貴族の名門校、フェミルリナ学園。
シルエやカナリア、王太子と王弟も通う学園である。まぁその学園の中でシルエとカナリアは何回も揉めるのだが、今日はそれについての謝罪だぁ……。許してくれるといいけど。

シルエはカナリアの取り巻きに何回か呼び出され、
王太子が助けに入った瞬間、嘘泣きと嘘の証言の嵐。そんなことにはしたくないのよね……。

「着きました」
馬車に乗って30分、ここが、フエミルリナ学園……。
わぁぁ!漫画と一緒だ……。テンション上がる!
いやいや、今日は謝罪がメインなんだから、落ち着こ。
「何をしている、シルエ。行くぞ」
「は、はい。お兄様」

……謝ると決めたはいいけど、いつ謝ろうか。
朝のホームルームまであと1時間ぐらいあるし、
もう朝に謝っちゃおうかな。

「おはようございます」
確か教室に入る時は、あいさつしなきゃダメなんだよね?
「え……」
「あれどなた?」
「声からして、ルナリス公爵令嬢!?」

髪を下ろすだけで皆そんなに驚くのか……?
ええっと……、カナリアの席はっと……。
あそこだ!
うぅわぁ……、生でカナリアを見れるなんて、ヤバい。めっちゃ綺麗……!!

「あ、あのカナリア、様」
「えっと、シルエ、様?」
カナリアの前の席まで行き、声をかけた。
カナリアも私がツインテールじゃなくなったことに若干戸惑っていた。

「その、少しお話があるのですが」
「な、なんのお話でしょうか」
「外でお話しませんか?」
「ここで言えない話ですの?」
これは遠回しに行かないって言われてるな。

「別にここで言ってもかまわないことです。
恥をかくのは、私だけですし、カナリア様が恥をかくことは、一切ございません。ルナリス公爵家の名にかけて、お約束いたします。」
「へぇ。じゃあここで言ってくださる?」
かなり、この女性も強気だ。

スゥと、息を吸って、吐いた。
「カナリア・トリスタ様。
貴方様の婚約者、王太子殿下にしつこく付きまとい、あなたの意見をずっと無視し続けてしまったこと、お詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした。」
「えっ?」
カナリアも拍子抜けだったようで、驚いた声を漏らした。
「もう王太子殿下には近づかないと約束いたします。ですからどうか、お許しいただけないでしょうか。」

「……あなたの家にかけて、誓いますか」
「もちろんでございます。」
「……頭をお上げ下さい。謝って下さっただけで充分ですわ。」
「えっ」
嘘、許してくれた……?
「あなたの言葉を信じます。さすがに家をかけてまで、嘘をつくと思いません。」
「ゆ、許して下さるのですか」
「はい。」
カナリアが、美しい顔で微笑んだ。
「あ、ありがとうございます……!」

手の、震えが止まらない。
よ、よかった……。
「まさかと思うけど、あなた、誰かに脅されて私に謝ったとか……」
「いえ。そのようなことは……」
「じゃあ何故、こんなに震えているの……?」
「許してくれないかと、思っていましたの。
だから、あ、安心して……」
「大丈夫よ。もう、大丈夫だから……」

なんて優しいんだ……。最高かよ……。
さすがはあの本の主人公ね。

……後は、王太子をどうにかしないとね。
ヒロイン放棄作戦は、これからだ。
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